●はじめに

比較レビューに用いる製品は以下の通り。

  • カトー 700系 新幹線「のぞみ」
  • トミックス JR 700-7000系 山陽新幹線(ひかりレールスター)
  • トミックス JR 700-3000系 東海道・山陽新幹線(のぞみ)
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手前からカトー(C編成)、トミックス(B編成・E編成)。700系すべての編成バリエーションが楽しめる。

カトーは商品構成変更前の旧製品で、トミックスのE編成は商品構成変更後〜リニューアル前の製品(車端部客用扉に窓ガラスが入っていない)である。

各製品ごとの詳細は「模型の概要&製品ラインナップ」ページから「アーカイブ」を参照してほしい。

●先頭形状の比較

●先頭形状

723形(博多寄り先頭車)をサンプルとした。塗装が同じで比較しやすいことから、トミックスはB編成(3000番台)を用いた。

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両者とも700系の特徴であるカモノハシフェイスをよく再現しているといえる。カトーは若干鼻筋が通っていてシャープな印象だが、全体的な造形はほぼ同じと考えてよいだろう。

違いがあるとすると前面窓の大きさ。カトーはサイド部も含めて上下方向の寸法がやや小さい。また、ヘッドライト周りの銀色塗装の有無も含めて、ライトと前面窓の距離感に差があることもわかると思う。


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実車の写真だがどうだろうか。筆者個人的にはスケール感だけでなく、700系独特の「緩い」印象も含めてトミックスの方が近いと感じるが・・・


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後方からみた形状も両者大きな差は見られないが、前面窓の大きさ(サイド部)の違いがここでもわかるはず。客用扉と客室窓の間隔がカトーのほうが若干狭いのだが、これは同社の新幹線模型は伝統的に車体長が短いので(後述するがトミックスより1mm短い)、その調整分だと思われる。

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真正面からでも前面窓とヘッドライトの距離感が分かる。トミックスのヘッドライトは周囲に銀色が施してあるが角がやや丸目なのに対し、カトーは角がビシッと出ていてシャープな印象だ。ノーズの開口部ラインもカトーの方がくっきり出ているが、両者のプロトタイプは異なるため単純比較はできない(後述する)。

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直接比較には用いなかったが、トミックスの「ひかりレールスター(以下E編成)」もご覧のとおりのなかなかの再現度。

B編成とは発売時期がかなり違うが(E編成の方が先)、形状的にはB編成とまったく同じといっていいだろう。というのは、B編成発売にあたり新規制作されたのはボディと座席パーツ(カプラーの保持も関係)のみで、その他は大部分をE編成と共用しているから。

具体的には、床下・前面窓・ヘッドライト周り、運転席周りのパーツなどがB・E編成共通で、先頭部の形状に差があってはこれらを共用することは難しい。逆にいえば、パーツを共用しているからには形状はほぼ同じといえるわけだ。

それにしても、(実車もそうだが)同じ車両でも塗装で印象が変わるものだ。


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ノーズ部の開口部は実車は製造時期などにより大きさが異なるが(実車編参照)、カトー(左)とトミックスE編成(中)は開口部大、トミックスB編成(右)は開口部小となっていて、それぞれモールド表現されている。

それぞれプロトタイプに忠実なものの表現方法は三者三様で、カトーは2つのモールドのうち先端側が濃く車体側は薄い。また、車体側には本来2つのヒンジがあるが省略されている。

トミックスE編成はカトーと同じ開口部大のタイプだが、こちらは2つのヒンジも表現していて、先端部よりも車体側のラインの方が濃い(逆に先端側は薄い)。トミックスB編成は開口部小タイプだが全体的にモールドは薄い。

個人的に全体的なバランスがいいと思ったのはトミックスE編成。先端部のラインも同じくらいの濃さで表現していれば完璧だったかも。トミックスのB編成は近くで見ても開口部を認識しにくいくらいモールドが薄く、ちょっと物足りないと思った。

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トミックスE編成はノーズ横のパーティングライン(金型の合わせ目)が非常に目立つ。走行中など離れて見る分にはあまり気にならないが、手に持って近くで見るような場合はちょっと気になる(模型には間近で見るという楽しみ方もあるはず)。確かに700系の先頭形状は生産技術的に難しいと思うが、全体的な造形がいいだけに惜しい。


同社のB編成とカトーも同じような位置にパーティングラインがあるが、B編成は「よく見ても」認識できないくらいに改善されている。カトーは「よく見れば」ラインを認識できる程度でやはり目立たない。パーティングラインの処理のうまさはトミックスB編成>カトー>>>>トミックスE編成という感じだろうか(「>」の数は主観・・・)。

トミックスE編成は今後のリニューアルなどで改善されたらいいなと思うが、車体がリメイク(新規制作)されることはほとんどないので期待薄か。車体のグレーは一般的に入手できる塗料もないので(自力で調色するしか)、サンドがけして再塗装というのも難しいし・・・

●ライト形状

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前述したが、ライトの形状や大きさ自体はカトーの方が角が出ている程度であまり違いがない。しかし、トミックスはB・E編成ともにライトの縁を銀色で塗装し、カトーは省略しているという違いがある。ライトのレンズ(ガラス面)もトミックスは比較的ツライチに近いが、カトーは1段奥まっている(遠目には気にならないが)。

ヘッドライトの縁を塗るか否かは0系などでもメーカーの差異として見ることができるが、Nゲージサイズとなるとかなり細いラインとなるため、縁の表現は下手するとライトを必要以上に大きく見せてしまう罠もあり難しい。トミックスの700系は比較的いいバランスだとは思うが、下の実車と比べると縁はやや太めであることは否めない。また、エッジも全体的に丸みを帯びているが、この太さではやむを得ないのだろう。

車体色が白いC編成なら銀色は目立つものではないので、カトーのように省略してしまうというのも方法の一つなのだが、トミックスはE編成を先に発売しているが、こちらはベースがダークグレーなのでライト縁の銀色がないと違和感を感じていたと思うので、塗装する必要はあったし正解といえる。そしてB編成はE編成と整合性をとるのと、技術的には同じであるためライトの縁を表現したのだと思われる。もっとも、この縁の表現によって模型がリッチに見えることも確かである。

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実車も見る角度によって印象が大きく変わるものの、大きさや形状に特に違和感は感じない。ライトの縁はボルト止めになっているが、まあこれはNゲージでの再現は無理だろう。

模型は目じりが切れ長に見えるが、一番下の写真を見るとライトの端の部分に折れ線があり、実車もしかる角度で見ればそんな感じなのだろう。

余談だが一番下の写真、500系が隣にいることに気付いたあなたは鋭い。


●前面窓

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形状自体は似ているものの、前述の通り大きさが異なるというのがよくわかる。サイド部分を見る限りは、トミックスの方が実車に近い大きさだと思う(E編成はまったく同じパーツを使用しているので省略する)。

窓枠は両者とも印刷で表現しており、トミックスにはワイパーも表現されている。実車のサイド部分の窓はスモーク処理されているが、両者とも表現していない。また、実車の前面窓の上部には手すりが2つ付いているが、これも省略されている。

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真上から見ても窓の大きさの差が分かるが、ここではその内部に注目。運転台コンソールの位置や形状に差がある。カトーは前方寄り、トミックスは後方寄りである。

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内部のパーツも表現に差があって面白い。新幹線の運転席にはアームレスト(ひじ置き)があるがトミックスはそれも表現している。コンソールの幅や形状、マスコン・ブレーキのレバー形状も実車に忠実にするなどかなり凝っている。逆にカトーのレバー類はむしろ500系に近いしコンソールも狭い(別の模型の流用だろうか?)

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黄色の長い線が前面窓の縁部分、短い線はコンソールのメーターパネル部分で、こうして見ると位置的にもトミックスの方が実車に近いかもしれない。

実車は前面窓のサイド部がスモーク処理されていることもわかる。


700系から高速化と居住性の両立のために先頭形状が複雑になってゆくのだが、今回比較したカトー・トミックスともに複雑な曲線・曲面を余すことなく再現していて、トミックスE編成のノーズ横のパーティングラインなど、生産技術的な粗は多少見られるものの、総合的にはハイレベルな造形と言っていいと思う。

カトーは前面窓が実車に比べて小ぶりで、ヘッドライトも縁の銀色は省略しているにも関わらず、全体的にバランスよくまとまってるのはデフォルメがうまいということだろう。個人的には実車よりカッコイイんじゃないかと思えてくる。一方、トミックスはE編成から発売ということもあってライト周りの縁も表現しているし、全体的なスケール感は実車に忠実な印象だと思う。

違う見方をすると、カトーはデフォルメがうまいのだが、実車のもっさりした感が薄れてシャープでカッコよくなりすぎな印象はある。逆に、トミックスはそのへんも含めて実車に近いというのが筆者の感想である。これらはカトー・トミックス両社の考え方の違いであり、どちらが優れているという問題でもない。500系の記事でも書いたが、実車に忠実なトミックス、実車よりカッコイイのがカトーという格言を700系も体現しているということではなかろうか。

●車体各部表現

●先頭部ドア周辺

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左の実車写真の一番左はC3編成のもので(カトーのプロトと一緒)、B編成も見た目はほとんど同じ。E編成は乗務員扉横の手すりが格納式ではなくシンプルなバー式になっているなど独自色が強い。その点を踏まえてチェックしてみたい。

まずC・B編成の比較で言うと全体的なモールドはカトーが濃い目で、乗務員扉のドアノブやドア下に銀色を入れてアクセントにするなど、ぱっと見はカトーの方がリッチで遠目にも目立つ。離れて見る「模型視点」を重視する同社ならではの表現といえる。その点、トミックスはモールドが薄くちょっと物足りないかもしれない。

しかし、乗務員扉に対する窓の大きさ、扉の上部から前方にかけて二重線のようなラインの表現、客用扉の手かけの表現など、全体的なスケール感も含めてトミックスの方が実車に近い。客用扉上部のRもカトーはちょっと角ばり気味だ。なお、カトーは扉上部の雨どいの形状が実車と異なるが、これは実車が雨どいを後に一体型に交換したため(実車編を参照)。カトーが製品化した当時は分割されたタイプだったので間違っているわけではない。トミックスB編成はB4編成以降の一体化したタイプを忠実に再現している。

最後にトミックスE編成だが、車体色がグレーであることを考慮してかB編成よりモールドは濃い目。銀色を入れていないのはB編成と同じだが、乗務員扉横の手すりに銀色を入れたらよかったかも。扉上部から前方にかけての二重線はもともとE編成には存在せず、忠実度やスケール感はB編成と同様に良好である。雨どいは分割タイプだが、これも実車通りで正しい(E編成の一体化タイプはE16編成のみ)。

●中間部ドア

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客用扉は前述の通り、カトーは上部がやや角ばり気味、手かけを表現していないという違いがある。全体的な大きさや形状は三者とも大きな違いはなく、実車に忠実な印象だ。扉上部の雨どいはカトー・トミックスB編成は少し扉に近い気がするが、E編成はちょうどよいバランスだと思う。同じメーカーだからといって、必ずしも同じバランスになるとは限らないようだ(まあ、発売時期も違うしボディも新規製作だし)。


●車掌室窓(カトー・トミックスB編成は10号車、トミックスE編成は6号車)

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開閉可能な車掌室の窓は、カトーはサッシのモールドはあるが未塗装、トミックスはモールドに加え銀色塗装されている。

サッシが楕円っぽいところとか、なかなか似てる。実車が縦長に見えるのは斜め位置で撮影したから。


●ドア点検ハッチ

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実車編でも書いたが、ドア点検ハッチは700系の場合「出っ張りタイプ(下段右)」と「ツライチタイプ(下段左)」と2種類ある。

500系などもそうだが、カトーは枠線のみで表現していて4隅のボルト(?)も省略。プロトタイプしたC3編成(初期型)は出っ張りタイプなのだがそれも表現していないし、大きさ・位置的にも大味な印象だ(気にする人は少ないと思うが)。

一方、トミックスはB編成が「ツライチ」、E編成が「出っ張り」と実車のプロトタイプに合わせて再現しており、4隅のボルトも表現している。気にする人は少ない部分とはいえども、きちんと表現しているのは高く評価したい。

カトーはモールドの濃さに代表されるように遠目でもしっかり目立つこと、トミックスは間近で見る場合のリアリティを重視していると考えられるが、これは考え方の違いであって優劣の問題ではない。三者とも、700系の表現として大きな問題はないといえるだろう。

●側面窓ガラス

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客用窓の大きさや形状は三者ともほぼ同じで、ガラス(実際には透明プラ)の平面性や透明性も良好だ。

ただし、カトーは窓が車体に対してかなり奥まっていて、左の実車写真を見てしまうとリアリティを損ねている印象は否めない。その点トミックスは(もちろん実車のそれには及ばないが)比較的ツライチに近いといえる。後から出たB編成はよりツライチに近くなってる。


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行先表示機などは後述するとして、客用扉の窓も同じような段差である。このうち、トミックスE編成は連結方式の都合上「可動幌」というパーツが車内に入ってくるため、車端部の客用扉の窓ガラスがない。同社の可動幌を採用する模型で伝統的に見られる仕様だが、近年の製品(リニューアル含む)については車端部にも窓が入るようになってきており、トミックスE編成も2010年12月のリニューアルで窓ガラスが追加された。

可動幌など特殊な方式ではないカトーやトミックスB編成は当然ながら窓ガラスは最初から入っている。

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内側からガラスパーツを見てみると、カトーはややスモークがかかっていて、トミックスはB・E編成ともに完全なクリアとなっている(他の製品でも見られる差異でもある)。

トミックスのB・E編成間でパーツの互換性はなく、B編成発売に当たっては窓ガラスパーツも新規制作されている(B編成の方がツライチに近い要因ではないかと思う)。また、B編成の写真には天井に黒いパーツが見えるが、これは室内灯を取り付けた場合の遮光板となる。この手の遮光板を装備した模型というのは珍しい(たいていは自分でアルミテープ等貼って対応するのだけど・・・)。


カトーの窓と車体の段差は同社の同時期の製品(100系グランドひかりや500系)にも見られる特徴である。同社は間近で見ることよりも走行シーンなど遠目に見るシチュエーションを重視する傾向があるので問題なしとしたのだろう(近年の製品は改善されてきているが)。

とはいえ、100系や500系では窓まわりがブルーやダークグレーの印刷塗装であるため、断面まで塗料が回らず段差が目立ってしまっていたのに比べると、車体色が白の700系は比較的目立たないのは救いがある。逆にトミックスのE編成は「印刷塗装による断面塗り残し」で成型色の明るいグレーが見えてしまっているのがわかる(窓の段差自体が少ないので目立たないが)。

いずれにしても、走行など遠目に見る場合は気にならないとは思う(間近で見た場合は・・・)。三者の中では、最後発だけにトミックスB編成がもっとも見栄えが良いと感じた。

●側面表示機

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カトーは行先表示機がガラス、座席表示機は車体へのモールドで表現。トミックスは行先表示機・座席表示機ともにガラス表現である。

カトーとトミックスでサイズや形状が異なるが、実車の段階でカトーがプロトタイプにしたC編成は幕式、トミックスのB・E編成はLED式と異なっている。それを再現した結果なので問題ない。

ただし、トミックスでもB編成とE編成では表現が異なり、B編成は窓ガラスと同じように車体とツライチに近いのだが、E編成はかなり奥まっている(前項の側面窓ガラスの写真も参照)。


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客室窓との位置関係や大きさも、カトー・トミックス(E編成も)ともに良好である。ただ、トミックスは角がもう少し角ばっていてもよかったかもしれない。

どちらも表示が「回送」なのは偶然で特に意味はないのだが(撮影した東京駅ではよく出る表示)、同じ表示でもC編成とB編成の違いが出ていて面白い。


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トミックスE編成は可動幌の関係で車端の客用扉の窓が省略されていると書いたが、同じく車端部にある行先表示機もガラスは省略、単に穴が空いているだけの状態に・・・裏から極薄のプラ板でも貼らない限り、行先のステッカーなどを貼ることすらできない。

ただし、リニューアルでのフォローがアナウンスされている。


鹿本様より、リニューアル後も車端部の行先表示機にはガラスが追加されていないという情報をいただきました。情報提供、誠にありがとうございます。

カトーは一部がモールドであるためチープな印象があるかもしれないが、実車(C編成)の座席表示機はバックライトはないのでモールドでも問題ない。

カトーとトミックスB編成は特に問題はないのだが、E編成は車端の表示機のガラスが省略されていたり、その他の個所もかなり奥まっていたりと、発売時期が古いとしても「?」という仕様ではある。

車端部は可動幌の都合上ガラスの実装が難しいことはわかるが、ステッカーすら貼れないのはいかがなものかと(ユーザが裏からプラ板でフォローするにも、可動幌との干渉を考慮しなければならず難易度は高い)。その他の個所はガラスがあるとはいえ、車端部に合わせたのだろうかかなり奥まっていてバランスが悪い。好意的に見れば車体にアクセント(表示機の黒)を付けたかったのだと思うが、これなら無理せずモールド表現でもよかったのでは?と思った。


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