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カトー 九州新幹線800系「さくら・つばめ」レビュー |
トミックス 九州新幹線800系0番台・1000番台レビュー |
2013年1月、トミックスから九州新幹線800系0番台と1000番台発売された。それぞれの製品構成は以下の通り。
品番 | 商品名 | 両数 | 商品形態 | 価格 |
92836 | 九州新幹線 800-0系 6両セット | 6 | ブックケース | 18,700 |
品番 | 商品名 | 両数 | 商品形態 | 価格 |
92837 | 九州新幹線 800-1000系 6両セット | 6 | ブックケース | 18,700 |
トミックスはすでに九州新幹線暫定開業時(新八代〜鹿児島中央)をプロトタイプにした800系を発売していたが、今回は全線開業後の「つばめ」ロゴが廃止され、新ロゴに置き換えられた姿を2つのラインナップで製品化した。ひとつは従来品のリニューアルという位置づけの0番台(旧800系)。新ロゴ仕様をすでに製品化しているカトーに次ぐものである。もうひとつが今回初模型化の1000番台(新800系)。プロトタイプは前者がU004編成、後者がU007編成となる。いずれも過去の同社製品とは編成番号がかぶらない。
車体に関しては実車の段階で新旧の差はわずかであるため、今回の模型も先頭車(というかヘッドライト周り)以外はすべて共通。したがって価格も全く同じである。
手前が0番台(旧800系)、奥が1000番台(新800系)。後者は今回が初製品となる。
旧製品は限定品を除き基本セットと増結セットの組み合わせだったが、今回は0番台・1000番台ともに6両フル編成セットで発売。当然、ブックケースに全車両を収めることができる。
旧製品がそうだったようにインレタなどの付属品はほとんどないが、今回は通電カプラー製品おなじみの動力車メンテナンス用の補助棒が付く。
さて、今回の製品は発売直後からブログで書いたとおり・・・ある程度結論は出ているのだけど、一応真面目にというか(苦笑)、カトー製品やトミックス旧製品を絡めながらレビューしてみた。一部カトー製品の単体レビュー記事と内容がかぶるかもしれないが、そこはお許しのほど。
また、800系旧製品に関しては、すでにネット上に素晴らしいレビューが存在する。今回の製品は旧製品との共通部分も多いから、大いに参考になると思う。当サイトはどうしても後追いになってしまうので、こちらも内容かぶりがあるかもしれないが、あくまでも当サイトの視点でのレビューである旨をご理解いただきたく。
先頭形状や車体各部をカトーとの比較を中心に。
821形(鹿児島中央寄り先頭車)で比較してみた。
ぱっと見には両者に大きな違いは見られない。カトーはノーズ横下部のフィン状になっている部分の表現が強かったり、ノーズ先端が尖り気味でテールライトの位置が上方寄りだったりと差がないわけではないが、他の製品でもあるようなメーカーごとの解釈の違い程度のものであり、どちらも800系として問題なく再現できていると思う。
カトーはノーズ横の先端に向かっての部分、トミックスは側面の「800」のロゴあたりでパーティングライン(金型の分割線)が若干目立つようだ。ただし、両者とも常識的な範囲のもので気になるほどではないと思う。
正面も基本的な印象は変わらないが、テールライトの位置と太さには結構差があるようだ。
実車を見ると・・・カトーは上から見ることを考慮したり、模型ならではのアレンジを加えているのだと思うが、実車に近いのはやはりトミックスだと思う。
屋根に向かっての黒い塗装の部分が別パーツになっているところは両者同じ。前面窓もパーツ自体の大きさはほとんど差はないが、カトーは窓にブラックアウト部分があり(塗装かどうかは分解してないので不明)、少し窓面積が小さく見える。
窓枠はどちらも印刷表現となるが、カトーはワイパーの表現が省略されている。
実車の写真付きで後述するが、運転台コンソール形状には結構な差がある。ここはトミックスの方が実車に近く、カトーは何でこんな形状になっているのか少々謎なくらいだ。
同時発売の1000番台(左)はヘッドライト形状以外はすべて共通なので、造形も全く同じ。
微妙な差ではあるけど、ヘッドライト形状違いによる表情の違いがきちんと出せており、なかなかのもの。
ライト形状の違い。ヘッドライトが3段になっている内部構造がうっすら見えてリッチな印象だ。
1000番台(新800系)のヘッドライトは丸みを帯びているだけでなく、ボディより少し飛び出た「出目金」が特徴となるが、Nゲージサイズでもしっかり再現。
1号車の後端。客用扉のモールド(カトーはやや角ばり気味で「手かけ」がない)、行先表示機はどちらもガラス表現だが、カトーは座席表示機がモールド表現になっている、少々見づらいがトミックスはドア点検ハッチの四隅のボルトを表現しているなど、それぞれのメーカーの700系に似ているような気がする(実車も700系ベースだから?)。
台車中心からやや左にあるジャッキポイントの切り欠きにも差があるが、ここはトミックスの方が適正だと思う。カトーは何でこんなに控えめなのかと思ったら、空気ばね点検カバー(中央のタンク状の物体)の位置が低めだったりする(ボディにかぶってない)。
側面ガラスのはまり具合はどちらも良好。トミックスはもとより、カトーは単独レビューでも書いたが同社らしくない(失礼)ツライチ具合である。
写真はトミックスだが、カトーともども窓ガラスはうっすら緑色が入っている。これは実車も同様で、南国の日差しに対応したいわば「南国仕様」なんだとか。台湾新幹線も同じような感じだと聞いたことはあるが、ソースは失念。
造形に関してはどちらもハイレベルだと思うが、カトーの模型向けアレンジは好みは分かれそうだし、ジャッキポイントの調整も少々苦しそうに見える。一方、トミックスは0・1000番台共に忠実度や各部のバランスが絶妙で一歩抜きんでているように感じた。旧製品の優れていた点を引き継いでいるだけといえばそれまでだが、なにかと欠点が多い今回のトミックスも、造形やモールドに関しては非常に優れたものを持っているようだ。
今回の製品は0・1000番台ともに、屋根板パーツは旧製品から引き継いだものである。屋根上の滑り止めがモールド表現なのも変わっていないが、旧製品と比べて光沢が強くなっている。
パンタグラフは台座のグレーの明るさが異なるほか、トミックスは若干モールドが細かいことが分かる。余談だが、カトーと異なりトミックスにはE2系1000番台が製品にないので800系専用パーツとなっている。
パンタから車端にかけての四角い出っ張りについては、トミックスの方が実車に似ているように思う。
パンタ本体(というか台座)もトミックスの方がそれっぽいかな。
800系ではパンタ車と隣の車両(2・3号車、4・5号車)の連結部は屋根下に高圧線ケーブルを通しているのだけど、そのためのスリットが写真のパンタ車のみならず、対する車両にもきちんと表現してあり凝っている(カトーは省略)。
立ち位置が逆になってしまい申し訳ない(撮影ミス・・・)。2号車の鹿児島中央寄りには高圧線終端処理があるが、カトーは車端でストンと切り落とされ、トミックスは途中で途切れた感じに。
実車はこんな感じで妻面に引き込んでいる。トミックスの700系3000番台(B編成)では引き込みを表現しているが、800系はボディと屋根板が別パーツなので難しかったのだろう。一方、カトーの表現は同社の700系やドクターイエローと同じである。
ちなみに、5号車側はパンタグラフ位置が高圧線の終端になっているため、特別な終端処理はない。
屋根上に関しても特に問題はなく、両者ともよく再現できているといってよいだろう。
カトーと比べた場合、まず気付くのがトミックスの白さ。カトーは若干アイボリーがかっているが、トミックスはとにかく白い印象。実車の白は「パーフェクトホワイト」というそうで、それを模したのかもしれない。もっとも、実車は汚れたり天候により見え方が変わる場合もあるから、どちらが正しいとは一概にはいえない。
屋根上はカトーの方が赤味が若干強い。前面窓周辺から屋根にかけてはトミックスは黒、カトーはダークグレーという感じ。
トミックスも旧製品では結構アイボリーがかっていたりする。白さ具合ではトミックス(今回)>カトー>トミックス(旧製品)という感じである(カトー旧製品は持っていないので不明)。
白以外の色調は変わっていないようだ。
トミックスとカトーの色調比較。白以外はあまり大きな差はないように思う。
こちらはトミックス今回製品と旧製品で。
前面窓から屋根にかけての黒い部分は旧製品では艶消しに近かったが、今回製品ではピアノのような光沢を放つようになった(指紋付きやすいので注意)。最近の新幹線模型は強い光沢がトレンドだが、その流れかと思いきや・・・
ボディ部分は0番台は旧製品のような艶消しに近い半光沢、1000番台はやや光沢が強いという状態で、光沢感の統一という意味ではなんか中途半端。
塗装は光沢の統一感を除けば概ね問題ないレベルだといえる・・・が、ここからが問題だ。
「TOMIX(new)」の写真は今回製品の0番台だが、1000番台も同じである。
模型を買ってきて、下周りが妙に淡白だなと思っていたら、今回製品では黄色○を付けた部分、ノーズ横のレタリング、台車カバー上のロゴ、乗務員扉下の編成番号、エンド表記(821形のみ)がことごとく省略されていた。
確かに細かい部分だが、カトーはもとより、トミックス旧製品にも表現されていたことを考えると、技術的な理由で印刷できなかったわけではないだろう。それともコストを下げたかったのか・・・なんか、単に新しいレタリングやロゴを用意するのが面倒臭かっただけじゃないの?と疑いたくなる。
実車の編成記号やレタリング。確かに他形式の製品では省略されても不思議ではない細かさだと思うが、少なくとも旧製品にはあったものが理由もなく無くなるのは解せない。
コスト的に印刷工程に組み込むのが難しいならば、せめてインレタでも付けておけばいいのに。というか、ここを印刷することで少々値上がりしても(別にマイクロエース並に値上がるわけでもなかろう)、大半のユーザは怒らないと思うのだが。
単に面倒臭かったってだけなら、もうね、○×△(自主規制)。
赤帯上の「KYUSHU SHINKANSEN〜」レタリング、丸い新ロゴと下の文字、「800」ロゴの太さを見る限り、印刷クオリティ(位置や鮮明さ)はトミックスに軍配が上がる。これで乗務員扉下の編成番号や、台車カバーのロゴもあったらと思うと本当に惜しい。
乗務員扉のノブはカトーは銀色の印刷のみ、トミックスはモールドという違いがある。扉のモールドはカトーの方がハッキリしている。扉横の手すりのスケール感はトミックスの方がいい感じ。
前述のジャッキポイントの切り欠きにも注目。
車体中央部のロゴやレタリングは・・・丸ロゴはどっちもどっちという感じだが、トミックスは文字のカスレがほとんど見られず、印刷クオリティでは勝負になっていない気がする。ついでにいうと、カトーは「KYUSHU RAILWAY COMPANY」の位置が低い。この高さは旧ロゴ時代なら正しいので、そのままにしてしまったか。
カトーの単独レビューの時はトミックス旧製品と比べていたので気付かなかったよ・・・
1号車後端。カメラのレンズ収差で右上が歪んでしまっているがご勘弁を。
ここの印刷クオリティも文字やロゴのカスレ具合、スケール感(号車番号や禁煙マーク、でか「1」の大きさ)などでトミックスが優位に立っている。丸ロゴとその文字に金銀が使われているのはどちらも同じ。
5号車は多目的室設置のため窓が一つ埋められたので(カトーの単独レビューも参照)、トミックスもボディを新規製作(旧製品の金型改修だと思うが)して対応。
ここもスケール感や印刷のシャープさでトミックスが相当押してる感じだ。
なんかカトー不利みたいな流れになってしまっているが、一つだけ擁護すると丸ロゴ周囲の文字をなんとか表現しようとしているところはエライ。もちろんカスレがあるし苦しい感じは否めないが、それでも雰囲気は出ていると思う。
一方のトミックスはただの太い線で、そりゃ印刷はシャープになるだろうけどさ・・・勝負に出てない感じが個人的にはマイナス。トミックスの印刷クオリティでカトーのようにやっていたら、という期待があっただけに。
4号車の車掌室周辺。印刷はこれまで通りなので以下略。
車掌室窓のサッシは、カトーはモールドだけだがトミックスは銀色も入っている。行先表示機もトミックスの方が適正で、カトーのは幕式(700系C編成)の大きさになってしまっている。
正面ノーズ先端。今回製品のテールライトは太さや精度(旧製品は若干バリのようなものが残っている)が改善され、数少ない(苦笑)旧製品よりもよくなった点。筆者のトミックス旧製品は限定品なのでU005編成だが、通常品はカトーと同じU003編成。
実車と比べても、ノーズ先端の印刷はどれも合格だろう。
そして問題の・・・トミックス今回製品は0・1000番台で同じ。
今回製品のノーズ部のロゴ・レタリングは印刷のシャープさはともかく、明らかに位置がおかしい。中段の同社旧製品、下段のカトーもちゃんとできているのに。
前述の先頭部車体下部の印刷が省略されたこととか、後述の連結部の問題は納得はできなくとも、例えばコストダウンだとか何らかの理由があることは理解できる。しかし、ここは・・・旧製品ではきちんと印刷できてたのに、なぜ今回は同じことができずに劣化する?どうしてこうなった(AA略)?
今回製品で一番解せない部分だと思う。
ていうか、リコールもんの大失態じゃない?これは。メーカーは頑として認めないだろうがね。
実車のノーズ。今回製品は初心者やライトユーザ向けにシフトしようとして、多少いい加減な印刷でも問題ないと判断した、くらいしか理由が浮かばないが・・・
ユーザを舐めていることにはなんら変わらんけど。
これOK出したヤツ、マジで(再び自主規制。以下、とても文字に起こせない言葉が次々と・・・)
気を取り直して1000番台を見ると・・・丸ロゴの位置がえらい高いなオイ!
821形の海側だけなのと、某ショッピングサイトの画像はそうなってないので、筆者の個体がハズレなだけのようだが・・・
でも晒すッ!よりによって、ドス黒レビュー野郎のところに行っちまったと諦めてもらうしかないねェ(w。前述のノーズ印刷は直らないだろうから修理出す気にもならんな。なんかもう、自分で塗装し直したいよ・・・
まあ、冷静に見れば1000番台(新800系)の特徴である「燕の飛行軌跡」のウェーブは、レタリングも含めてなかなかの再現度だと思う。
奇数号車にある「燕の飛行軌跡」ループは特に問題はなく、ループがあるので丸ロゴが0番台よりも小さくなっている点もきちんと再現されている。
実車編でも書いたが、中間車にウエーブのラインが見られるのはU008、U009編成で、当製品のプロトタイプであるU007編成はループのみとなる。
前面窓周辺の印刷状態。前面窓前縁にあるレタリングはトミックス旧製品とカトーとでは大きさに差があることがわかるが、今回製品はここも省略された(呆)。前面窓後方は省略されたものはないが「800」ロゴの大きさは結構異なる。なお、「800」ロゴは新ロゴ化の際に追加されたものなのでトミックス旧製品に無いのは正しい。
周辺の窓位置から比較すると、トミックスはでかすぎ、カトーは小さすぎという感じか。走らせているときに見栄えするのはトミックスだと思うが。
改めて運転台コンソールの形状を見ると、やはりトミックスの方が実車に近いと思う。実車はかなりガラスのスモークが濃いようで、トミックスは見えすぎな気もするが演出としては悪くない。また、手すりが2つあることもわかるが両者とも省略している。
左が0番台、右が1000番台。1000番台は新800系独自の金色の燕マークが追加されている。黒地なのでかなり目立つし、0番台よりさらに見栄えすると思う。
0番台と同様に「800」ロゴが大きい気がするものの、それほど実車とかけ離れてはいないようだ。
800系の魅力・特徴といえばロゴやレタリングだと思うので、ちょっとボリュームを割いてみた。模型では「印刷が命」といえる見せ場でもあるわけで、だからこそ800系の模型が初めて発売された当時、クオリティには差があるにせよカトー・トミックスともに細かいレタリングもきちんと再現していたのだと思う。
今回比較してみて、改めてトミックスの印刷クオリティ・・・少なくとも鮮明さ・シャープさについては素晴らしいものを持っていると再認識した。他形式でもトミックスは印刷で優位に立つことが多いが、800系の細かい印刷ではいかんなく発揮されていると思う。贔屓目に見なくても、カトーより上手であることは間違いないだろう。
しかし、だからこそ・・・(ユーザメリットとしての)理由もなく印刷を省略し、位置を大きくずらし、それをそのまま販売してしまうことが解せない。従来製品ではできていたので技術的困難があったとは思えないし(カトーもやってるしね)、できなかったというより、やってないだけだろうと。ただのサボりや手抜きだろうと。
後述の連結部は、機構的な問題が絡むので諦める余地が無くもない。しかし、印刷に関しては・・・筆者のボキャブラリーや能力では、擁護できる言葉が全く出てこないし、文章を組み立てることもできなかった。
その他、ポイントになりそうな部分を簡単にチェックしてみた。
ヘッドライトの点灯は、トミックスの0番台は上方からも正面からも丸型がきちんと出ていて、HIDのような青白い光と相まって個人的には好印象。多少明るさにムラがあるが、Nゲージだしまあこんなもんじゃない?という気がする。
1000番台は内部構造は同じながら、「出目金」レンズ効果のため歪んでしまい0番台のシャープさはないが、こればかりは仕方がないか。大きさを考えたらむしろ健闘していると思う。
カトーはピッチが独特で正面がやや苦しい。プリズムが少々出っ張っていて上方から見た方が安定するので、これも同社流の「上から見る」重視の結果だろうか。気になるのは光源の色で、トミックスのみならず実車と比べても黄色すぎるような気がする。
写真では間延びしたような顔になっているが(w、トミックスのテールライトは激マブ仕様。明るい場所なら気にならないが、車体のプラが透けてしまうほど。この点はカトーの方が節度感がある。
実車の0番台のシートは西陣織の3色で、1・4号車、2・6号車、3・5号車で分けられているが、模型でもその組み合わせ通り色分けされている。実車のシートは柄物なので色の特定が難しいが、特徴は捉えていると思う。
カトーは全号車明るいグレー1色なので、この辺はアドバンテージといえる。
1000番台では内装が大きく変わったので、模型でも配色を変えている。2号車(動力車)の濃い茶色は本革シートを表現、1・6号車は西陣織でやや茶色に近い気もするが、その他の号車も特に3・5号車は実車に近い色で、こちらも特徴をよく捉えているといえるだろう。
さすがにあのド派手な金ピカ壁は表現していないが。
旧製品では動力車である2号車がなぜか明るいグレー(ほとんど白)だったので、その点は改善されたといえる。
床下のモールドの濃さはかなり差がある。他形式でもカトーはモールドが濃い傾向にあり800系も例外ではないのだけど、床下も白い800系においては、カトーの方が下周りが引き締まって見え、トミックスも薄すぎるわけではないがちょっと物足りない。
左の写真は6号車海側なのだけど、カトーは横長のダクトが1つ、トミックスは2つと差があるが、実車を見ても6号車の横長ダクトが2つが正しいようであり、ここはトミックスが正解。カトーはエラーとなってしまっている(ここ以外は問題なさそうだが)。
また、話が前後してしまうが上の写真、先頭車の台車カバーを見ていると、カバーのふくらみにステップの窪みがあるところなどはトミックスの方が実車に近い(実車は印刷表現の項を参照)。
たいてい床下はトミックスに不利な判定が下ることが多いが、今回は同社にありがちな床下流用のようなものはなく再現度は高い。モールドを除けば珍しくカトーを上回っていると思う。
灯火類、室内、床下(モールド除く)とも、旧製品譲りながらトミックスが優れている個所も多いのだ。これらが他の雑な仕事で台無しになってしまっているのは本当に悔やまれる。
今回製品はTSカプラーをやめて通電カプラーに変更されたことが大きなポイントだが、通電カプラーは同社の他形式製品でも多数採用されているが非伸縮カプラーなので、旧製品のモールド表現された固定式外幌ではカーブを曲がれない(実際に旧製品に通電カプラーを取り付けて試したらダメだった)。
ではどう対処したのかというと・・・同社には「可動幌」という解決策もあったはずだが、そのためのボディ作るのが面倒くさかったのだろう、なんと外幌を省略した。30年前のカトーやエンドウのアーノルドカプラー製品のような連結面を、2013年の新製品で見られるとは(絶句)。
旧製品(右)と比べると外幌のモールドが消えたことが分かるが、ローリングダンパ(旧製品妻面右上)のモールドも消えた。
特殊なカプラーを使わず、外幌がない製品(マイクロの300系のように無いに等しいものも)は妻面自体の表現はよくなるものだと思っていたが・・・時代を逆行しているどころか、異次元に行っちゃってるレベル。
外幌がある旧製品やカトー(ケーブルヘッドガイシを取り付けていないのはご勘弁を)と並べてみると・・・
貧弱!貧弱ゥ!
今回製品のプロトタイプであるU004編成とU007編成は、外幌の色に違いがあるのだけど(実車編参照)、そんな差異を表現する気は端からないようだ。外幌なんて飾りです(ry、とでもいいたいんだろうか。左の写真見ても、同社の旧製品の連結部は素晴らしいものだったのに、自ら冒涜しているようなもんだ。
それにしても、この30年前の仕様に0系や200系ならともかく、2004年デビューで現役バリバリの800系が組み合わさるビジュアルはある意味新鮮だ。
・・・皮肉ですよもちろん。
レイアウトやジオラマの上に置いてみても・・・とほほな感じ。単体ならともかく、他の外幌付きの製品と並べると際立ってしょぼく見える気がする。
可動幌なしの通電カプラーという組み合わせは初めてであるが、さすがに走行には問題はなく、R=280mmのカーブでもしっかり曲がれることを確認。
座席パーツは従来のままなので、実はTSカプラーを取り付ける余地は残されている。通電カプラーを外し、ASSYパーツを取り付ければすぐに再TSカプラー化が可能になるが、外幌がない・・・ただ、外幌は固定式でいいので自作のハードルは低いかもしれない(旧製品の外幌を「おゆまるコピー」するとか)。
(この後長いので根気よく読んでいただきたい・・・)
実物とはケタ違いの旧カーブを曲がるNゲージでは連結部の幌は省略される運命にある。過去に新幹線模型でも幌が省略された例が無いわけではないが、新幹線の連結部には「外幌」があり、見た目にも新幹線らしさを表現できるものだから、トミックスの「可動幌」や他社が採用している「伸縮式カプラー(カーブでは間隔が広がる)」のように、Nゲージでも外幌を表現できるような連結方式が編み出されてきた。
トミックスの800系旧製品は「TSカプラー」という伸縮式カプラーが初採用され、それまで同社の新幹線模型が採用していた非伸縮式カプラーと可動幌の組み合わせとは一線を画していた。やや使い勝手に難があるカプラーではあるものの、連結間隔や外幌の見た目は他社と遜色ないものであったことは前掲の写真の通りだ。
今回のリニューアルおよび1000番台では、同社他製品で普及しつつあった通電カプラー化がアナウンスされていた。しかし、伸縮カプラーを前提とした旧製品の固定式外幌ではそのまま通電カプラーに置き換えることはできない。公式では可動幌も含めてその対策には触れてなかったが、ボディを作り直す必要はあるものの、可動幌パーツはドクターイエローやレールスターのものが使えるはずなので、筆者はやはり可動幌になるだろうと予想していた。
そして、2012年11月の幕張のショーで試作品を目にすることになったが、まさかの外幌を省略するという斜め上の想定外。時期的に覆る可能性はほとんどなく、まさに30年前の仕様に先祖がえりしたというわけである。
ここまで書いておいてなんだけど、実は筆者、外幌なしというのは表現としてアリだと思っている。前述の通り、Nゲージは幌が無いのが当たり前だし、2012年発売の新幹線模型にだってカトーの200系、外幌があっても無いに等しいマイクロエースの300系のような例もある。実際、それらも走らせてるときなどは案外気にならないものだ。
でも、この800系は・・・他に例があるからいいだろということなのだろうか。実際の見た目以前に、旧製品では新幹線模型の中でもトップクラスの連結部表現だったのに、可動幌や伸縮カプラーといった長年の「解」をあっさり放棄し、平気で「退化」させている後退姿勢がものすごく気に入らない。外幌が「ない」ことではなく、「なくなった」ことが納得いかないのだ。
TSカプラーのままでいいのにと思うが、おそらくトミックスはTSカプラーを生産もろともやめたがっている。採用製品は800系と700系3000番台のみで、TNカプラーのように他社製品や工作などに使われることもないから補修部品以上の意味はなく、お荷物であることは想像に難くない。一方、通電カプラーはリニューアルで採用されることが多いように従来製品との相性も良く、統一したくなる気持ちもわからなくもない。だけども、せめて可動幌にはしておくべきだったろうに。
実際問題、今回の対応でユーザに対するメリットはあるのだろうか。通電機能はそれなりの利点があることは認めるが、無くても基本的な走行や灯火類の点灯には問題ないことも確かだ(他社製品にはそもそも無いのだし)。一方で連結間隔が広く、外幌がなくなり他製品と並べると一層見劣りする見た目のマイナス。その上、ユーザが工作でカバーしようにも難しい個所だ。通電カプラー自体、TSカプラーと比べてそれほど使い勝手が良いとも思えない。はっきりいって、失われたものの方が圧倒的に多いだろう。
TSカプラーはやめたい。でも可動幌はボディ作るのめんどい。じゃあお手軽に金型改修で外幌を省略しようなんて、メーカーにとって都合がよいだけの、時代錯誤も甚だしい最低最悪なチョイスとしか言いようがない。今後、他のTSカプラー採用製品である700系3000番台がリニューアルされた場合、それも30年前の仕様に戻るのかと思うと悲しくなってくる。
筆者は模型のレビューを書くにあたり、発売前からある程度頭の中でプロットしている。今回の800系についても、連結部の仕様にがっかりしつつも全体の造形はよかったし、印刷もトミックスの技術力なら心配ないと思っていたので、カトーとの比較を交えつつ「連結部以外は概ねすばらしい」という流れのレビューを練っていた。ところが、実際に製品を買ってみたら連結部の問題だけでなく、売りである(と思っている)印刷が省略されていたり、位置が大きくずれている想定外が。自分の買った個体がたまたまハズレだったとか、幻覚でも見ているのかと自分を疑ったほどだが(w、それは現実であり、製品「仕様」であることが明るみになってゆく。
これまでも旧製品のリニューアルというのは何度もあったが、どんなに悪くても「変わり映えしない」程度で、退化・劣化したような例はお目にかかったことはない。その意味では、今回は「脱帽あるいは脱毛」という、某伝説のクソゲーのレビューで有名なフレーズを引用せざるを得ない。頭の中に用意していたレビューのプロットだけでなく、それまで持っていたトミックスへの信頼も崩壊したのは言うまでもない。
冷静に見れば、今回比較したカトーにもおかしなところは沢山あるし、造形・印刷品質・床下・灯火類など、大部分は旧製品から引き継いだものとはいえ、トミックスが上回っている点も数多い。初めてこの製品に触れた初心者や、ライトユーザならこんなものかと思う程度かもしれない。マニアが望んでいるものと、実際に世に出るものが乖離することはよくあるが、もしかしたら、このレビューも全くのお門違いなことを書いているのかもしれない。
だが、鉄道模型は初心者やライトユーザが満足すればそれでよいのだろうか。走らせるだけでなく、手にとって、近くで眺めてディテールや精巧感を楽しみ、時にはマニアックな考証や作り分けから学べることだってあるはずだ。鉄道模型は100%趣味性の、生活には必要ないもの。それを作って売ってるメーカーが、端から妥協してどうするのかと。
無論、今回製品もプラ量産品であり、いろいろ妥協することもあるだろう。ちゃんとやるならもっと高くなるよ、そんなに文句言うなら手を動かせ、という反論もあるだろう。しかし、トミックスの800系はもともと完成度が高かったこともあるが、筆者をはじめ、この製品に期待していたユーザは、決して無理な要求や期待はしていないと思う。トミックスへの「信用」があるからこそ、いつも通りの仕事をしてくれればよいと。それだけで、ハイレベルな製品になったはずだと。
ところが、実際に出てきたものは、作り手のこだわりなんて一切ない、できることをやらずに露骨に手を抜く。これまでにあったもの、できていたことが理由もなく無くなった製品。こんなの、「量産品ゆえの妥協」以前の問題だ。それと引き換えに価格が下がっているわけでもないし、ユーザ側での対処(工作)も非常に難しい個所に問題が集中している。メーカーにはメリットがあるのかもしれないが、ユーザには何のメリットもないのだから面白くないに決まっている。
さらにいうと、当初2012年夏ごろの発売予定だったのが(遅くとも2012年2月には製品化発表されていた)、半年くらい延期された経緯を持つ。途中でTSカプラーから構造変更を伴う通電カプラーに変更されたとすれば延期は理解できなくもないが、金型改修による外幌の省略という安易な結論、それとは関係ない印刷の省略やズレ。時間をかければかけるほどモノは良くなる・・・とは断言できないが、逆に退化・劣化するなんて前代未聞。半年も延期して何やってんの?といわれても仕方がなかろう。
鉄道模型が玩具とは異なる、実物を可能な限り再現する「模型」だとするなら・・・メーカーの都合でそれを担保できていない(していない)今回製品は「商品」として成立していない。レビュー中、「リコールもんの大失態」と書いた理由はそこにある。だけど、メーカーは絶対にそんなもの認めないだろう。そのうち闇改修・・・というのならまだよくて、今後も悪びれることなく今回製品の仕様で再生産されてゆく。当分リニューアルはないから、トミックスの800系は今後数年間、この仕様でフィックスしてしまったということだ。
ユーザが望むものを作る気なんて微塵もない、というのならそれでもいいが、なんの罪もない模型が可哀想。今回のプロダクトだけでなく、自社の旧製品にだって、800系の実車にも失礼だと思う。新幹線を愛する者として、腹が立つし悲しい。
模型とゲームは単純に比較できないが、ただセコいだけのこの製品と比べたら、冒頭に書いたあのクソゲーの方が伝説化しある意味人気を得た分、遥かに上等かもしれない。
ここまでの流れで分かるように、正直購入は勧めにくい製品である。ていうか、買わない方がいいといいたい。それは製品の出来のみならず、こういう製品は売れてはいけないと思うから。
発売日にいの一番に買ってるくせに何言ってるんだと思われるかもしれないが、筆者は人柱を自ら買って出ている「歪んだユーザ」である(もちろん純粋に楽しんでもいるが)。たとえ模型がハズレであっても、それをネタにレビューを書き散らし、自分のサイトの肥やしにできればある程度は納得するし、いつ・どうやるのかは全く未定だが、いずれ工作で何とかしようと楽観的に考えている面もある。
それゆえに、普通のユーザの方にとってはガッカリする結果しか見えてこないのだ。
今回製品のレベルでも良いという人もいるだろうし、カトーでいいじゃんと言いたくても、カトーより優れた点が多数あることも事実。現時点では新800系(1000番台)の製品はこれしかなく、背は腹に変えられない。自分で容認・納得できるなら、この製品を購入することは止めないし、止めることもできない。ただ、買うなら極力安く買った方がいいと思う。少なくとも、この製品には一般的なNゲージの価格、すなわち定価〜ちょっとの割引程度の価値はないから。
今回製品に他の価値があるとすれば・・・造形などの基本設計だけは良いので、再塗装や改造を前提とした「キット」として割り切るなら悪くないかもしれない(えらくコスパ悪いキットだが)。ただ、ロゴやレタリングが鬼門で、赤帯もその細さから塗装表現は現実的ではない。最近はデカールをプリンタで作ることができるが、800系は金銀が入るので一般的な家庭用プリンタでは無理。MDプリンタは生産やめちゃったし・・・となると特注のインレタか(結構高いんだよね)。ボディの白だけ塗装してインレタ施し、クリアコーティングすれば今回製品よりも遥かにマシなものになるかも。連結部は再TSカプラー化、もしくはTNカプラーにして外幌を追加してやればよいだろう。
・・・鉄道コレクションの改造や古いモデルのレストアじゃなく、2013年発売の完成品(しかも新幹線)の話してるんだよな?やれやれだぜ・・・
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E2系
E4系
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