●概要

2012年11月、トミックスから「ありがとう。300系」が限定品で発売された。300系の最終運転日(2012年3月16日)の約1か月前から特別装飾が施された姿をモチーフにした製品である。製品構成は以下の通り。

品番 商品名 両数 商品形態 価格
92997 JR 300-0系(ありがとう。300系) 16両セット 16 特製外箱+ブックケース×2 43,000
フル編成価格
16両セット×1 
43,000 円
矢印
博多
東京
矢印
CarInfoItem1
1号車 323-56
CarInfoItem2
2号車 325-111
CarInfoItem3
3号車 329-56
CarInfoItem4
4号車 326-56
CarInfoItem5
5号車 325-556
CarInfoItem6
6号車 328-111[M]
CarInfoItem7
7号車 326-456
CarInfoItem8
8号車 315-56
CarInfoItem9
9号車 319-56
CarInfoItem10
10号車 316-56
CarInfoItem11
11号車 325-756
CarInfoItem12
12号車 328-112[M]
CarInfoItem13
13号車 326-556
CarInfoItem14
14号車 325-112
CarInfoItem15
15号車 329-556
CarInfoItem16
16号車 322-56

同社の300系製品は客用扉がプラグドアの初期車がプロトタイプなのに対し、特別装飾が施された編成は引き戸の後期車であるため、そのまま模型に装飾を施しただけでは実車と異なってしまう。実車の引退直後にトミックスからF編成(JR西日本所有車)が特製パッケージの限定品で発売されたが、F編成は初期車でも最終運転日近くまで走っていたから、個人的にはそれが事実上の「さよならセット」ではないかと思っていた。これまで「さよならセット」にはなにかと気合を入れてきた同社といえど、さすがに後期車のボディを新規製作してまではやらないのでは?と(ましてや、同時期にマイクロエースから引き戸の編成が製品化されている)。

しかし、筆者は同社の「さよならセット」へのこだわりを読み違えたようで、ボディ等を新規製作してまでの「真打ち」が発売となった。それが今回紹介する製品である。

ありがとう300系01

トミックスお得意の「さよならセット」に300系が加わった。同時に、300系Nゲージのラインナップがさらに増えたことに。

ありがとう300系02

装飾が施されたのはJ55・57編成の2編成であり、模型では最終運転に用いられたJ57編成をプロトタイプとしている。

装飾編成はさよなら運転以外にも運用されていたが、いずれも臨時列車だったので撮るのが大変だった。写真は2012年2月に東京駅で撮影したJ55編成。


ありがとう300系03

「さよならセット」ではおなじみの特製パッケージ。以前発売されたF編成限定品のものより派手なデザインである。

こういうのを写真でやると案外味気ないので、たとえ写真のような構図であってもイラストにするのが同社のこだわりなのだろう。


ありがとう300系04

16両セットで2つのブックケースに収まっている。編成の構成(動力車の位置など)は従来品と全く同じで、とりわけF編成のセットに酷似している。


ありがとう300系05

F編成は単なる限定品でしかなかったが、今回は「さよならセット」なのでブックレット付き(約10ページ)。マニュアルが入っているビニール袋に同封されていた。

特製パッケージやこのブックレットのほか、後述するが車体の表記類の多くが印刷済みになっているため、従来品より高価な設定になっているが、内容を考えれば妥当な値上がり幅といえるだろう。


結論を先に書いてしまうようだが、今回の製品はボディ以外は従来品とほとんど同じであり、この製品ならではの言及点はあまりないのが実情だ。大部分は比較レビューで紹介したトミックスの従来品の内容が当てはまるので、詳細としてそちらの記事も参考にしていただきたい。

●先頭形状・モールド

ありがとう300系06

従来品と並べてみたが、先頭形状は全く同じである。前面窓やヘッドライトのパーツも完全に共通。


ありがとう300系07

横から見ても同じ。


ありがとう300系08

前から見ても(ry

この後も言及するが、ボディが新規製作されたとはいえ、従来と異なるのは客用扉の部分だけである。筆者が見た限り、それ以外は従来品のボディとの差異はまったくないように思う。


ありがとう300系09

前面窓はパーツ自体は同じだが、スモークがかかったものに変更されている。マイクロエースは運転台コンソールのパーツが黒かったので全体的な見た目も真っ黒だったが、今回の製品はスモークの透け具合がちょうどよい感じでリッチに見える。


ありがとう300系12

床下、座席パーツ、ヘッドライト・テールライト用の光源、ヘッドライト用プリズムなど、内部的なパーツも従来と同じものが使われている。違うのは前面窓のスモーク程度だ。


ありがとう300系25

今回は引き戸になったので、やはり同じ引き戸のマイクロエースと比較したくなる。

見ての通り両者はかなり異なる。マイクロエースはドアが車体より奥まっていて引き戸感を強調しており、ドア点検ハッチの表現も強い。一方トミックスは点検ハッチは従来品と同じであるほか、引き戸の表現も控えめ(もっとも、同社の700系と同程度)。

マイクロエースは離れていても引き戸がわかるがやや表現オーバー。トミックスは節度感はあるが物足りない(実車はもう少し段差が目立つ)という感じか。なお、トミックスは引き戸になったといえ、ドアの奥まりはそれほどでもないのでガラスパーツは従来品(プラグドア)と同じものを使っているようだ。

その他もざっと比べると、トミックスは号車番号がやや大きいこと、行先表示機は従来品と同様のモールド表現であることがわかる。また、客用扉下の四角いステップの有無にも差異があるがここはマイクロエースが正しく(「比較レビュー1 先頭形状・車体各部表現」の「車端部ステップ」の項を参照 )、ボディを新規製作したにも関わらず修正されていないようだ。


大部分は従来品をベースにしていることから、ボディを新規製作したとはいえ大きな変更はされていない。というか、客用扉以外に差異はないといってよいだろう。ボディの金型は1つで構成されているわけではなく側面や屋根などに分割されているから(だからパーティングラインが出る)、今回は側面のみ新規製作したと思ったのだが、最後に言及した客用扉下のステップが修正されていないのを見ると、従来品の金型の客用扉部分を改修しただけような気がする(実態はわからない)。

もし金型の改修だとすると、従来のプラグドア車の製品がどうなってしまうのかちょっと気になる。

●塗装・印刷

ありがとう300系10

今回の目玉となるラストラン装飾。見ての通り細かい文字もしっかり表現できている。見る角度を変えても全く破綻することはなく秀逸な出来だと思う。


ありがとう300系11

青帯の先端が300系のシルエットになっているところも含め、先頭部側面の装飾も忠実に再現。


ありがとう300系13

装飾を拡大してみる。ここまで拡大すると細い青帯の上部に若干にじみのようなものがみられるが、普通に見る分には気にならない(視認できない)だろう。


ありがとう300系14

こっちは実車だが、比べてみても概ね問題ないと思う。強いてアラ捜しするなら、300系のシルエットに変わる青帯の開始点が実車ではもう少し乗務員扉寄りなことくらいか。あと、文字類もフォントが若干異なっている。いずれにしても、模型では細かすぎるので大した差ではないと思うが。


ありがとう300系15

15号車を除く中間車奇数号車の東京寄りにもラストラン装飾がある。

ちなみに、今回の製品は形式番号(J57編成のもの)や禁煙マークは印刷済みとなっている。禁煙マークは10・15・16号車以外に印刷されており、引退時の姿を忠実に再現している。


ありがとう300系16

実車の中間車装飾。模型では大きさ・位置ともに問題ないと思うが、青帯に対して文字がちょっと明るいかもしれない(印刷の乗りが悪い?)。実車はご覧の通り、青帯と同じブルーだから。


ありがとう300系17

従来品から最も変化した点として、塗装の光沢が非常に強くなったことが挙げられる。最近の新幹線Nゲージは塗装の光沢が強いのがトレンドで、マイクロエースの300系も光沢が強かったが、今回のトミックスは見た感じそれ以上に光沢が強く感じる。従来品は艶消しに近い半光沢だったから、もう雲泥の差。


ありがとう300系18

こうして見ると若干サメ肌に見えるが、普通に見る分には問題ない。

光沢の強さはケースを開けた瞬間から感じ取れる。鏡面仕上げのように極端なものではなく、バランスの良い光沢で筆者はかなり気に入った。ついつい光に当てて光沢を楽しんでしまうほど。

個人的には、今後発売される製品はこのくらいの光沢がデフォルトになると嬉しい。ただ、今回製品の塗装は妙にホコリを呼びやすいようで、撮影には苦労したが・・・


ありがとう300系26

形式番号や禁煙マークが印刷済みになったので、今回のインレタは前面窓や乗務員扉窓に貼る編成番号くらいしか収録されておらず非常にシンプル。

一方で、もうひとつの装飾編成J55編成の形式番号がマスク付きで収録されており、印刷済みの番号に上書きすることでJ55編成に変更することができる。


●屋根上・その他

ありがとう300系21

塗装の続きっぽくなってしまうが屋根上も光沢があり、ボディは光沢だが屋根上は艶消しだったマイクロエースとは異なる。

新幹線の屋根上は光沢でも正しいと思うが、それが見られるのは新車出場時か全検あがりくらいで、よく見る姿ではないので違和感を感じる人もいるかもしれず、難しいところだ。

見ての通り、屋根上の号車番号も印刷済みとなっている。


ありがとう300系19

手前が今回製品、奥が旧製品となるが、パンタグラフ周りをはじめ屋根上パーツは従来品(シングルアーム仕様)と全く同じ。


ありがとう300系20

従来品と同じパーツであるため、8・9号車間のケーブルヘッドは実車とは異なってしまった。

従来品(初期車)は3パンタから2パンタに改造された経緯があるが、今回製品のプロトタイプであるJ55・57編成は当初から2パンタだったため、ケーブルヘッドの形状が若干異なるのだ(「比較レビュー2 屋根上・パンタ周辺」の「ケーブルヘッド」の項を参照 )。

といってもわずかな差なので、許容範囲だとは思うが。


ありがとう300系22

ボディが新規製作されたとはいえ、前述の通り客用扉周りが修正されただけなので、連結部もボディに厚みがある初期仕様のままとなっている。従来品と同じく通電カプラーとなるが、可動幌の形状を含めて見た目は全く変わっていない。


ありがとう300系23

床下も従来品と同じであるため、1号車のLCXアンテナは相変わらず再現されていない。また、室内パーツも変わっていないため、号車により窓と座席の位置がズレている欠点もそのままだ。


ありがとう300系24

客用扉以外、本当に変化はないものか・・・と思ったら、台車が新規製作されている。上が今回製品で、J55・J57編成は乗り心地改善工事が行われているのでヨーダンパの形状が異なっており、その点は忠実に再現されている。下段の従来品の台車と比べるとヨーダンパ以外はまったく同じで、非常に細かい点にこだわったといえるが、それ以前にやることがあるんじゃ?と思うのは底意地が悪すぎか。

乗り心地改善工事後の台車ならば、マイクロエースのものと比較したほうがよかったかな。


●総評

新幹線では久々の「さよならセット」ということで、わざわざ引き戸のボディを新規製作して発売するという、相変わらずのこだわりを見ることができたが、大部分は従来製品のままであり変化点は少なかったように思う。もちろん、塗装の光沢のように大幅に改善された個所もあるが、全体的にはガワが変わっただけで中身は同じという印象である。

当製品の「変化の無さ」をどう捉えるかは、各人の判断にお任せするほかはないが・・・比較レビューで書いたような、従来品の優れた形状やバランスをそのまま継承しているといえるし、同時に従来品との仕様の格差が付きにくく(塗装は天地の差があるが・・・)、並べても違和感がないなどの安心感がある。 一方で、従来品の欠点(床下や室内、連結部の表現など)は全く改善されていないので、進歩がないともいえる。

そもそも、今回のような限定品は「お祭り」みたいなもので、「300系のさよなら運転のセットが出た、すげえ!嬉しい!」でとどめておくべきなのであって、自己否定っぽくなってしまうが、アレが違うコレ違うと評価(レビュー)するのは、野暮なんじゃないかという気持ちも少しある。空気読めよと。

それでも、たとえ野暮だと言われても、KYと呼ばれても。この製品はボディを新規製作するという大技をやっているわけだから、これを機にもう少し、いやもっと進歩(=従来品の欠点の改善)してほしかったというのが筆者の本音だったりする。なぜなら、今回の製品は装飾を取ってしまえば「引き戸仕様の通常製品」に展開できる可能性があるわけで、実際に通常製品として発売された場合(プラグドア仕様と併売になるのかわからんけど)、今回の仕様のままでは、結局のところ従来品の(20年前の)仕様が今後も長く続くことになるからだ。

ボディ新規製作でビッグチェンジした通常製品をラインナップし、同じく引き戸仕様のマイクロエースに対して(特に価格面で)対抗軸になってくれたら、なんて期待もしていたわけだけど、残念ながら叶わなかったようだ。

ただ、現時点では300系のさよなら運転仕様はこの製品が唯一無二の存在であり、その点で大きな価値があることは確かだ。筆者のように難しく考えず、普通に300系のさよなら運転仕様が欲しい、楽しみたいというのであれば、買って損はないと思う。300系好きな人にとっても記念品的な存在になりうるし、限定品萌えな人にも良きアイテムとなるはずだ。

あとは、引き戸仕様の通常製品が出るかどうか。筆者はもう300系の16両編成を6本も持っているので(満腹状態)、さすがに出てもスルーする可能性が高いが・・・あーでも、下枠交差型仕様だったら買っちゃうかも(w。


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