●はじめに

比較レビューに用いる製品は以下の通り。

  • カトー 500系 新幹線「のぞみ」
  • トミックス JR 500系 東海道・山陽新幹線(のぞみ)
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模型であっても、戦闘機のような精悍なスタイリングは健在だ。手前がトミックス、奥がカトー。

いずれも2006年10月以降の製品である。トミックスは一時期2006年10月以前のモデルも所有していたが、リニューアル版を購入する際に売却してしまったので現在は所有していない。

トミックスの7000番台(V編成)「こだま」はこちらで紹介。

各製品ごとの詳細は「模型の概要&製品ラインナップ」ページから「アーカイブ」を参照してほしい。

●先頭形状の比較

●先頭形状

521形(博多寄り先頭車)をサンプルとした。

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ぱっと見でもノーズの先端の塗り分けとかブルーの濃さとかに差があることがわかるが、ここでは形状を中心に比較する。

全体的な形状として、両者500系の戦闘機のような先頭形状は文句なしに表現できていると思う。先端から側面につながるフィンのラインや、スカート周り(トミックスのほうがレール面に近い)に若干の違いはみられるものの、それぞれメーカーの解釈の問題であり、どちらがリアルを論じたり、好みが分かれるほどの差はないといっていいだろう。


とはいえ、形状はほとんど変わらないはずなのに並べてみると結構印象が異なる。おそらく、先頭形状のパーツ構成の違いによる差ではないかと思われる。

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先頭車を分解してみると両者の構成がよくわかる。カトーは運転室周辺のダークグレー部分が別パーツであり、窓枠などはガラスパーツに印刷して表現している。一方のトミックスはノーズ先端から屋根まで1枚で済ませていて、グレーとブルーの塗り分けをパーツ分割で済ませている。窓枠についても屋根パーツに表現されていて、窓パーツはそれにはめ込む形態である。

その結果、カトーはノーズから屋根にかけてのパーツ分割線が見えるし(段差も案外ある)、運転室の窓ガラスもどこか別パーツ然とした印象である。トミックスは全体的な一体感を重視し、分割線を極力表に出さないことにこだわった設計といえるが、カトーはその辺少し妥協しているという感じである。

他の新幹線モデルでここまでパーツ構成が異なる形式はないので分解した図を載せてみたが、重ねてのお願いだが安易な分解は決してしないようにしていただきたい。

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カトーは黄枠で示したようなパーティングライン(金型の分割線)があり、光の当たり具合によっては見えることがある(遠目には気にならない)。トミックスにはこのようなパーティングラインは見当たらない。


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実車編ページで見たような画像だが、ボディと床下の組み合わせも両者で差がある。後方から伸びる太めの分割線から先端に至るまでカトーは階段状に下方に切り欠いているのに対し、トミックスは上方に切り欠いているという違いがある。

正直なところ、これはカトーのほうが処理がうまいと思った。太めの分割線から先は台車カバー周辺のモールド(スジ彫り)に溶け込んでいて、「パーツの分割線」を感じさせないのに対し(ただし、カトーのカタログ写真では結構目立つ。個体差あるかも)、トミックスは一度上方にキックするあたりで分割線が目立ってしまってる。

カトーで惜しいのは乗務員扉真下の分割線上にある切り欠き。実車編で述べたとおり、この切り欠きはW1編成の521形のみに存在するものだが、522形にもモールドされてしまってる。太めの分割線が台車の後方で止まっている以上、カトーが量産車をプロトタイプにしたことは明らかで、この点は残念ながらエラーとなってしまっている。もっとも、トミックスはインレタでW1編成にもできるので(後述)、その場合はやはり実車と異なってしまうが。

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正面顔。かなり拡大していることもあるが、カトーは前面窓ガラスやヘッドライトのパーツの「合い」が少し悪く、トミックスのほうがスッキリしていて落ち着いた印象だ(個体差もあると思うが、東京寄りの522形も同じような感じである)。その他、ノーズ先端は実車では連結器カバーになっているが、その上部にある2つのボルト(?)をトミックスはモールドで表現しているのに対し、カトーは省略している。

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500系の特徴といえばロケットのような丸い断面だが、連結面で比較してみても差はわかりづらい。

下に分解した状態のボディをくっつけて撮影してみたが、本当に「ごくわずか」な差は見受けられるものの、模型を普通に目視するような状況では違いを認識することはほぼ不可能だろう。よって、実質的に差はないと思う。

カトーは「ダイヤフラムカプラー」という幌全体が左右に振れる構造だが、断面形状には影響していないようだ。


●ライト形状

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おおよその形状や位置は両者とも実車と似ているといっていいと思う。ライトの「眼尻」の部分や、周りのダークグレー塗装との位置関係ではカトーのほうが実車に近いようだ(トミックスはダークグレー部分の余白が多い)。

カトーのライトのレンズは前方から挿し込むタイプだが、ライトの前端部に少し切り欠きがあるのと、前述したがパーツの「合い」があまりよくなく、前端部が少しめくれ上がっているような状態なのが残念(上の正面顔の写真でもわかるだろうか)。ただ、ライトパーツのモールドを工夫していることで消灯時に内部にライトがあるような表現はなかなかのもの。

一方トミックスのレンズは下からはめ込むタイプで、レンズパーツはボディのライト部分にぴったりはまり、ツライチに近い状態になる設計・・・なのだが、取り付けたとたんに「落ちて」しまうので、ご覧の通りボティから1段引っ込んだ感じになってしまう(調整は可能)。

いずれにしても、走らせて見る分にはあまり気になる部分でもないのだが・・・

●前面窓

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両者で大きく差のある設計箇所の一つで、カトーはガラスパーツに窓枠を印刷して表現、トミックスはボディ側の窓枠にはめ込む設計となっている。

カトーは塗装で窓枠を表現しているので枠とガラスのツライチ度は申し分ないのだが、ボディとの隙間が小さくないので一体感に欠けるのは否めない。500系の前面窓周囲は止め金具というかフチがあるのだが、それを再現していると考えても周囲の窓枠が太く、ちょっと苦しい気がする。

トミックスは窓枠とガラスパーツが別なのだが、パーツ精度がよいのかツライチ度は悪くなく、一体感はこちらに軍配が上がる。ただ、ガラスパーツの厚みが少し目立つ。断面部にスモークか黒でも色入れしてやると自然な感じになるか?周囲の窓枠(止め金具)の表現は省略されているが、そのモールドがあれば完璧だったかも。窓枠はカトーに比べると若干太いが、強度確保のためにやむを得ないのかもしれない。

なお、実車の前面窓上部にある手すりとワイパーについては両者とも省略されている。

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上部から窓内の運転台コンソールを見てみる。コンソールの先端にはテールライトがあるのだが、それも含めてカトーは前寄り、トミックスは後寄りと位置が結構違っている。

左は実車で、黄色い線がコンソール先端(テールライト位置)、オレンジの線が計器類のフード位置となるが、これを見るとカトーの方が実車に近いといえる。トミックスは結構後退している。

ところで、カトーの運転台はマスコンとブレーキレバーとおぼしきモールドがあるが、実車にはメーターフードがあるし位置的にもこのように見えることはないと思われる。フードは省略されているのでリアルさ重視というより「あの500系のコクピットが見える!」という演出・デフォルメと考えた方がいいだろう。

後継の700系やN700系が短いノーズに空力対策を詰め込んだ結果、複雑な曲線・曲面を用いた先頭形状になっているのに比べると、500系の先頭形状はある意味シンプルである(もちろん空力的な計算はなされているだろうが)。

全体の形状だけなら、どちらも戦闘機のような先頭形状を表現できていて差は少ないといえる。しかし、ここまでの写真を見ての通り、全体的な印象は結構異なって見える。

これはパーツ構成の違い(前面窓やライト、塗装など)から来ているのは間違いないが、元をただせばカトー・トミックス両社のコンセプトというか、設計思想が如実に表れているのではないかと思う。具体的には、模型視点を重視したカトー、間近で眺めることも重視したトミックスという感じである。走行中などのように車両から離れて見る「模型視点」なら、多少のパーツの「合い」の悪さが気にならないことも確かで、カトーがその辺少し妥協しているのは合点のいく話である。一方、トミックスは近くで眺めることにも配慮して一体感を重視している・・・そんな感じではないだろうか。

●車体各部表現

●乗務員ドア

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独特の形状の乗務員ドアだが、全体的な形状と、ドア両側の手すりに周辺の切り欠きはカトーのほうが正確と思われる(ドア本体の前方側にも切り欠きがあることに注目)。

一方、手すりの太さやドアノブについてはトミックスのほうが似ている(カトーのドアノブの出っ張りは表現オーバーではないかと)。また、トミックスは窓周辺のサッシを銀色で表現しているが、カトーは省略している。

その他、ドア下端のモールドの有無にも違いがある(トミックスは消えている)。実車の写真に少しだけ写っているが、ドア上部にある雨どいは両者とも省略されている。

●客用ドア

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大きさ・形状はほぼ同じだが、ここでも下端のモールド表現の差がある。

カトーはモールドが深くドアの表現がはっきりしていて、窓の大きさもわずかに実車に近い。しかし、ドアについている取っ手は下端にあるものだけが表現され、中段にあるやつは省略である。

一方、トミックスはモールドが浅めで、窓も若干小さいようだ。中段の取っ手は表現されているが、製造工程上仕方がないのか、塗装(ダークグレー)が乗りきっていない(車両により個体差はある)。

ドア下部にあるステップの形状はほとんど変わらない。ドア上部には雨どいが表現されているが、位置的にカトーのほうが実車に近いと思う。

●車掌室窓(10号車)

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車掌室窓は開閉可能でサッシがあるが、カトーはモールドはあるが未塗装、トミックスはモールドも塗装もなく他の窓と同じような表現となっている(※「さよならのぞみ」とV編成ではモールドと塗装が追加された)。

実車編でも述べたが、窓のサッシはW2編成以降は無塗装の銀色だがW1編成のみ塗装(しかもダークグレーと青で塗り分け)されている。


●ドア点検ハッチ

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新幹線車両のドア脇には必ずあるハッチで(N700系は付いていない個所もある)、カトーはあっさり枠線だけの表現なのに対し、トミックスは四隅のボルトを再現している。縦横比もトミックスのほうが近い。

ただし、本来は実車のように一段出っ張った状態でハッチがあるのが正解で、この点は両者とも再現されていない。カトーは他形式(700系等)でも表現しない傾向にあるのだが、トミックスは300系などでは表現の実績があるのに省略。車体形状的にモールドが難しいのかも?


実車に対する再現度では両者同じような感じだが、カトーは模型視点を前提にしているかと思うが、走行時でもドアなどの表現がわかるなど濃いめのモールドなのに対し、トミックスはあっさりしている印象である。全体的な表現は一長一短という感じだが、深いモールドでシャキッとした印象のカトーのほうが、筆者個人的には好感が持てた。

●側面窓ガラス

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正面がちに見た場合はあまり差がないのだが、写真2段目・3段目と見ていくと車体に対するガラスの表面位置にかなり差があることがわかる。ツライチに近いトミックスに対し、カトーは相当奥まった位置にある。窓周りのダークグレーは印刷塗装なので仕方がないが、窓枠内の塗り残しも見えてしまってる。

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客用扉の窓も同じように奥まっているし、行先表示機もガラス表現なのだがこちらも奥まっている。ただ、普通の窓についてはこの角度で見る分には上段の写真ほど違和感を感じない。

なお、トミックス旧製品では可動幌というパーツが車体に入ってくる関係で車端の客用扉窓が省略されていたが(これは500系に限らない同社製品の特徴)、2006年10月のリニューアル以降は窓が追加された。

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実車の窓は若干車体との段差があるが、300系と比べると段差は少なくなっているそうだ。ちなみにN700系では完全に段差なしのツライチになっている。

この写真を見てしまうと、やはりカトーはちょっと奥まりすぎかなぁ。


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ボディを外して裏側を見ると、カトー(上)は少しスモークがかかっている。対してトミックスは完全に透明。車体形状が原因だろうか、どちらも窓ガラスパーツを車体から外すのはコツがいる。パーツ破損の原因になるので、安易な分解は避けたい。


カトーの窓の奥まり具合だが、実は同社の同時期の製品(100系グランドひかり、700系など)でも見られる傾向で、500系もその流れに沿ったものだといえる。実際問題として、カトーの窓もいわゆる「模型視点(離れて見る)」ではそんなに違和感を感じるほどでもなく、走行しているところを普通に見るような状況ならあまり問題ない。

ただ、このサイトの写真のように車両の目線に近いというか、しげしげと眺めるような状況では物足りなさを感じることも確かだ。カトーのコンセプトは模型視点重視というのは理解しているが、模型には目線高さで眺めるという楽しみ方もあるのだから。

一方、トミックスは先頭部の設計に通ずるところがあるが、車体との一体感を重視しているのだろう。実車ほどのツライチ度はないが、模型としては十分納得できる窓表現ではないかと思う。

●側面表示機

500系_0320

カトーの行先表示機はガラス表現になっているので、室内等を付けるとここも明るくなる・・・のだが、座席表示機(指定・自由席)はモールドで済ませている。一方、トミックスは両方ともモールドで表現している。

表示機の大きさ・形状・位置はトミックスのほうが実車に近いようだ。ダークグレー塗装との間隔を見てもわかるとおりカトーは少し縦長の傾向で、特に行先表示機は隅が角ばっていて真四角に見える(こういう拡大写真ではなく肉眼で見ると特に)。


ガラス表現のカトーはリッチな印象なのだが、大きさや形状はトミックスに軍配が上がると思う。実車編でも紹介したが、W1編成は角ばっているので、もしかしたらカトーはそっちを参考にしたのかもしれない(ただし、同社のプロトタイプは量産車)。逆に、トミックスはインレタでW1編成に仕立てることもできるが、その場合はやはり異なってしまう。まあ、気にしなければ済むのだが。

なお、カトーは行先・座席表示のステッカーが付属するが、トミックスは付属しない(社外品はある)。このように表示機の形状の違いを考えると、カトーのステッカーをそのままトミックスに流用するのは難しいと思われる(サイズの調整が必要)。


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