●実車の概要

航空機との競争が激しい山陽新幹線(新大阪〜博多)において、JR西日本が当時の世界最高速度300km/hで営業運転することを目的として開発した車両。高速試験車両500系900番台(WIN350)の試験をもとに、1996年1月に量産先行試作車W1編成が完成し各種試験後、1997年3月22日から山陽新幹線内で最高速度300km/hで営業運転を開始した。その後量産車が製造され同年11月29日には東海道新幹線に乗り入れし、以降東京〜博多「のぞみ」の花形列車として活躍した。なお、広島〜小倉間の平均速度はギネスブックに記録されたこともある。

最大の特徴は外観で、15mに及ぶ戦闘機のような先頭部、ロケットのような円筒形の車体は世界的にも他の鉄道車両では見られない。塗装もグレー地に窓枠にダークグレー、窓下に青という従来の東海道・山陽新幹線では見られない独特のものである(ただし、窓下の色のみ替えた塗装は700系レールスターや0系・100系こだま仕様に継承されている)。ドイツのデザイン会社が手がけたといわれるインパクトのあるスタイリングは人気を博し、日曜の東京駅(直通していた当時)などでは非鉄な人でも撮影会状態。関連グッズも多く発売され、後述するが筆者も最も好きな鉄道車両でもある。

東海道新幹線系統では0系以来の全車電動車の16両編成で、最高速度は山陽新幹線内300km/h(性能的にはもっといけるらしい)、東海道新幹線では270km/hとなっている。後継のN700系は車体傾斜装置により東海道新幹線のカーブも270km/hで通過できるが、500系は従来どおり250km/hに減速する必要がある。車体間ヨーダンパ、直ジョイント式の高圧線、翼型パンタグラフ、セミアクティブサスペンション(先頭車・パンタ車・グリーン車に搭載)といった、高速走行時の乗り心地向上や騒音対策に対応するアイテムを満載し、その後の新幹線車両にも多くの影響を与えている(パンタ以外はその後の新幹線車両にはほとんど採用されている)。

グリーン車3両を含む16両編成だが、先頭部の形状などから東海道新幹線(JR東海)準拠の定員1323名にわずかに合致せず1324名となっている(東海道新幹線からの引退を早めた原因でもある)。車内設備は300系と同様にビジネスライクなもので、当初は売店があったがその後は廃止され車内販売のみとなった。

1997年以降、東京〜博多「のぞみ」として人気を博した500系だが、一方で270km/hに制限される東海道新幹線内ではオーバースペックな車両であり、前述の通り先頭形状が原因による定員の違い(先頭車だけではなく中間車も他形式とは微妙に異なる)や、先頭部に客用扉がないこと、円筒形の車体により居住空間が狭いという問題点も抱えていた。0系や100系が活躍していた時期ならともかく、300系以降のJR東海仕様準拠の車両が揃ってくると、輸送人員が多く画一的・平均的な輸送力が求められる東海道新幹線内では「浮いた」存在となり、使いづらい車両となってゆく。

その後はJR西日本もコストの面からより現実的な700系をJR東海と共同開発し、500系は9編成で製造を終了した。同じく共同開発であり、最高速度も300km/hとなったN700系が東京〜博多「のぞみ」に投入されるようになると500系は徐々に活躍の場を追われ、全盛期は2時間に1本程度だった本数も臨時を除けば1日2往復、1往復と減らし、2010年2月末に「のぞみ」の運用を終了、東海道新幹線からは引退した。

一方、山陽新幹線では「こだま」で使用していた0系の老朽化により後継車両が必要な状況であったが、500系がその後継の任につくことになり、8両編成に短縮・改造(余剰の中間車は廃車・解体)され「こだま」専用車となり、0系の引退フィーバーのさなか2008年12月より運用を開始、現在は山陽新幹線内の「こだま」で活躍中である。

500系_0006

小田原駅を通過する500系(W7編成)。東京〜博多「のぞみ」のエースとして活躍していたときの1シーン。

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新倉敷駅で退避する100系を追い越すW1編成。山陽新幹線は本領を発揮できる場であり、500系はこの駅を300km/hで通過する。動画(wmv・約2M・18秒)

こうしてみると、まさに「ロケット」のような円筒形の車体が伝わってくる。「うなぎ」と呼ぶ人もいるみたいだが・・・orz


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この角度で見ると「戦闘機」と呼ばれるのもわかる気がする。鉄道車両離れしているというか、「未来」の王道デザインというか。

運転室(乗務員扉)直後には客用扉がないのも500系の特徴であり、問題点でもある。


500系_0104

先頭部を真横から撮影してみたが、15mにおよぶロングノーズはこの距離ではカメラに収めるのは難しい(東北新幹線東京駅ホームから撮影)。


500系_0105

300km/hの空気を引き裂くという点では、計算ずくのN700系とは対照的に「とんがらせりゃいいだろ」と力技を感じる(そんな簡単なもんじゃないだろうけど)500系の先頭形状。

前面窓はこれまた戦闘機の風防を思わせる形状であり、周囲はダークグレー塗装で引き締める。


500系_0106

先頭部は屋根から落ちるラインがある中、運転席の部分が盛り上がっていてますます戦闘機のような見た目に拍車をかけている。


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0系〜300系まではヘッドライトもテールライトも同じ位置で光っていたが(赤いフィルターをかけてテールライトにしただけ)、500系は両者は完全に分離されている。


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テールライトはLED式で、前面窓の内側にあるのがユニーク。このような配置は500系以外ではJR東日本のE6系と、試験車両E954「Fastech360S」のアローライン型と呼ばれる先頭形状で見られた程度である。


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500系の車体形状がわかる1コマで、乗務員扉は開くとこのような形状になる。ここから運転席までの距離も結構長い。

意外にも扉両側にある手すりは700系やN700系のような格納式ではなく、バーが取り付けられているだけのシンプルなものである。


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グリーン車の車内だが、車体の円筒形はそのまま車内にも表れている。筆者は気にならないが(むしろ気に入っている?)、窓側には圧迫感を感じる人も少なくないようだ。

荷棚も狭いし、壁にあるフックに上着をかけると目の前にぶら下がる格好になる。


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円筒形の車体を伝えるものとして、ホームからの転落防止にドア下にはホームとの隙間を埋めるステップが張り出している。その下にも車体全体に行きわたるフィンがついている。

このフィンは量産車には当初から付いていたが、W1編成は後付けである。


500系_0112

これまた500系の特徴である翼型パンタグラフ。300km/h走行時の騒音を考慮したものだが、その後はシングルアーム式パンタが主流になり、他の形式では採用例はない。

パンタの横にあるギザギザ模様は「ボルテックスジェネレータ」というフクロウの羽をヒントにしたもので騒音を打ち消す効果があるという。


500系_0113

連結部の屋根上で高圧線のケーブルを渡す「直ジョイント」、車体下部でつながっている棒状のものは両車両の揺れを抑えて乗り心地の向上に寄与する「車体間ヨーダンパ」。

どちらも500系で初採用のアイテムで、その後の新幹線車両では当たり前の装備となっている。


500系_0114

車体間ヨーダンパの写真だが、整備時にマーカーで書かれたであろう文字のほかに、見づらいが「KAYABA」の刻印がある。

自動車のショックアブソーバでは有名な同社だが(純正採用多数)、カーオタでもある筆者にとって「あのカヤバがこんなものも作ってるのか〜」と感心した次第。


500系_0116

乗務員扉の窓にはこのようなステッカーがあるのだが・・・500系には「となりの入口」ないんですけど(w。「ここは入口ではありません」ではなくて?

このステッカーを貼っている他形式はないから共用というわけでもなさそうだし・・・クールな500系もご愛敬というところか。


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行先表示機はJR西日本お得意のLED式。日本語、英語、停車駅スクロールと表示を変化させることが可能。下段はスクロールしているところ。

写真は掲載しなかったが、指定席・自由席の表示もLED式である。


500系_0115

蛍光灯が写り込んで申し訳ないが、シンプルながら力強い500系のロゴ。先頭部側面のみで見られる。

多くを語らずというか、「わしが○塾塾長〜である!」的な迫力と説得力がある!?


●編成バリーション

500系はJR西日本のみが所有している車両であり、本数も9本と少ないことからバリエーションという点ではやや寂しい。大きく分ければ「のぞみ」で使用していた16両編成のW編成、山陽新幹線「こだま」用で8両編成のV編成の2種類があるが、W編成はW1編成を除きV編成化されたため、「両者併存」というバリエーションではない。

編成 所有者 編成番号 両数 MT比 番台 特徴その他
W JR西日本 1 16 16M 0 量産先行試作車。運用は量産車と同じ
2〜9 量産車
V 2〜9 8 8M 7000 W1編成はV編成化されていない

●W編成

500系が東海道新幹線から撤退するまで、東京〜博多「のぞみ」で使用された16両編成。編成定員1324名、グリーン車3両と東海道新幹線仕様に大方準じている(前出の写真はすべてW編成)。

全部で9本存在したが、このうちW1編成は量産先行試作車で量産車に対し若干の差異が見られる(「製造年次や改造などによるバリエーション」で後述)。しかし、500系の場合は前述の500系900番台「WIN350」が試作車的な位置づけなので、W1編成と量産車の差はわずかなものであり、特に区別なく営業運転に用いられていた。

すでにW1編成を除き後述のV編成化が完了しており、W1編成も引退済みであるためW編成自体が消滅している。なお、W1編成の先頭車521形は京都鉄道博物館に保存されることになった。

●V編成(500系7000番台)

老朽化した0系を置き換えるために、新大阪〜博多間の山陽新幹線「こだま」用に改造された編成。東海道新幹線・九州新幹線への乗り入れはない。「V編成」はJR西日本が所有していた100系「グランドひかり」に付けられていた編成記号で、500系は2代目となる。16両を8両にしたので「W」の半分の「V」にしたのだとか。

0系の後継としては300系は短編成改造が難しいため(できなくはないがコストがかかる)、全車電動車の500系が適切と判断されたためだが、4両編成でもガラガラの場合がある山陽こだまで8両編成は多いのでは・・・と思うが、同車は4両1ユニットなので(故障時の対策に最低2ユニットは必要)仕方がない面もある。まあ、大は小を兼ねるということで・・・16両のままではさすがに多すぎるし。

V編成化にあたり外観上は大きな変化はなく塗装もそのまま。短くなったので以前の迫力はないものの、戦闘機のようなルックスは健在である。ただし、独特な翼型のパンタグラフは一般的なシングルアームパンタに、パンタカバーも角ばったものに変更された。その他機器の移動などもあるし、特に車内設備はN700系のように喫煙ルームを設置したり、グリーン車を普通車化した車両もあり(0系・100系の「こだま」と同様にグリーン車は連結していない)、改造箇所は結構多い。他の編成間で車両を入れ替えるなどはなく、単に16両から8両を抜いただけで、編成番号もW編成時代の番号をそのまま引き継いでいる(例:W3→V3)。

0系引退後の2008年12月1日から営業運転を行っており、W2〜W9編成がV編成化され主に「こだま」として活躍中(一部「ひかり」充当あり)。博多南線の運用に就くこともある。また、カンセンジャーラッピングやプラレールカー、「エヴァンゲリオン」とのコラボ「500TYPE EVA」など、なかなかバリエーションに富んだ活躍も特徴。

余談だが、博多〜博多南間は在来線扱いであり(290円で乗れる!)、V編成が同区間の運用に充当された場合、通勤に500系を使うという、筆者からするとなんとも羨ましい状況がある。

500系_0001

新山口駅に停車中のV3編成。山陽新幹線内の「こだま」がメイン運用であり、8両編成と短くなったので、かわいらしい印象になってしまった。それでも、各駅に停車し、乗客を乗せては降ろす姿に健気さを感じるのは筆者だけだろうか。

500系_0002

かつての300km/h運転はもはや望むべくもないが、戦闘機のようなルックスは健在なのがうれしい。これでも、東海道・山陽新幹線通しての最古参車両である。


500系_0003

特徴的だった翼型パンタグラフは姿を消し、2・7号車にシングルアームパンタおよび、角ばったパンタカバーが新設された。このパンタグラフは500系のために新規設計されたものである。


500系_0004

従来はパンタカバー内にあった検電アンテナは2・7号車の先頭車寄りに露出するようになった。他形式のように先頭車ではなく、次位の車両に設置されているというのがユニーク。


500系_0005

山陽新幹線の「こだま」で8両編成は輸送力が大きすぎるということだろうか、8号車(新大阪寄り先頭車)の先頭部は2+2列の座席を撤去し、疑似運転台(計器類も動く)を設置してキッズルーム的な雰囲気となっている。

ちなみに、博多寄りの1号車は従来のままである。


●製造年次や改造などによるバリエーション

もともと本数が少ないので、500系の製造年次は3次にとどまる。内訳はW1編成が1次車、W2〜W6編成が2次車、W7〜W9編成が3次車となっている。W3編成以降は少々の仕様変更程度で外見は変化はないといっていい。よって、見た目では量産先行試作車のW1編成とW2編成、W3編成以降という分類ができると思う。

500系_0118

まずはW1編成。「JR500」ロゴ前方に丸い小窓(通称「ホクロ」)があり、車体と床下カバーの分割線が台車カバー上まで伸びている。また、乗務員扉の真下あたりにはこの分割線に切り欠きがある。これは博多寄りの521形のみに存在し、東京寄りの522形にはない。


500系_0119

次はW2編成で、W1編成と同じく「ホクロ」を装備する。ただし、車体と床下の分割線はW1編成よりも後方で終わっていて、台車カバーまで達していない(ミラーが邪魔で申し訳ない)。ちなみに、V2編成化された現在でもホクロは健在。

それにしても、さよなら運転でもないのに大人気。


500系_0120

次はW9編成で、こちらはホクロはなく車体と床下の分割線はW2編成に準じている。W3編成以降はすべてこの形態なので、量産先行試作車のW1編成はともかく、量産車なのにホクロが付いているW2編成は特殊な存在といえよう。


500系_0121

これが「ホクロ」の拡大写真。内部にカメラらしきものがあるが、何らかのセンサーと思われる。用途は筆者の知識ではわからないが、すれ違い時に何かを測定するセンサーだといわれている。そう考えると、2編成に装備しておくのは納得できる話か。

同種のセンサーは700系・N700系の一部編成も装備しているが、すれ違い側の側面にしかないのに対し、500系は両側の側面に装備しているのが特徴。


500系_0127

しかも、両サイドで高さが微妙に異なる。左はW1編成の東京寄り山側だが、青帯やロゴとの位置関係から前述の博多寄りより低いことが分かる。

521形(博多寄り)・522形(東京より)両先頭車とも、進行方向に向かって右側が高く左側が低い。W1・W2編成ともに共通である。


500系_0126

W1編成は乗務員扉の窓フチが塗装されている(W2編成以降は無塗装で銀色)。10号車車掌室の窓(一番右、W9編成)も同様で、W1編成の写真はないのだがこちらの窓フチも塗装されていて、しかも車体の塗り分けに合わせてダークグレーとブルーに塗装されている。


500系_0124

W1編成(上)は行先表示機が角ばっている。対して量産車(下)は角が丸くなっている。座席表示器もW1編成は若干角がきついようだ。


500系_0125

先頭部を除いた台車カバーの分割線も異なる。W1編成(上)では斜めになっている線が、量産車(下)ではまっすぐになっている。中央のカバーも幅が異なっている(量産車は狭い)。


500系_0007

動画から無理矢理切り出しで、しかも横方向からなので分かりにくいが、W1編成の9号車にはV編成5号車(参考)にあるようなパンタカバーの撤去後がある。

W1編成登場直後の鉄道雑誌を見ると、確かに9号車にカバーがあったことが確認できる。ただし、諸元上は5・13号車にしかパンタがないことになっており、カバーだけが設置されていた可能性がある。パンタ3基搭載も想定していたからだと思うが、結局は2基搭載となったためカバーは撤去された。


ゆのまち様より、W1編成9号車にはパンタカバー跡があるとの情報をいただきました。情報提供、誠にありがとうございます(2015/2/1)。

なお、W1編成は登場時は「JR500」ロゴがなかったり、側面下部のフィンがない時期があったが、営業運転後は量産化改造により上記で紹介した点以外、量産車との差はなくなった。

それと、これは「バリエーション」とは違うかもしれないが、前面窓の編成記号・番号の貼り方にも差が見られるので突っ込んでおく。

500系_0122

W1編成とW8編成の前面窓の編成記号・番号だが、W8編成は窓の縁に合わせて貼られているのに対し、W1編成は少し斜めに貼っている(黒いシート?も合わせて貼られている)のがお分かりになるだろうか?

この斜め貼りは写真のW1編成で見られるので、量産先行試作車の同編成ならではかと思ってしまうが、なぜかW9編成の東京寄りでも見られるのである(博多寄りはなってない)。理由については全く不明だ(大した理由じゃないと思うけど・・・)。W2〜W8編成については、両先頭車ともまっすぐ貼られている。

模型のページで後述するが、トミックスの500系はこの記号をインレタでユーザ施工になっているから、これらを再現するのも楽しいかも(W1、W2、W8、W9編成が再現可能)?

V編成については、V9編成が相変わらず斜め貼りなのかどうかは未確認(模型にはV9編成は含まれていないので、いらぬ心配かも)。それ以外の編成はまっすぐ貼られているようだ。


N様より、V9編成東京寄りは斜め貼りではないとの情報(画像付き)をいただきました。仮にW1編成がV編成化されていた場合、斜め貼りはやめていたかもしれません。情報提供、誠にありがとうございます(2022/8/11)。

●筆者の所見など

500系は筆者の新幹線趣味、鉄オタ復活のきっかけであり、最も好きな鉄道車両でもある。

筆者は「外観がカッコイイ=好き」という公式は必ずしも適用しないのだが(N700系は外観がいいと思ってないけど好きな車両である)、500系については主に外観が「好き」理由になっている。筆者の世代だと100系のほうがインパクトが強くて「500系好きはガキ」という人も少なくないのだが、「500系がインパクトのある車両」だった筆者にとってはやはりこれがベストになってしまうのだ。

季刊誌「新幹線EX」の開発者インタビューによれば、いくら300km/h走行するからといって、あそこまでとんがらせる必要はなかったという。じゃあなぜそうしたのかというと「そのほうがカッコイイから」・・・N700系とは対照的な、遊び心があり、無駄をよしとするコンセプトである。

無駄を徹底排除したN700系と逆の500系。どちらが正しいのかは筆者にはわからない(筆者は「無駄の排除」や「合理性」を否定するタイプの人間ではない)。500系がもっとも好きな車両ではあるが、在来線も含めて他の車両はダメだというつもりも一切ない(というか、嫌いな車両はないしね)。その上で言わせてもらうと、大袈裟だが500系にはオーラが漂ってると思う。ただホームに停車している状態でも、500系は「何かが違う」雰囲気を漂わせているというか、存在感がハンパではない。少なくとも筆者にはそう感じられるのだ。

500系_0123

博多駅でなんとなく撮った写真だが、たかだかホームにゆっくり入線してくる500系に迫力とオーラを感じた瞬間の一例である。

ホームへの入線なんて鉄道では当たり前の光景だが、こんな時でも他の鉄道車両にはない「なにか」をこの形式に感じるのは、筆者だけだろうか。


遊び心・(ある意味の)無駄を持った車両は他にもたくさんあって、それらは楽しい存在であることは間違いない。一方で無駄を排除し機能性・合理性を追求した車両もあるが、そうした「機能を体現した」車両も美学を感じる。機能美というのだろうか、N700系等はそれだろう。その意味では、500系の存在感というのは「遊び心」「無駄」に加えて、300km/h走行での「機能性」「合理性」も持ち合わせていて、それらが奇跡的に融合した結果、醸し出されたものなのだと思う。他にもすばらしい車両は沢山あるけど、ここまで存在感のある車両は筆者の感覚では他に見当たらない。

筆者は新幹線に乗る機会自体があまりないのだが、それでも名古屋以西に行く時(要するに「のぞみ」を使う時)は500系を指名買いしていたので(片道は700系やN700系にすることもある)、新幹線車両としては最も乗っている形式かもしれない。新横浜〜博多を往復で乗り通したのもこの形式だけだ(往路グリーン、復路普通車。帰りはさすがにキツかったが・・・)。

当然山陽新幹線内での300km/h走行も体験済みだが、300km/h走行時は揺れが激しく乗り心地のいい車両とは言えなかった。動画(wmv・約2.6M・27秒・音無し)をひとつ紹介するが、300km/h走行時に車内の案内表示機に「ただいまの速度は300km/hです」と表示されるのを撮影した動画である。これはグリーン車で撮影したのだが、セミアクティブサスペンションを搭載した同車でもこれだけカメラがブレるくらいだ。車掌ではなく、運転士から「ただいま世界最高速度の300km/hで・・・」という案内放送が入ることもあり、ここでも遊び心というかサービス精神のある500系であった。

同じく300km/hで走行するN700系ではこのサービスを行っていない。東北新幹線の320km/h走行が視野に入っている現在、300km/h運転は「普通」になってしまったのかもしれない。500系が輝いていた時代の1シーンとして、記憶にとどめておきたい。

2010年2月末、500系は東海道新幹線から姿を消した。横浜市に住む筆者としては実車を生で見ることは容易ではなくなり、同形式による300km/h運転も、もはや体験することはできない。それが残念かと問われればそうだと答えざるを得ない。

しかし、鉄道は公共輸送のためのものであり、世相や利用者、鉄道会社の都合により形態を変えるのは当然である。500系の東京〜博多間「のぞみ」は約13年間運転していたわけだが、ひとつの時代の節目が訪れたということだろう。はっきりいえば「500系は古くなった」のである。見てくれは未来的でも、内容的には3.5世代くらいの車両なのだから(N700系を第5世代とする)。もはや、東海道・山陽新幹線の車両の中では最も古い形式なのだ。

どんな名車も名列車も、いつかは必ず廃車・廃止になるというのは、過去もこれからも鉄道の宿命である。そのことを当たり前に思っている筆者としては、「のぞみ」としての500系は十分に役目を果たしたと思いたい(冷静に考えれば、新幹線車両として花形列車に13年間というのは特に短いわけではない)。いまさら「のぞみ」復活せよとか、改造して九州新幹線に乗り入れろとか、後継のN700系を叩くなどといった、みっともない主張はしたくない。

500系は現在でも山陽新幹線で活躍中である。300km/hで走ることはもうないし、8両と短くなって各駅停車で使われるその姿にかつての輝きはないかもしれない。それでも以前の外観を保って健在なのはファンとしては嬉しい話であるし、各駅停車でのんびり乗る500系も案外オツなものだ。とはいえ、新幹線車両は15〜20年が寿命といわれ、この500系「こだま」も今後長くはないかもしれない。筆者にとって容易に見たり乗ったりできる存在ではなくなったが、チャンスがあればできる限り乗りに行きたいと思っている。


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