今回比較した300系は、これまで(おそらくこれからも)当サイトがやってきたレビューの中では、両者の設計・発売時期が約20年も空いているという断トツの時期差である。また、新幹線はこれまで0系、100系といった国鉄型ばかり手掛けてきたマイクロエースにとって初めてのJR型でもある。
ついでにいうと、当サイトがリニューアルしてから初の本格的な比較レビューとなったわけだけど、「初めてづくし」となった今回の300系レビュー、はたしてその勝負(?)の行方は・・・
何度も書いている通り、トミックスは基本的には古い製品がベースである。しかし、今回レビューしてみて、改めて基本的なモデリングやバランスがよいモデルだと思った。もともとデフォルメはあまりしない同社だが、先頭形状などはマイクロエースよりも実車に近いと思うし、モールドも適度。20年前の設計とはとても思えないバランスの良さが光っていた。
同社の旧製品は形式代用が多かったり屋根上表現に問題があったりしたが、2010年のリニューアルでは一部形式のボディ、屋根上が新規製作されたことで実車に対する間違いは大幅に減り、もともと優れたモデリングやモールドも手伝って、現在でも通じるほどのレベルになったと思う。その甲斐あってか、「敵失」に救われた部分もあるけど、20年後の製品であるマイクロエースにかなり食い下がっていた印象がある。
鉄道模型は設計時期に差があるからといって、案外「圧勝」というほどの差は出にくいのかもしれない。同時期にレビューしたドクターイエロー(カトーvsトミックス)を見ていてもそう思う。
しかし、大まかに見れば300系として問題ないトミックスも、あまり目立たない部分・・・具体的には100系と共用の大雑把な作りの室内表現や、床下の再現レベルは残念ながら所詮20年前の製品だよねという差が出てしまったように思う。
確かに床下はそれほど正確でなくでも大部分の人にはわからないし、だからこそ共用や代用がよく行われるのだけど、それでも1号車のLCXアンテナのように実車でもかなり目立つポイントまで、16号車の床下と共用で済まして省略してしまうのはさすがにどうかと。リニューアルの際に1号車の床下だけでも新規製作するチャンスはあったと思うがそれさえ行われず、ボディや屋根上に対し扱いが軽すぎじゃないかと思った。旧製品を基本にしている以上仕方がないが、他には連結部分も改善されてはいるものの、古臭さを隠せていない個所だといえる。
ここまで書いていうのもなんだけど、確かに室内は覗きこむか分解でもしないと分かりにくいし、上から見ることが多い模型では多少床下が間違っていても大きくイメージを損なわないことも確かだ。その意味では、ここがオカシイと暴きまくる当サイトは、メーカーにとってはウザイ存在なんだろうな(見てないとは思うがw)。大部分の人には違和感なく300系のイメージが伝わわるのだから黙っとけと・・・おっと、誰か来たようだ。
一方、マイクロエースは300系の新製品は20年ぶり、トミックス以外では初、JR型新幹線(しかもつい最近まで走っていた晩年型)は同社初、引き戸車の模型化も初、ということもあって、発売発表当初より話題性が高かった。基本的には旧製品をベースにしていたトミックスに対し、2012年(発表は2011年)現在の技術で作られた製品という点でも期待された、いわば「鳴り物入り」で世に出たといっても過言ではないように思う。
結果的には、2011〜2012年設計ということに加え、凝り性(?)の同社らしく細かいところをよく造り込んである製品になったと思う。全体的なイメージは300系として問題ないことが当然の上、とにかくディテールへのこだわりは相当なものが感じられた。多数施され細かく鮮明な印刷表記類、そしてなにより室内、床下の再現度は目を見張るものがあった。近年の製品は考証が進んでいるとはいえ、未だに流用・代用が行われているものがあるところを見ると、ディテールの完全再現というのは簡単ではないのだろう。そんな中で、今回のマイクロエースは相当やっていることは確かであり、単に「新しいから有利」で済ませられない仕事っぷりだと評価できる。
経緯的に旧製品をベースせざるを得なかったトミックスへのあてつけ・・・は穿った見方かもしれないが、300系の製品の少なさ、再現度の低さといった、それまでユーザが潜在的に抱いていた不満に応えようという姿勢が伺えた。その他にも、近年の製品らしく適度に光沢のある塗装も金属感というか重量感があってよいし、アーノルドカプラーの採用は少々驚いたものの、その扱い易さを再認識させられるなど、なにかと「面白い」製品だとも思った。
今回初めてJR型に踏み切ったマイクロエース。不満点もなくはないがこの一歩は大きく、今後にも期待できそうだ。700系のC編成あたりもバリエーションの宝庫なのでぜひ(←願望)。
同社初のJR型・・・しかもシングルアームパンタとか直ジョイントといった最近の仕様なわけだけど、全体的にJR型で先行しているカトーやトミックスの「いいとこ取り」しようとした結果、うまくいった部分もあれば練り込みが足りない部分も見られた。好みもあると思うが、モールドがやや表現オーバーといえるほど濃かったり、4灯表現しようとして中途半端な結果に終わった灯火類、あからさまに穴の位置がおかしいパンタ遮音板、伸縮カプラーの意味がほとんどない連結部分など、どこかスッキリしないところが随所にある。
N700系のレビューで「気合は入っているが力が及ばなかった」というカトーの評になぞらえると、マイクロエースの300系は「気合が入っているがどこか抜けてる」という感じだ。前述したとおりディテールの再現度は素晴らしいものがあるものの、アクが強く、バランスを欠いているというか。「木を見て森を見ず」を地で行っているというか。
また、バランスの悪さを助長しているのが精度感の低さ。ボディと屋根板の組み合わせが悪いとか、妻面に引き込まれる高圧線パーツが大雑把だとか、メタボ動力だったりとか。筆者の所持品がハズレだっただけかもしれないが、J編成15号車の妻面パーツが欠品しているなど、「製品としての品質の低さ」も気になる。全体的なモデリングがよくても、ディテールが細かくても、こんなくだらないことでスポイルされてしまうのはとても残念なことだ。
以下は今回の300系に限らない話だが、マイクロエースの価格は少々気になる。確かにディテールや印刷が細かいので割高なのは仕方ないと思うが、それでもトミックスと比べて1万円以上というのは、カトーも含めた16両編成新幹線の平均価格からしても、さすがに高すぎるのではないだろうか。高級路線にシフトしたわけでもなかろうに(ハッキリ言うが、他社と比べても品質は低いのに)。
以下は筆者の勝手な想像なので話半分で。カトーもトミックスも、Nゲージメーカーとして長いこともあるだろうが、Nゲージに対して利益だけでなく、将来の市場の確保という「責任」も考えていると筆者は思う。だからこそ、値上がり傾向にあっても相場というか「値ごろ感」の一線は越えないし、低廉な製品を用意したりして(基本セットだけでも価格を抑えるとか)、新規ユーザの開拓にも余念がないのだと。
最近はマイクロエースの生産国である中国では人件費が高騰しているから、その分価格に転嫁しなければやってられないというのも理解できるが、ただでさえ高いNゲージ。そのまま値上げし続ければ今後の購買層は少なくなるだろう。すでに学生さんなど、若い人たちには無理のある価格帯に来ていると思う。
模型なんて趣味モノなので言い値でも買う人はいるだろうし、高いのがイヤなら買うなというもの正論だ。少子化の中、筆者のような出戻りオッサン相手に商売できればよく、売れなくなったらさっさと撤退するというのも、ビジネスとしては間違った考えではない。・・・でもそれで、現在の若い人が大人になった時、Nゲージに振り向いてくれるか?
前述の通りカトー、トミックスは責任持ってやっていると思うので、将来については心配ないかもしれない。だから、マイクロエースに対し低廉路線になれ、安くしろという気は毛頭ない。だが、大手2社に肩を並べるまでになったメーカーの責任として・・・最低でも現状維持を望みたい。
ちょっと話を広げすぎたので元に戻そう。
全体的な評価としては、バランスのトミックス、ディテールのマイクロエースという感じ。ただ、いずれも300系の模型として大きな不満が出るようなことはないと思うし、マイクロエースのニッチ狙い路線のおかげか幸いプロトタイプが異なっているので、両方所有して並べるのも楽しいだろう。
かつては製品が乏しかった300系も、ここへきてバリエーションが大幅に増えた。それだけではなく、間もなくトミックスから「さよなら運転」仕様も発売されるし、それをベースとした通常製品への展開もありうる。マイクロエースも含めて、下枠交差型パンタ時代の製品が出る可能性もあるので、まだまだ充実する土壌は残されている。
現在のトミックス・マイクロエースの製品はバランス・ディテールのどちらかに偏ってしまっているから、両立する製品が出ると最強なのだが。ただ、何でもかんでも新規製作することは難しく、この辺の改善は当分見込めないかもしれない。カトーが300系発売に踏み切れば面白いのだが実車が引退してしまった現在、実現する可能性は低い。
あと、トミックスの300系(J編成)は再生産があまり行われていないので、適宜再生産してユーザに安定して供給してもらいたいと思う。トミックスのF編成は限定品だし、マイクロエースも実質限定品のようなものだから(仕様を変えて製品が出る可能性もあるのだけど)。
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