●実車の概要

東海道・山陽新幹線の第5世代の車両として、JR東海とJR西日本が共同開発した。2005年3月に量産先行試作車が登場、その後は各種試験を経て量産車が制作され、2007年7月から営業運運転を開始した。また、山陽新幹線と九州新幹線の相互乗り入れ仕様もJR西日本とJR九州で共同開発し、2008年10月に量産先行試作車が登場。その後量産車も順次増備され、2011年3月から営業運転を開始した。

形式は前作700系とのつながりを感じさせる「N700」となったが(開発中は「700N」だった)、内容的にはフルモデルチェンジであり相当な進化が見られる。

外観的には「ダブルウイング・エアロ」と呼ばれる先頭形状が特徴。トンネル微気圧波対策として遺伝的アルゴリズムという方法で決定された形状である。トンネル微気圧波には500系のような超ロングノーズにするのが有効ではあるが、先頭車両の定員が減ったり居住性が犠牲になることがある。N700系は編成定員1323名、各号車の定員も300系・700系と完全に互換性を維持するために、先頭形状は従来とあまり変わらない長さになっている。短い先頭形状でトンネル微気圧波対策をするには、このような複雑な形状が必要ということなのだろう。

他にも、空気抵抗や騒音の減少につながる全周幌の採用や小さくなった側面窓、フルカラーになった側面表示機など700系には見られなかった特徴が数多くある。

性能的にも進化していて、最大の特徴は車体傾斜装置の搭載により東海道新幹線内のカーブ通過速度を引き上げたことである。東海道新幹線の最高速度は270km/hとなるが、東海道新幹線は後発の新幹線と比べてカーブがR=2500mmときついため、これまではカーブでは250km/hに減速する必要があった。しかし、N700系ではわずかに1度内側に車体を傾斜させることで270km/hでの通過を可能にしている。カーブで減速・加速が不要になるなら、エネルギー効率にもプラスである。

最高速度は500系と並ぶ300km/hで、山陽新幹線内ではこの速度で走行する。加速も通勤電車並みの性能が与えられ巡航速度に達する時間も早く、東海道新幹線を(減速区間がないわけではないが)通しで270km/hで走行できることも含めて、性能面では500系をも凌駕しているといっていい。2008年3月以降は「のぞみ」が品川と新横浜の両方に停車するようになったにも関わらず、従来より所要時間が短い便もあるくらいだ。

車内設備は従来通りビジネスライクなものだが、グリーン車のシートが改善されたほか、喫煙ルームを設置し、全車禁煙とした点が新しい。また、コンセントの数が増設されたり、テーブルがA4ノートパソコンでも置きやすいサイズになるなど、ビジネス客の多い東海道新幹線に見合ったものとなっている。

一方、山陽・九州新幹線直通乗り入れ仕様は主に「さくら」「みずほ」で使用され、事実上「ひかりレースルター」の後継となる。車体など基本的な部分は16両編成版と変わらないが8両編成となり、塗装や内装が独特なものとなっている。

さらに、JR東海は改良型である「N700A(Advanced)」と称するN700系1000番台を増備、2013年2月より営業運転を開始した。外観・内装は大きく変わらないが、中央締結式ブレーキディスクや定速走行装置などを搭載し、走行性能はより進化したものとなった。JR西日本も2013年12月よりN700Aを導入し、さらに勢力を拡大することに。また、JR東海・JR西日本ともに従来のN700系にN700Aの一部仕様を盛り込む改造を実施し2016年4月現在、全編成の「N700A仕様化」が完了している。

かつての0系を除けば、これほどの編成数・両数が存在する形式は他になく、名実ともに東海道新幹線系統の主力車両といえるだろう。

N700_0101

小田原駅を通過するN700系(Z72編成)。JR東海が所有する、N700系の基本形。

N700_0102

逆光気味に撮るとその特異な造形がよくわかる(小田原の上り狙いはどうしてもテカる・・・)。

N700形の先頭形状は正面から見ると、このように鳥が翼を両側に広げてるように見えるので「ダブルウイング・エアロ」と呼ばれている。


N700_0103

(500系と比べたら)短いノーズに複雑な形状。最新の空力テクノロジーが詰まっている。好みの分かれる形状だとは思うがまさに機能美。


N700_0104

真横からノーズを見ると、500系や700系と比べて意外と先端部は切り立っていることがわかる。当然、計算尽くされた上の形状である。


N700_0105

この角度から見ると、まるで生き物のような印象を受ける。時速300km/hの空気を引き裂くこれらの曲線や面には、すべてに意味がある。


N700_0106

500系と異なり先頭部に客用扉を付けることができたN700形だが、乗務員扉と客用扉の形状が先頭形状に巻き込まれたためすごい形状になっている。ここもノーズ部分に相当するから、先頭の客用扉はプラグドアという車体との段差が少ない方式が採用されている。

従来の300系や700系と乗車定員の互換性や使い勝手を保ちつつ、500系と同じ最高速度300km/hを実現するとこうなるという見本だろうか。執念すら感じるのは筆者だけ?


N700_0107

先頭車の屋根後方にはこのように段差がある。先頭部に近い屋根は高さが若干低くなっているためだが、これもトンネル微気圧波に対する空力対策のひとつである。


N700_0108

先頭部の形状からすると、車体全体の形状は意外とスクウェアな印象。先頭部の客用扉とその他の客用扉の段差の違いが分かるだろうか?

先頭部以外はコストを考えてプラグドアではなく通常の引き戸になっている。


N700_0109

N700系の外観上の特徴でもある全周幌。写真は出場したてのZ22編成で(しかも試運転中)きれいな状態だが、走り込んでる編成は汚れが目立つような・・・騒音や空気抵抗減少には相当効くらしく、今後の新幹線車両の標準装備品になると思う。


N700_0110

右の700系と比べても、側面の窓はかなり小さくなった。N700系の窓が高い位置に見えるが、カーブで車体が傾いているだけなので念のため。


N700_0111

ヘッドライトはHID(放電灯)が採用された。在来線車両やJR東日本の新幹線車両には採用実績があったが(自動車用はもっと前からあるが)、東海道新幹線系統の車両ではN700系が初めて。片側2灯づつという新幹線車両の伝統に沿った配置である。


N700_0112

500系や700系ではテールライトは分離されていたが、N700系は再び同一に。ただし、光源はLEDになっているのでフィルターで赤くしていた0系などとは異なる。ヘッドライトを避けてLEDが配置されているのでユニークな点灯だ。


N700_0113

側面の行先表示機はLEDによる大型のフルカラータイプとなり非常に見やすい。日本語・英語が交互に表示され、最近は在来線にも採用実績が増えているアイテムだ。


N700_0114

側面に貼られた、スピード感あふれるN700系のロゴステッカー。よく見るとN700系がいる・・・


●編成バリーション

大きく分けると東海道・山陽新幹線で使用する16両編成版と、山陽・九州新幹線で使用する8両編成版がある。それぞれ同タイプの車両をJR東海とJR西日本、JR西日本とJR九州で所有する。16両編成版はN700Aの登場および従来車の改造により、多彩な番台区分とバリエーションを持つ。

編成 所有者 編成番号 両数 MT比 番台 特徴その他
Z JR東海 0 16 14M2T 9000 量産先行試作車・X編成に改造済み。
1〜80 0 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。X編成に改造済み。
G 1〜51(予定) 1000 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。「N700A」。
X 0 9000 量産先行試作車・営業運転には用いない。Z0編成の「A」仕様改造車。
1〜80 2000 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。Z編成の「A」仕様改造車。
N JR西日本 1〜16 3000 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。K編成に改造済み。
F 1〜9(予定) 4000 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。「N700A」。
K 1〜16 5000 東海道・山陽新幹線(東京〜博多)で運用。N編成の「A」仕様改造車。
S 1 8 8M 7000 量産先行試作車。運用は量産車と同じ
2〜19 山陽・九州新幹線用。新大阪〜鹿児島中央で運用
R JR九州 1〜11 8000

●Z編成(N700系0番台・9000番台)

JR東海が所有していた編成で、16両編成、編成定員1323名、白地に青帯、グリーン車3両という東海道新幹線の従来車に準じた仕様となっていて、N700系のもっとも基本的な形態となる(前出の写真はすべてZ編成)。「のぞみ」を中心に「ひかり」「こだま」でも活躍していた。

全部で81編成在籍していたが、その中でも特色あるのが量産先行試作車のZ0編成(9000番台)。この編成は通常は営業運転には使用されず、もっぱら試験専用車と化しているが、量産車と異なり喫煙ルームの窓がなかったり車掌室の位置が違うなど、外観的には後述のN編成より変化ポイントが多い。

Z0編成は各種試験を行うほか、2009年11月に「高速鉄道シンポジウム(各国の大使など招いた、要するに海外への売り込み)」の試乗列車に使用され、332km/hという速度記録を出している。ドクターイエロー以上に神出鬼没であり、めったに見られないレア編成でもある。

後述のX編成(2000番台)に順次改造が行われ、2015年8月に全編成の改造が完了しZ編成は消滅した。Z0編成も2014年4月に改造が完了しX0編成となっている。

N700系_0115

2009年の浜松工場のイベントにて。写真は全般検査中のZ0編成の16号車だが、先頭車の外観は量産車と全く同じ。ちなみに、車両の前はステージなっていて親子連れが記念撮影に勤しんでいた。


N700系_0116

デモンストレーション用にジャッキアップされているが、再塗装されピカピカのZ0編成の1号車。乗務員扉窓や、車体裾部に「Z0」の表記が見える。


N700系0117

Z0編成の15号車だが、客用扉左の空白部分には喫煙ルームがある(青い囲み)。Z0編成は後付けで喫煙ルームが設置されたためか窓がない。15号車以外の喫煙ルーム付き車両も同様。


N700系_0121

こちらは喫煙ルーム部分に窓がある量産車(Z9編成)の15号車。窓の大きさや数は号車により異なる。


N700系_0118

Z0編成の特徴「だった」のが号車と禁煙マークの大きさと位置。号車表示は小さく(従来車に比べたら大きいが)、禁煙マークはその横に貼られていた。

「だった」と書いたのは、このときの全般検査で再塗装と同時に量産車と同じ表記になったから(写真の6号車は再塗装前のもの)。上の1・15号車と、さらに上の量産車の号車表示と見比べると、号車表示の大きさや禁煙マークの位置違いがよくわかる。


N700系_0125

2010年8月、東京駅でN700系の調査撮影をしていたら、偶然にもZ0編成が降臨!想定外の事態だったが、短い停車時間の間に何枚か写真を撮ることに成功。

前述の通り、先頭車の見た目は全く同じことの証左だが、この写真だとZ0編成なんだか量産車なんだかわからないのが悲しい(苦笑)。


N700系_0126

「試運転」の表示、「回送」扱いのホーム案内表示、全ての窓で下がったブラインド、9000番台の車番。ああZ0編成だと感じる1枚・・・

車番以外は、量産車の試運転でも全く同じ景色が展開されますが・・・orz


N700系_0127

試験に使用する編成らしく、パンタグラフ脇に点検用の投光器があるのがZ0編成の特徴(写真右側がパンタグラフ側で、パンタカバーも見える)。

この日は猛暑日で日差しもハンパなく強かったが、一応点灯はしていた(意味あるのかなぁ?)。


N700系_0128

連結部屋根にある高圧線のジョイントの形状が四角く平べったいものに変更されていた。一番上は海側、中段の山側は傾斜部があって独特な形をしていたが、300系にかぶられてしまった。一番下は量産車(Z0編成も変更前は同じ)のものである。

このように車体各部の小改造やテストを行うのもZ0編成の仕事(いじられキャラ?)。この日東京駅に来たのも、ジョイント形状変更のテストだったのかもしれない。なお、後に通常のジョイントに戻されている。


N700系_0129

2・3号車間を比較してみた(上がZ0、下がZ27)。

@喫煙ルーム窓の有無。Z0編成にはない。A3号車禁煙マークの有無。量産車は全車禁煙マーク付きだが、Z0編成は従来車種と同様にマークがない車両がある。B客用扉脇の点検用ハッチの有無。

点検用ハッチは700系以前はすべてのドアについていたが、N700系では省略されている個所がある。その上で、Z0編成と量産車では数と位置が異なっている(詳細は模型のレビュー記事で後述)。


N700系_0012

2011年11月、東京駅に現れたZ0編成にはグレーの全周幌が装備されていた。従来の全周幌は汚れが激しいので対策品のテストだろうか?別の連結部ではベージュの幌も装備していた。


N700系_0014

同じタイミングで、中央締結式のブレーキディスクが装備されていた(ディスク上にボルトがある)。N700A系に装備されることがアナウンスされているため、実走テストを行っているのだろう。


余談だが、Z0編成の喫煙車・禁煙車の配分は従来車と同じなので、仮に営業運転されるとしたら喫煙できる車両があることになるが、Wikipediaでは「完全禁煙で運転される」ともあって、Z0編成の喫煙・禁煙については謎が多い。前述のとおりZ0編成にも(量産車とは数と位置の違いがあるとはいえ)喫煙ルームはあるのだが、なぜかその存在がスルーされている。試験用なので実はハリボテだったりとか…Z0編成による営業運転が実現していない以上、勘ぐっても仕方がないのだが。

●G編成(N700系1000番台)

JR東海が所有する編成で、「N700A(Advanced)」と称される改良型。基本的にはZ編成に準じた仕様であり大きな変化はないが、外観・内装に若干変化があるほか、中央締結式ブレーキディスクや定速走行装置などを搭載し走行性能が改良されている。

2013年2月より営業運転を開始、現在のところ51編成増備予定で700系を初期車から順次置き換えている。

N700系レビュー0035

「N700A」こと、1000番台G編成(写真はG6編成)。ぱっと見には、従来のN700系と大きく変わらない。

N700系レビュー0017

2012年9月15日、東京駅で撮影していたらN700Aの試運転列車に偶然出くわした。この時は初の東京駅入線だったとのこと。

N700系レビュー0018

G編成はかつてJR東海の100系が使用していた記号だが、N700Aで復活となった。写真は第1編成なのでG1編成となる。

乗務員扉・客用扉を見る限り、従来型のN700系とまったく変わらないようだ。


N700系レビュー0019

左がG1編成(N700A)、右がN12編成(従来型)。基本的には改良型なので、ぱっと見には違いは分からない。


N700系レビュー0020

2・3号車間も喫煙ルームの窓を含めてまったく変化なし。客用扉下部の横にあるドア点検ハッチの配置も従来型とまったく変わらない。唯一の違いは形式番号が1000番台であることだけだ。

真っ白な全周幌が新車であることを物語る。


N700系レビュー0021

形式番号が1000番台になっているのがわかる。

N700Aでは青帯を分断している大胆なデザインのロゴに変更されたが、保守的なイメージがあるJR東海らしくないかも?ロゴの下に書かれている文字は「SHINKANSEN series N700 Advanced」。

従来のN700系では1・3・7・11・13・15号車にロゴがあったが、N700Aでは奇数号車すべての東京寄りにロゴが配される。


N700系レビュー0022

車輪に取り付けられた、中央締結式ブレーキディスクが確認できる(G3編成)。


N700系レビュー0023

外観上の変化は少ないが、ヘッドライトの形状が若干変更されている。上段がN700Aで下段が従来型。N700Aはライトの後方(写真左側)の目じりの部分が少し鋭くなっている。

内部構造にはまったく変化はないようだ。


N700系レビュー0024

左がN700A、右が従来型。


N700系レビュー0025

先頭部の青帯のラインも変更され、上段のN700Aは明らかに青帯の先端が伸びていることがわかる。下段は従来形(Z6編成)。乗務員扉にある青帯の切り上げ開始位置も、N700Aでは若干前寄りになっている。

ただし、後述するが従来型でも青帯が伸びている編成が一部存在するので、厳密にはN700Aならではの特徴とはいえないかもしれない。


N700系レビュー0026

青帯の先端はN700A(上)は運転席窓まで達しているが、従来型(下)は運転席窓のかなり手前で止まっている。

しかし、このように写真を並べでもしないと差は分かりづらく、単体で見ると案外気付かなかったりする。


N700系レビュー29

屋根上の高圧線がN700A(上)では屋根板の外板と一体化された。従来形(Z・N編成、下)は屋根板と高圧線の間に隙間があることがわかる。

九州新幹線直通用(S・R編成)で採用されていた仕様が、N700Aにも波及したことになる。


N700系レビュー30

写真は上段・下段ともに2号車だが、N700A(上)では床下機器が変更されたことにより、従来型N700系(下)の2・4・13・15号車にあった横長のダクトが廃止されている。

なお、パンタ車である5・12号車は従来型の段階でも横長ダクトがある編成とない編成が存在する。きちんと調査したわけではないので断定はできないが、ざっと調べた限りは後述の5・12号車台車カバーの差異と連動しているようで、おそらくダクト有りはZ1〜42編成、N1〜9編成、無しはZ43〜編成、N10〜編成ではないかと思われる。


N700系レビュー0027

「従来型との差異」というわけではないが、パンタ車(5・12号車)のZ0編成のような投光器が装備されていた。ただし、7000番台のS1編成が試運転中は装備していたものの営業運転後は撤去したのと同様に、G1編成も撤去された。

画像は動画から切り出した。


●X編成(N700系2000番台・9000番台)

JR東海が所有する編成で、Z編成にN700A(G編成)の一部仕様を盛り込んで改造したもの。X編成に改造されるにあたり2000番台が付番されることになったが、試作車X0編成の番台区分は9000番台のままである。

N700系レビュー0031

Z→X編成改造の第一弾、X65編成(元Z65編成)。こうして見る限り、外観上の変化は無いに等しく思える。

N700系レビュー0031

側面のロゴに小さな「A」の文字が追加されているが、気合が入ったG編成(N700A)のそれと比べると少々やっつけ感がある?G編成では奇数号車の東京寄りにロゴが配置されているが、X編成は「A」が追加されただけで位置・号車ともに従来と同じ。

G編成と同様、中央締結式ディスクブレーキに変更されていることがわかる。


N700系レビュー0033

基本的には走行機器に関する改造が主なので、外観上の変化はロゴ以外ほとんどない。N700Aでは青帯が前方に延びていたがX編成は従来と同じ。ヘッドライトの形状も全く変化はない。

X編成はかつて100系が使っていたもので、G編成に続き100系の編成記号復活となった。編成番号はZ編成時代のものをそのまま引き継いでいる(例:Z65→X65)。形式は2000番台となったが、これも従来の番号に2000を加算しただけである。


N700系レビュー0034

床下もZ編成から変わっておらず(横長のダクトも残ったまま)、とにかく外観上の変化が少ないX編成だが、屋根上の高圧線はG編成と同様、屋根板までカバーされたものに変更された。ただし、従来のものにカバーを追加しただけのようで、G編成のそれと比べると溶接跡のようなものが目立つ。


●N編成(N700系3000番台)

JR西日本が所有していた編成で、東海道新幹線への直通用編成である。JR東海は東海道新幹線では16両編成の営業運転しか認めていないから、内容的にもJR東海のZ編成に準じている・・・というか、ほとんど同じ仕様である。運用もZ編成に準じたものとなっている。

300系や700系も両社で所有し合う形式だが、これらはシートの色や台車、ジャッキアップ穴の有無など仕様に差があった(特に700系は一目でわかるくらいの差がある)。しかし、N700系は以下に挙げた程度しか仕様差がなく、一見するだけでは見分けるのは難しい。

  • 前面窓などに貼ってある編成記号がJR東海車は「Z」、JR西日本車は「N」
  • JR西日本車は製造番号に3000番台を付番(これは300系や700系に準じている)
  • 側面の形式番号横にあるJRマークの色が異なる
  • 車内放送のチャイムがJR東海車は「AMBITIOUS JAPAN!」、JR西日本車は「いい日旅立ち」

Z編成と同様に後述のK編成(5000番台)に改造され、2016年1月に全編成の改造が完了しN編成は消滅した。

N700系_0119

JR西日本所有のN10編成。ぱっと見ではZ編成と区別はつかない。

N700系_0120

JRマークがオレンジならばZ編成、青ならばN編成(共に両社のコーポレートカラー)。N編成は製造番号が3000番台なのもポイント。それぞれZ23編成とN6編成から撮影したもの。700系とは異なり、フォントは統一された。


●F編成(N700系4000番台)

「N700A」のJR西日本版で2013年12月より運用開始。仕様はJR東海のG編成とほとんど同じである。現在のところ9編成の増備計画があるが本数が少ないためレアな存在となっている(画像も用意できなかった・・・)。

●K編成(N700系5000番台)

JR東海のX編成に相当する編成で、N編成にN700Aの一部仕様を盛り込んで改造したもの。N編成の3000番台に対し+2000の5000番台が付番されている。また、X編成に対して+3000の関係性も引き継いでいる。

N700系レビュー0041

N→K編成改造されたK5編成(元N5編成)。JR東海のX編成同様、外観上の変化はほとんどない。

N700系レビュー0036

改造内容はJR東海のZ→X編成と全く同じで、側面ロゴに小さな「A」が追加されているが、やはり改造前のN編成とは見た目の変化は少ない。


N700系レビュー0037

編成記号はかつて0系が使っていたK編成。番台区分は5000番台となった。JR東海のZ→X編成と同じく、編成番号はN編成時代のものをそのまま引き継ぎ(例:N4→K4)、形式番号も従来の3000番台に2000を加算しただけである。

N700系は「N700A」が+1000、「A」改造車は+2000を加算するルールになっているようだ。


N700系レビュー0038

JR東海の編成は台車カバー中心部にある空気バネ点検カバーを順次グレー1色に塗り替えていて(後述)、「A」改造車も当然のようにそうなって出場しているが、K編成は塗り分けられたままになっている。N編成も未だに塗り分けられたままであり、JR西日本車と判別できる数少ない差異となるかもしれない。


●S編成(N700系7000番台)

2011年3月に九州新幹線の全線開業し、博多で山陽新幹線と九州新幹線が接続された(それまでの九州新幹線は末端の新八代〜鹿児島中央から開業したので独立していた)。それに合わせてN700系をベースにした、山陽新幹線と九州新幹線を直通運転する車両を用意することになった。JR西日本所有車はN700系7000番台、S編成を名乗る。

車体など基本仕様はZ・N編成(以降、X・K編成もZ・N編成と表記する)と同じだが、需要に合わせて8両編成となり、九州新幹線内の急勾配に対応するため全車電動車となった。一方、東海道新幹線への乗り入れは想定していないため車体傾斜装置は省略されている。台車もZ・N編成とは異なり、500系などで使用するJR西日本タイプとなっている。最高速度は山陽新幹線内が300km/h、九州新幹線内が260km/hとなる。

外観は「白藍」という青味の強い白に「濃藍」という藍色のラインが入る独特な塗装となった。700系7000番台「ひかりレールスター」の後継列車としての役割も兼ねているため、車内設備も2+3列の自由席のほか、2+2列の指定席も引き続き用意されている。一方でセミコンパートメント(簡易個室)が廃止になり、グリーン車(「室」といった方がいいかも?)が新たに登場した。内装デザインも「和」のテイストが盛り込まれた独特なもので、ビジネスライクなZ・N編成とは一線を画している。

S1編成は量産先行試作車だが、Z0編成と異なり量産車との差はほとんどなく、量産車と区別なく営業運転に用いられている。試運転時代はZ0編成と同様にパンタグラフ脇に投光器があったが、現在は撤去されている。

新大阪〜鹿児島中央間で「さくら」「みずほ」、一部九州新幹線内で「つばめ」に充当されている。

N700系_0003

新山口駅を通過するJR西日本所有のS1編成(顔が白飛びしてしまったorz)。8両編成と短い

N700系_0005

先頭形状はZ・N編成と変わらないが、ノーズ先端部は下部まで白藍で塗装されているのが特徴(写真はR6編成)。


N700系_0007

側面に何箇所か掲げられたロゴはJR西日本とJR九州の直通を意味しており、「手と手を取り合う」がモチーフになっている。

写真は海側なので右側(新大阪寄り)がJR西日本となるが、山側ではきちんと逆になっている。


N700系_0008

Z・N編成と同様、フルカラー式の行先表示機が採用されている。「さくら」の表示はピンク色で列車名に合っている。筆者の地元では見ることができないので新鮮。


N700系_0006

「ひかりレールスター」と異なりグリーン車が用意されたが、需要に合わせて6号車の半室のみに設定された。中央の窓がない部分が普通車との境目となる(写真左側がグリーン車)。

グリーン車と普通車の合造車は東北・上越新幹線の200系に存在していたこともあるが、新製時から合造車というのはこれが初めてである。


N700系_0039

Z・N編成の先頭車両は従来の300系・700系と座席数を合わせるために中間車よりもシートピッチを若干狭くしているが、東海道新幹線に乗り入れないS編成にはその手の制約がなく、中間車と同じシートピッチになっている。

その結果、S編成では座席が1列少なくなり、外観上も客用窓が1つ少なくなっていて、後位の客用扉と客用窓の間隔も広い。


N700系レビュー0015

Z・N編成とは異なる仕様のひとつとして、S編成(写真上)では屋根上の高圧線が屋根板の外板と一体化していることが挙げられる。Z・N編成(下)は、屋根板と高圧線の間に隙間がある。

前述の通りこの仕様はN700Aにも採用された。また、Z・N→X・K編成へ改造の際にも一体化されている。


N700系レビュー0016

S編成は4・5号車間(上)、Z・N編成は8・9号車間(下)にある傾斜型ケーブルヘッドの仕様も異なる。Z・N編成では従来よりも角度がきつく高い位置にガイシがあるが、S編成では700系などと同程度の高さに抑えられたものが採用されている。

その結果、高圧線との干渉を防ぐためにこの部分だけ幌の上部が開いており、「全周幌」ではなくなっている。


N700系_0009

量産先行試作車となるS1編成は他の編成同様に営業運転に用いられているが、2011年8月に見たときには4・5号車間の全周幌が黒くて独特な形状のものが装備されていた。

試運転時の装備のまま営業運転に入ったためのようで、現在は量産車と同じ幌に変更されている。


N700系_0010

S1編成は当初、Z0編成のようにパンタグラフ脇に点検用の投光器を装備していたが、試験が終了し営業運転に入った時点で撤去されている。車端部にある2つの蓋状のものが撤去跡。


●R編成(N700系8000番台)

JR九州所有車で、仕様的にはJR西日本のS編成とほとんど変わらない。番台区分や編成記号が異なる他は、JRマークが赤(JR九州)、青(JR西日本)くらいの違いしかない(Z・N編成の関係と似ている)。運用もS編成と同じである。

ちなみに、「R編成」は0系で最後まで残った6両編成が名乗っていた編成記号で、N700系8000番台は2代目ということになる。S編成もN編成も以前は0系が使用していた編成記号なので、こちらもN700系が受け継いでいる結果に。

運用開始当初から10編成が活躍しているが、2012年に1本増備され11編成となった。

N700系_0004

新山口駅に停車中のR8編成。JR九州が所有するN700系となるが、見た目も中身もS編成とほぼ同じ。

N700系_0011

JRマークはJR九州のコーポレートカラーである赤で、8000番台が与えられている。S編成は青で7000番台となる。


●製造年次や改造などによるバリエーション

700系では製造年次による細かな仕様変更が比較的多く見られたが(700系のページ参照)、N700系は少なくとも外観については全編成大きな仕様変更は見られない。短期間にハイペースで増備されていることもあるが、それだけN700系は完成された車両なのだろう。

●先頭部センサー

700系も一部編成で装備していたが、N700系にも装備した編成が存在する(Z・N編成の話で、S・R編成には装備した編成はない)。

N700系_0123

乗務員扉の前(青帯の中)にある黒い窓が「謎のセンサー」。博多寄り山側、東京寄り海側についているので、すれ違い時のデータを取るためのセンサーという噂があるが真偽不明。

筆者の調査では、Z22・24・25・27・29・31編成で装備を確認。Z21以前とZ32以降では装備した編成はない。なお、X編成化後も装備編成に変化はない。


N700系_0124

JR西日本のN編成ではN9・10編成に装備を確認。Z編成とは形状が異なり正円形で、500系のW1・2編成が装備していたセンサーの形状に近い。

こちらは青帯を分断しているので、Z編成のものよりも目立つ。なお、K編成化後も装備編成に変化はない。


N700系_0040

雑誌「新幹線EX Vol.31」内の記事で初めて知ったことだが、上記センサー付きの編成についてはN700A登場前から先頭部青帯が長く伸ばされていたようだ(センサーを目立ちにくくするため)。

上段がセンサー付きのZ29編成で、センサーがない側の側面も帯が長い。長さはN700Aと同じようだ。中段は通常のZ5編成。X編成化後もこの特徴は残っている。

なお、帯の延長はJR東海車のみの特徴で、JR西日本車はセンサーの形状が異なるためか、青帯の長さは通常と同じである(下段のN9編成)。


●台車カバーの分割線

N700系_0130

ボルトと縦分割線の数の違いで2種類存在するが、製造年次により編成内の配置に若干差がある。

上を「1本タイプ」、下を「2本タイプ」とする。


●Z1〜42編成、N1〜9編成(X・K編成化後も同様)

  • 1本タイプ:3・5・6・7・8・9・10・11・12号車
  • 2本タイプ:1・2・4・13・14・15・16号車

●Z43〜編成、N10〜編成(X・K編成化後も同様)

  • 1本タイプ:3・6・7・8・9・10・11号車
  • 2本タイプ:1・2・4・5・13・12・14・15・16号車

後期型は5・12号車が2本タイプに変更されている。なお、S・R編成は全編成が4号車のみが2本タイプで、他は1本タイプとなる。

N700系_0013

Z0編成は基本的には縦分割線がないタイプだが(0本タイプ?)、一時的に一部車両に1本タイプを付けている場合もあるようだ。試験専用車両なので一概には言えないのかもしれない。


●形式番号脇のJRマーク

N700系_0131

東海道・山陽新幹線の16両編成車は、これまで1・8・16号車の形式番号脇にJRマークを配置していてN700系もそうだったのだが、現在は全車両にJRマークが追加されている(写真は従来付いていないはずの6号車)。

2011年1月時点では追加されている編成とされていない編成が混在していたようだが、現在はZ編成(Z0編成を含む)、N編成とも全編成にJRマーク追加済み。S・R編成は現時点では追加された編成はない。また、300系・700系はJR東海・JR西日本車ともに従来から変わっていない。


●空気バネ点検カバーの塗装

N700系_0028

2012年頃から、JR東海車の台車カバー中心部にある空気バネの点検カバーがグレー1色(上)に変更されている。Z編成の後期車(Z77・80編成あたり)やN700Aは最初からグレー1色で出場したようだが、他の編成も順次塗り替えられた。一方、JR西日本車はN→K編成化されても塗り分けを維持しておりJR東海車との数少ない相違点となっている。


svNana様より、カバー塗装の変化について情報をいただきました。情報提供、誠にありがとうございます。

●筆者の所見など

N700系に対する筆者の個人的な感想だが、外観的には正直なところ「カッコイイ」とは言えないデザインだと思う。しかし、その点については開発者いわく「いわゆるデザインは考えてない。カッコイイことよりも、性能が出ることの方が重要(季刊誌「新幹線EX」より)」とのこと。

○○なんて飾りです、偉い人には(以下略)」をリアルに(?)言ってしまうというのは、個人的には清々しいと思えたほどで(皮肉ではない)、なるほど、そういう理詰めで決定されたデザインもあるのだなあと感心した。N700系は正真正銘の機能美を追求した車両ということなのだろう。

性能的に500系をしのぎ、快適性では700系をしのぐ。その上、輸送人員が多くて画一的な輸送力が求められる東海道新幹線において、従来車と定員やドアの位置に互換性を持たせる。かつ消費電力や騒音などの環境にも考慮。それらをすべて「理詰めで」実現したN700系は、東海道・山陽新幹線向けとしてベストを目指した、明確な設計思想を持った車両であることは間違いない。こうしたことは一部の鉄道ファンには受けが悪いが、鉄道は玩具じゃないのだから、利用実績に合わせた設計がなされるのは当然のことである。

筆者にとっての「好きな車両」や「カッコイイ車両」はイコール「外観やデザインのいい車両」ばかりではなく、設計思想が明確な車両も含まれる。その意味では、N700系も筆者的には十分にカッコイイ車両であり、好きな車両でもあるのだ。

現在のところ数える程度にしか乗っていないが、2011年8月に山陽新幹線の300km/h運転を体験してみたところ、500系と比べても乗り心地は格段に向上しており、技術の進歩を見せつけられた。S・R編成にも乗ってみたが、指定席は「ひかりレールスター」をしのぐ乗り心地&座り心地(グリーン車いらなくない?と思ったほど)。巡航速度までの加速の良さも印象的で、まさに東海道・山陽新幹線の決定版車両という印象だった。客用窓がもっと大きければ、さらによかったのだけど・・・


Speed Sphereトップ 次ページ>
Speed Sphereトップ 次ページ>