●実車の概要

九州新幹線で活躍する車両で、同線が暫定開業(新八代〜鹿児島中央)した2004年3月から運用を開始した。偶数の形式番号はこれまで東側の新幹線のものとされてきたが、JR東日本は独自の形式番号(E○系)を使うようになったため、空番となっていた800系を名乗ることになった。

JR九州初の新幹線車両ということもあり、JR東海・西日本が共同開発した700系がベースになっているが、先頭部はカモノハシフェイスではない独自のものが採用された。それにJR九州の車両や駅のデザインを手がけている、水戸岡鋭治氏率いる「ドーンデザイン研究所」によるロゴやレタリングを多用したデザインが加えられた結果、ベース車を感じさせない車両となった。新幹線車両としても個性的であり、随所に700系の面影が残っているものの、独自性の強い車両をというJR九州の要望に沿うことにもなった。

運用区間の需要から6両編成と短く、全席モノクラス(グリーン車なし)の2+2列シートという、山陽新幹線「こだま」を思わせるゆったりとした構成となっているが、木材の多用、西陣織のシート生地、簾(すだれ)のブラインド、洗面所の暖簾(のれん)など、従来の新幹線のイメージを覆す「和」のテイストがふんだんに盛り込まれ、車内のデザインも外観に負けず個性的でインパクトが強いものになっている。

性能的にはやはり700系をベースにしているが、6両編成のため3両1ユニットに変更されており、新幹線としては急勾配である35‰区間に対応するため、全車両が電動車となっている。山陽新幹線での走行は問題無しとされているので、700系と同様に285km/hでの走行は可能と思われるが、九州新幹線が他の整備新幹線と同様の260km/h制限となっていることから、同線内で運用されている以上、最高速度は260km/hとなっている。台車などの仕様から700系のJR西日本車(E・B編成)の色合いが強いが、パンタグラフはJR東日本のE2系1000番台と同じものが採用されているといった意外性もある。

暫定開業時からの6編成に加え、2011年の全線開業(博多〜新八代)に備えて2009年からマイナーチェンジ車が3編成増備された。基本的には従来車と変わらないが外観が若干変化、内装はより派手なものとなり「新800系」と呼ばれている。

暫定開業時は「つばめ」のみだったが、全線開業後は各駅停車となった「つばめ」のほか「さくら」にも充当されている。「さくら」はN700系充当列車と異なり九州新幹線内限定運用で、山陽新幹線には乗り入れない。

路線が段階的に開業したことから、2004年登場と比較的新しい車両ながら改造歴を有する車両もあり、本数・両数ともに少ないながらも意外とバリエーションに富んだ車両となっている。九州新幹線自体がフィックスした感があるので(長崎ルートもあるが・・・)、現在は落ち付いた感がある。廃車はまだ当分先の話で、N700系ともども九州新幹線の顔として活躍していくことだろう。

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筑後船小屋を通過するU005編成。コンパクトな6両編成で、九州新幹線にすっかり定着した顔として活躍中。

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最近の新幹線車両にしては、シンプルなラウンド形状の先頭部を持つ。これでも、カモノハシフェイスの700系と同等の空力性能だといわれている。


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全体的にはシンプルな形状ながら、微妙な曲線がカモノハシ並みに効いているのだろうか。

乗務員扉の形状、格納式でない手すり、台車カバー近くにある車体のジャッキ用切り欠き。700系ベースといわれるが、その中でもJR西日本のE編成(レールスター用)に近いように思う。JR九州でも、ジャッキの切り欠きを使っているかはわからないが・・・


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ヘッドライトはプロジェクタータイプのHIDが片側縦3灯に並ぶという独特なもの。新幹線車両はたいてい片側2灯なので、かなり珍しいといえる。

テールライトも位置・形状ともに極めて独特。


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JR九州の車両全般にいえることだが、ロゴやレタリングが多いのが800系の特徴で、ここでも他の新幹線車両にない独自性が出ている。

4両1ユニットの700系に対し、800系は3両1ユニットとなったため運転室直後に機器類を搭載しており、乗務員扉直後の客用扉がない。同じような扉配置の500系はアヤがついてしまったが、800系は東海道・山陽新幹線への乗り入れを想定していないので問題ないといえる。


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車体には様々なマークやロゴ類が配されており、赤帯の中にまでレタリングが施されている。ちなみに、帯は赤だけではなく金色も使われている。

JRマークはJR九州のコーポレートカラーである赤。


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ノーズ部にも細かいレタリングやマークが。編成番号が前面窓ではなくノーズにあるというのも他に例がなく、第7編成は「U7」ではなく「U007」と表記するのが九州流(?)。


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800系の独自性は外観だけにとどまらない。

普通車でも2+2列シートでゆったりしていることに加え(グリーン車はない)、白基調に木製のシートバックがずらりと並ぶ客室内は、これまでの新幹線車内のイメージを覆すインパクトがある。

写真はU001編成で、天井中央にある表示機は後年追加されたもの。シートバックが高いので、座席の位置によっては車端の表示機だけでは見づらいことへの対応。


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シートバックや肘掛が木製であることに加え、生地は西陣織という和風テイストな座席。ブラインドも一般的なロールスクリーンではなく、簾(すだれ)というこだわりよう。

もっとも、同じデザイナーが手掛けた作品(?)にはさらに鉄道車両離れした派手なものもあり、800系はこれでも大人しい方だと思うが。


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車内デザインも独自性を見せつけてくれる800系だが、空調吹き出し部や荷棚の形状はベースとなった700系そのもので、同形式とのつながりを強く感じさせる。


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行先表示機は3色LED式で、やはりJR西日本の700系(E・B編成)が採用しているものに近い。増備車も含めてフルカラー表示機の採用はない。

余談だが、暫定開業時(新八代〜鹿児島中央)でも、上り列車の行先は「博多」を表示していた。新八代での同一ホーム乗り換えをしていた「リレーつばめ」との一体感を重視していたのだろう(「リレーつばめ」は逆に「鹿児島中央」を表示)。


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パンタグラフは低騒音ガイシによりパンタカバーがなく、見た目がシンプルなシングルアームパンタとなるが、JR東日本のE2系1000番台(J51編成以降)に搭載されているものと同じである。

700系ベースとはいえ、意外にも東西合作だったりするのだ。


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パンタ近くの連結部は屋根下に高圧線が通ることや、パンタ周辺のディテール、3・4号車間の傾斜型ケーブルヘッドも含めて、屋根上の仕様は全体的にE2系1000番台と似ているところが多い。


●編成バリーション

800系はJR九州のみが所有している車両であり本数も9本と少ないが、意外とバリエーションに富んでいる。

編成 所有者 編成番号 両数 MT比 番台 特徴その他
U JR九州 001 6 6M 0 旧800系。当初は軌道や架線の検測が可能だった。
002〜006 旧800系。もっとも標準的な800系。
007・009 1000 新800系。軌道検測が可能。
008 2000 新800系。架線・信号・通信検測が可能。

●U編成

800系は全編成が6両編成であり、U編成を名乗る。博多〜鹿児島中央間において、主に「つばめ」と「さくら」で運用されている。いずれも九州新幹線内限定の運用であり、山陽新幹線には乗り入れない(入線試験は実施済み)。

6両編成×9本しかないため、新幹線の形式の中では最も小所帯である(ちなみに次点はE1系で、1形式で100両に満たないのはこれと800系だけ)。しかしながら、走行する路線が暫定的に開業したなどの経緯もあり、増備車両がマイナーチェンジされたり、比較的新しい形式ながら改造歴まで有しており、小所帯ながら意外とバリエーションに富んでいる。詳細は「製造年次や改造などによるバリエーション」で後述したい。

編成番号を第1編成の場合、「U1」ではなく「U001」と表記するのも特徴的である。

●製造年次や改造などによるバリエーション

●新旧800系(0番台と1000・2000番台)

基本的には同じ車両ながら、増備時期により旧800系と新800系に大別できる

旧800系は0番台のU001〜006編成が該当し、2004年の暫定開業時(新八代〜鹿児島中央)から走っている編成(U006編成のみ2005年増備車)。新800系は1000番台のU007・009編成、2000番台のU008編成が該当し、2011年の全線開業時(博多〜新八代が開通)に備え2009年から増備された編成で、内外装に変更が加えられたマイナーチェンジ車となる。番台区分されているが製造番号は連番となっている(U006編成は821-6、U007編成は821-1007、U008編成は821-2008という具合)。

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筑後船小屋に停車中の新800系・U008編成。唯一の2000番台車で、機器の搭載により架線・信号・通信検測が可能。

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ヘッドライトが片側縦3灯なのは変わらないが、やや角のある旧800系(左)の形状に対し、新800系(右)は丸みのある形状に変更されている。


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横方向から見ると、旧800系(上)は車体に対してツライチになっているが、新800系(下)は車体からやや飛び出た「出目金ライト」となっている。


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新800系(下)の前面窓の上には「つばめマーク」があるが、旧800系(上)にはない。このマークはステッカーとかではなく、「象嵌(ぞうがん)」という手の込んだものである。

なお、両者に見られる「800」ロゴは後述の「つばめ→新ロゴ変更」の時に追加されたもの(新旧とも)。


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外観以上に新800系で変更されたのが車内のデザインで、各号車ごとに壁の材質や色を変えたり、シートの生地を変えたりなど、旧800系以上に「水戸岡節炸裂!」な内装となっている。

一部車両は写真のような金箔貼り+「川辺仏壇」というド派手なものが採用されており、ちょっと「やりすぎ感」すらある。


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シート自体は旧800系と変わらないが、その生地は西陣織だけでなく、本革やアイビー柄コブラン織など号車により変化させており、シート生地の見本市と化している。


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新800系では荷棚の下が木目となったが、空調の吹き出し口などは旧800系と同様、700系と同じものが残されている。


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車体側面に引かれているラインも変更された。旧800系(上・U004編成)では先頭部からストレートにラインが引かれているが、新800系(下・U007編成)では「燕の飛行軌跡」と呼ばれるウエーブを描いたラインになっている。


●側面ラインについて補足

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旧800系(U001〜U006編成・写真はU005編成)は前述の通り、全号車でストレートなラインが引かれている。

なお、九州新幹線全線開業に備え、旧800系は新800系に合わせて5号車に多目的室を増設している。左の写真では客室窓が1つ無い個所があるが、改造により埋められたからである。


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こちらは新800系U007編成で、5号車には当初より多目的室が設置されている。その客室窓がない部分では、「燕の飛行軌跡」の一部としてラインがループを描いているのが特徴。


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こちらはU009編成(2011年ポケモン仕様)で、ラインがループを描いているのはU007編成と同じだが、さらに2・3・5号車鹿児島中央寄り(写真左方)のラインがウエーブを描いている(U008編成も同じ)。上の写真を見ると、U007編成は新800系では例外的にストレートになっていることがわかる。


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U007編成(左)とU008・009編成(右)では4号車の車掌室横のループ有無にも差がある。U007編成はロゴの配置、ループも描いていない点で旧800系と同じであり、過渡期の編成ということなのだろうか。


まとめると、U001〜006編成は全号車ストレート、U007編成は先頭部にウエーブ、1・3・5号車の博多寄りでループ、U008・009編成はそれに加えて4号車にもループ、2・3・5号車鹿児島中央寄りにウエーブとなる。

●検測機能について

九州新幹線にはドクターイエローのような検測専用車がないため、それぞれ機器を搭載することでU007・009編成は軌道検測、U008編成は架線・信号・通信検測が可能となっている。前述の番台区分(1000・2000番台)はその役割により付けられたもので、これも他の形式では例を見ない番台区分となっている。

なお、U001編成も当初は検測機能を備えており、形式番号には「821-1K」のように「K」が付けられていた。新800系にその任を譲った現在は「K」は消去されている。また、新800系には「K」は付かない。

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上が検測台車、下が通常の台車。検測台車は台車中心部からレール面に向けて何らかの装置があることがわかる。

写真はいずれもU009編成のもので、検測台車を備えているのは先頭車1・6号車のみで、中間車は全て通常台車。U007編成も同じ構成となっている。その他の編成はかつて検測機能があったU001編成を含めて、全て通常台車となっている。


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続いてパンタグラフ周辺。これは一般的な編成のもので、2号車(上)、5号車(下)でほとんど違いはない。


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架線検測機能を持つU008編成は、2号車は他の編成と変わらないが、5号車はパンタの近くにセンサー類があり、4号車には投光器と思われる装置があることがわかる。


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現在は検測を行っていないU001編成だが、パンタ周辺にはかつて検測を行っていた名残がある。U008編成と異なり、2・5号車(投光器は3・4号車)の両方にある。かつてはU008編成のようなセンサーも備えていたのかもしれない。


●「つばめ」ロゴ→新ロゴへの変更

九州新幹線の暫定開業時には「つばめ」しか列車がなかった(その中で速達・各停が分けられていた)ので、800系のロゴも「つばめ」「TSUBAME」といった文字が書かれていたが、2011年の全線開業後は線内の「さくら」にも使用されることになったため、「つばめ」から列車名をあいまいにした新ロゴに置き換えられることになった。

この変更は全編成対象になっているが、「つばめ」ロゴは新旧800系で若干の差(新800系は「TSUBAME」の文字が金色地だった)があった。U007・008編成は全線開業前から営業運転に入っていたが、U009編成は全線開業時=営業運転開始だったので、「つばめ」ロゴでの営業運転は実績がない(試験走行のみ)。いずれにしても、新800系の「つばめ」ロゴは短命だったといえる。

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暫定開業時の「つばめ」ロゴ(U002編成)で、和風な書体がシンプルながら個性的。

号車番号がやたら大きく描かれているが、これは新八代で在来線特急「リレーつばめ」と対面ホーム乗り換えを行っていたので、分かりやすくするための処置である。なお、「リレーつばめ」側にも号車番号が大きく描かれていた。 


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全線開業以降、現在はこのような円形のロゴに改められた(U005編成)。「つばめ」の文字は消えたものの、800系=「つばめ」のイメージが強いからか、あくまでも燕をモチーフにしたものになっている。ロゴの中に書いてある文字は「KYUSHU LIMITED EXPRESS」「KYUSHU RAILWAY COMPANY」「AROUND THE KYUSHU」。

同一ホーム乗り換えがなくなったため大きな号車番号は消えたが、客用扉の反対側にやや縮小されて残っている。また、5号車に関しては号車番号や禁煙マークがロゴ側に移動してきたことがわかる。


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先頭部ロゴの変遷。U002編成の「つばめ」ロゴ時代。


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ロゴ変更後のU004編成。台車カバーにまでロゴがあるが、それも置き換わっている。


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「つばめ」ロゴ時代のU002編成4号車。


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ロゴ変更後のU005編成4号車。

この写真ではほとんどわからないが、「実車の概要」の写真で前述したように、赤帯の中にものロゴが入っているのだが(左の写真ではドア点検ハッチ内にある)、ここだけは新ロゴに変更された後でも「つばめ」「TSUBAME」の文字が残っている。


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車体中央部のロゴの変遷。「KYUSHU〜」のレタリングは位置が見直されてやや上方に移動。


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ロゴの配置は新旧800系でほとんど変わりはないが、1・3・5号車博多寄りにある大型の円形ロゴはサイズが若干異なっており、新800系(右)の方が小さい。新800系のラインはループを描いているので調整した結果だと思われるが、5号車はこの部分にループない(多目的室の位置にある)ので少し間延びした感じがする。


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なんとなくヘッドマークを思わせる、ノーズ部のロゴの変遷。

一番上は旧800系、中段が新800系の「つばめ」ロゴ時代で、旧800系はステッカーだったが、新800系は前述した額の「つばめマーク」と同様に「象嵌」によるもので、金色の表現も相まって高級感があるものだった。しかし、新ロゴへの変更で一番下のステッカーに新旧ともに置き換えられ、結果的に象嵌ロゴは短命に終わってしまった。

しかし、2011年夏時点ではなぜかU009編成のみ象嵌が残っていることを確認している(現在もそうなのかは不明)。


●外幌の色

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連結部の外幌の色はU001〜U005編成が白、U006〜009編成が黒となっている。U006編成は旧800系の中で唯一の黒幌ということになる。


●ラッピング

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JR東日本の新幹線ではおなじみだが、800系にもポケモンラッピング仕様が存在する。2009年はU004編成、2010年はなし、2011年はU009編成、2012年はU001編成がラッピングを纏った。

他にも「福岡ソフトバンクホークス応援ラッピング」などもあるようだ。


●筆者の所見など

関東地方に住む筆者にとって、800系は最も存在が遠い新幹線車両であるといえる。東の新幹線は北陸や北海道まで範囲を広げようとしているが、どんな形式でも東京駅で見ることができるのに対し、九州内で限定運用されている800系は最低でも博多まで行かなければ、見ることすら叶わないのだ。

それでも、2004年、2011年と九州新幹線が開業するたびに、一応その時点の全区間を800系で乗り通している。2011年には新旧、しかもポケモン仕様にまで乗ったので、場所を考えるとどちらかといえば乗っている車両だと思う。この九州遠征の際に可能な限り撮影もしていたことが、今回の記事でかなり助けられた結果となった。

そんな800系だが、ここまで書いたように100両に満たない小所帯ながらバリエーションに富んでいて楽しい車両だと思うし、水戸岡氏デザインによるロゴやレタリングの多用は好みもあるとは思うが、他の新幹線車両にはない個性を引き立てていることは間違いない。そして、独特で個性的な内装は従来の新幹線の車内イメージを覆すこと請け合いだ。実際に乗ってみれば快適そのものであり、まさに「見て良し乗って良し」である(新800系は少々落ち付かない車両もあるが・・・)。

非個性的、画一的と評されうる新幹線車両も多いが、800系がそれらよりも優れているというつもりは毛頭ない。2+2列シートの普通車は山陽新幹線で実績があるから目新しいわけでもないし、それぞれの地域や路線に応じた都合や特性を考えれば、800系の個性は需要がそれほど多くない九州ローカルで運用されているから実現できただけといえなくもない。しかし、800系の存在が新幹線趣味の幅を広げ、楽しくしている要因の一つであることは確かだと思う。

2011年、全線開業を果たした九州新幹線は山陽新幹線とつながった。800系は山陽新幹線の一部区間で試運転は行っているが、6両編成の2+2列シートは定員が少なく、直通運転の「さくら」で運用するには厳しいし、山陽「こだま」なら運用可能だとは思うが、各駅停車での直通需要はたかが知れている。そもそも山陽「こだま」が縮小傾向にある上、JR西日本側の車両で賄えているという現実もある。

結果的に、両区間の直通乗り入れにはN700系が充当されることになり、800系は九州内のローカル運用に徹することになった。これからも九州新幹線から出る事はないだろうし、ましてや東海道新幹線を通じて東京駅で見るなんてことは絶対にない。つまりは今後も九州まで出向く必要があるわけだけど、それだけの価値がある車両だとも思っている。ハードルは高いが、なんとか機会を見てまた乗り、撮りに行ってみたいと思う。


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