●トミックスN700系・さらなるバリエーション展開

N700系の模型ラインナップに山陽・九州新幹線との直通列車「さくら」「みずほ」で運用されている仕様が加わった。

山陽・九州新幹線直通仕様の車両はJR西日本所有車とJR九州所有車があり、前者がN700系7000番台(S編成)で後者がN700系8000番台(R編成)と呼ばれ、仕様はほぼ同一となっている。模型化に際してはトミックスが手掛けることになり、S編成(通常版)、R編成(通常版)、R2編成(限定版)、R10編成(限定版)、くまモン&くろちゃん(限定版)の5種類のラインナップを用意。東海道・山陽新幹線仕様(カトー製含む)も含めると、N700系の模型は9種類の製品ラインナップがあることになる。

なお、カトーは東海道・山陽新幹線仕様のZ編成を製品化しているが、山陽・九州新幹線仕様については現在のところ製品化のアナウンスはない。

N700系_1101

S・R編成の追加により、N700系フルラインナップが実現!手前からS編成、R編成、N編成(以上トミックス)、Z編成(カトー)。見た目の違いを感じないって?そこは気持ちの問題で・・・

製品のセット構成や価格などの情報は「模型の概要」を参照していただきたい。

山陽・九州新幹線直通仕様のレビューに用いた製品は以下の通り。

  • トミックス JR N700-7000系 山陽・九州新幹線(S編成)
  • トミックス JR N700-8000系 山陽・九州新幹線(R編成)

いずれも通常版の製品で、限定版のR2編成セットはスルーした。さすがに同一仕様のR編成を2つも購入する余裕がなかったのと、8両1セットのS編成に対して、R編成は基本セットと増結セットが分かれている通常版の方が面白そうだったというのが理由である。

また、やはり限定版となるがレインボーラッピングが特徴のR10編成セットも未購入。くまモン&くろちゃんは入手しており、いずれも次ページにコラムとして少しだけ言及した。

なお、当記事では山陽・九州新幹線仕様を「S・R編成」、東海道・山陽新幹線仕様を「Z・N編成」と呼んで区別する。

●基本的な仕様はZ・N編成と同じ

トミックスはS・R編成を模型化するにあたり、既存製品であるZ・N編成をベースにしながらもボディ・床下をすべて新規製作するなど(後述)、比較的大がかりな製品手法をとっている。

とはいえ、通電カプラーや可動幌をはじめ共用しているパーツも多く、各パーツの「合い」や寸法なども同じであるため、全体的なコンポーネントはZ・N編成と同じといってよい。少し乱暴な言い方をすれば、ガワが変わっただけで内容的には従来の製品とほとんど同じである。

もっとも、実車のS・R編成もZ・N編成をベースに開発されており、数多くの点で共通していることも確かだ(N700系はN700系だしね)。模型化にあたり窓配置や塗装などといった部分に手を付けるのは当然としても、必要がなければ基本的な仕様を変更することもないわけで、その意味では模型でもZ・N編成をベースにするのは自然な流れといえるだろう。

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先頭車のボディを外した状態で、左がS・R編成、右がZ・N編成。灯火類のユニットやコクピットには全く同じパーツが使われていることがわかる。


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S・R編成では量産車仕様の床下が新規製作されたが、互換性があるのでZ・N編成にポン付けできたりする。試作車(Z0編成)の床下が流用され再現度が低かったN編成も、床下交換で写真の2号車のように本来の姿に(横長のダクトが4つ並ぶ)。

Z・N編成の床下全てが揃っているわけではないので、完全移植は不可能だが・・・


そういうわけで、Z・N編成から「どこがどう変わったのか」を中心にレビューしていくので、模型の基本仕様についてはZ・N編成のレビューに譲る(改めて読むのはかったるいかも知れないが・・・)。

また、S・R編成は3つの製品があるとはいえ、セット構成と車体への印刷表記が若干異なる程度なので、代表としてR編成(通常版)を、比較に用いるZ・N編成からはN編成をチョイスした。

●ボディはすべて新規製作

S・R編成とZ・N編成は一見良く似ているが、先頭車はシートピッチの関係で客用窓の数に差があったり、Z・N編成にはないグリーン車・普通車合造が存在したりする。また、側面の窓配置は同じでも屋根上の違い(高圧線・ジョイント・ケーブルヘッド・パンタグラフの有無)があったりするため、Z・N編成と共用できるボディが存在しない(窓ガラスパーツは共用されているかもしれないが)。

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Z・N編成の先頭車両は従来車種(300系・700系)と定員を合わせるために中間車よりもシートピッチを若干詰めているが、その手の制約がないS・R編成は中間車とシートピッチが同じであるため座席が1列少なく、結果的に客用窓の数も少なくなっている。

ボディが共用できない理由のひとつである。


また、S・R編成の同一編成中でも共用できる車両は存在しないため、結果的に8車体分のボディがすべて新規製作されている

写真は各形式ごとに海側(左・鹿児島中央寄り)・山側(左・新大阪寄り)・屋根(左・鹿児島中央寄り)の順で掲載。R編成(通常版)の形式番号はインレタで選択できるので末尾番号を「x」とした。

●1号車(781-800x)

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●2号車(788-800x)

動力車は当車両に設定。

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●3号車(786-800x)

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●4号車(787-800x)

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●5号車(787-850x)

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●6号車(766-800x)

グリーン車と普通車が半々というユニークな車両。新幹線でこのような車両は東北・上越新幹線200系の一部(G編成)に存在していただけである。

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●7号車(788-870x)

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●8号車(782-800x)

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●床下も新規製作

N編成は量産車であるにもかかわらず、量産先行試作車(Z0編成)の床下が流用され再現度が低かったという問題があった。失礼ながら正直なところ、筆者はS・R編成もZ0編成の床下でお茶を濁すと予想していたのだが、今回は量産車仕様の床下がきちんと新規製作されている。

なお、S1編成も量産先行試作車だが、実車も含めて床下は量産車と同じである。

N700系_1117

上のN編成は同社Z0編成の床下を流用したので量産先行試作車仕様になってしまっているが、下のR編成ではダクト下端の形状が修正されて量産車仕様になっている。

ちなみに、カトー(Z1編成)は当然下の量産車タイプ。


N700系_1118

台車カバーも量産車仕様になっているが、ライン2本のカトーとは異なり1本のみのタイプとなる。S・R編成ではライン2本タイプは4号車しかないので、こちらを採用したのは正解だろう。ライン本数の作り分けは現実的ではなく、カトーも全車両共用である。


●バリエーション

すべて海側のみで、山側については割愛。表中の(M)は動力車を示す。

使用号車 画像
A 1
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B 2(M),4,5,7
N700系_1114
C 3,6
N700系_1115
D 8
N700系_1116

S・R編成は実車の段階で床下のバリエーションが少ないせいか、実車の形式写真と見比べても代用はなく忠実に再現されている。

S・R編成では横長のダクトが並ぶ床下は、4つ並ぶ「パターンB」しかないため、Z0編成の流用では再現できない事を考えると、新規製作は正解だったといえるだろう。ちなみにこのパターンB、非常に気付きにくいので共用でも問題なかったかもしれないが、2・7号車と4・5号車では山側の小さなハッチの有無で作り分けされていて(これも実車と同じ)、実車を忠実に再現しているといえる。

なお、車端部に関してはZ・N編成(Z0編成)とまったく同じであり、カトーのような作り分けは特にされていない。

Z・N編成と比べると編成両数が少ない(16両→8両)こともあるが、床下に関してはかなり改善されていると考えてよいと思う。ただ、この量産車仕様の床下がN編成の段階で製作されていたらと思うと、ちょっとやるせない気持ちに・・・

●台車は異なる

S・R編成の台車はZ・N編成とは異なり、JR西日本タイプ(500系や同社所有の700系)の「軸梁式」という台車が採用されているが、模型でもこの違いは当然再現されている。

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左がN編成(Z0編成は若干異なる)で、右がS・R編成の台車。S・R編成の台車は500系「さよならのぞみ」、700系E編成「ひかりレールスター」リニューアル版で採用された通電カプラー仕様のものと同一である。

Z・N編成に装備されているJR東海タイプの台車は大柄であるため、トミックスのZ0編成とN編成では台車両端の軸バネが省略されてしまっていたが、S・R編成ではコンパクトなJR西日本タイプの台車のおかげで省略個所はなくなった。

トミックスのZ・N編成のレビューでは床下も台車もいい評価をしなかったが、S・R編成では下回りに関してはほとんど問題点はなくなったと考えてよいのではないだろうか?

●先頭形状とモールド

N700系_1120

前述した灯火類パーツをはじめ、前面窓やコクピットにはZ・N編成と同じパーツを使用しているから、先頭形状はまったく同じである。S・R編成がN700系のバリエーションである以上、先頭形状は同じでなければ困るのも確かだが。

N700系_1121

鼻先のラインが微妙に異なっているが、実車にもある違いである。ちなみに、カトーのZ1編成は左側のラインになっている。


N700系レビュー0013

実車のラインの違い。左がZ・N編成、右がS・R編成。


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全体的な形状は大差ないが、Z・N編成と比べてヘッドライトの輪郭が滑らかになった。肉眼で見る分にはなかなか気付かない点ではあるが、地味ながら改良を加えていることがわかる。


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ブログでもしつこくやったネタだが、S・R編成では先頭部の塗装が床下までまわっているため、それを表現すべく先頭車のボディ・床下のパーティングライン(分割線)の変更が行われている。

Z0編成の床下では再現できないだろうから(塗装表現という手もあるが・・・)、ここも床下が一新された理由だと思う。


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下から見るとパーティングラインの変更がよくわかるが、その他の個所にはほとんど影響はないようだ。

N編成に量産車の床下を移植しようにも、不可能であることもわかってしまったが・・・もともとパターンが足りてないので無理なんだけど。


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全体的なモールドはZ・N編成と大差ない。ただし、写真では見づらいが、Z・N編成では低すぎた客用扉下の手かけの位置がやや上方に修正されている。


N700系レビュー0011

ただ、こうして実車を見ると結構「濃い」感じなので、モールドはもう少し彫が深くてもよかったかもしれない。


Z・N編成で大きく扱った客用扉下部脇にあるドア点検ハッチについては、モールドはほぼ同じである(四隅のボルト表現あり)。Z・N編成と同様にハッチがある個所とない個所が存在するが、S・R編成ではボディの共用がないおかげで忠実に再現されているようだ。

一応、ハッチ位置を掲載しておく。「鹿」は鹿児島中央寄り、「大」は新大阪寄りのドアにハッチがあることを示す。また、「2ドア間に〜」は7号車の業務用扉と客用扉の間を示す。S1編成も含めてS・R編成共通。

号車 海側 山側
1 なし
2 鹿 なし
3 鹿 鹿・大
4 なし なし
5 なし
6
7 2ドア間に1(鹿)・鹿・大 2ドア間に1(鹿)・鹿
8 なし なし

全体的な形状はZ・N編成と同じながら、肉眼では確認が難しいような細かな個所でも、改良や修正が行われている点は好感が持てた。


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