比較レビューに用いる製品は以下の通り。
手前からトミックス(Z0編成)、カトー(Z1編成)、トミックス(N編成)。
Z0編成と量産車の差もわかることから、カトーに対してトミックスはZ0編成を用いて比較レビューを行う。
トミックスのN編成(3000番台)はこちらで紹介。同社のZ編成量産車(0番台)、X編成(2000番台)は同ページ内コラムで。
トミックスのS・R編成の(7000・8000番台)はこちらで紹介。R10編成とくまモン仕様についてはこちら内のコラムにて。
N700A(1000番台)はこちらで紹介。
各製品ごとの詳細は「模型の概要&製品ラインナップ」ページから「アーカイブ」を参照してほしい。
783形(博多寄り先頭車)をサンプルとした。トミックスはZ0編成である。
全体的なフォルムは両者ともN700系の特徴である「ダブルウイング・エアロ」をよく再現できていると思う。あれだけ複雑な形状をほとんど差もなく再現していて、近年のメーカーのモデリング技術のレベルを見せつけられているかのようだ。
なお、実車では正面窓上のおでこの部分に手すりが1つ付いているが、模型では両者とも省略されている。
カトーはパーティングライン(ボディを成型するときの金型の分割線)がやや目立つ。青枠内画像に入れた黄色い線がそれで、屋根まで続いている。このパーティングラインを境にしたボディ下端に若干段差もできてしまっている。また、グレーの床下に対してボディが若干広いこともわかる(影がついている)。783形(博多寄り)山側、784形(東京寄り)海側で特に顕著で、生産技術的な要因と思われる。
一方、トミックスはまったくと言っていいほどパーティングラインは見えない。光の当て方を工夫して至近で見た場合に、らしきモノが確認できる程度だ。ボディ下端もまっすぐで、床下ともほぼツライチを保っている。
今度は真正面から。やはり全体的なフォルムには差は見られない。カトーはノーズ先端のカバー(実車では非常連結器が入っている)のスジ彫りがトミックスより目立つ。また、トミックスはノーズ下部にある2つのノブ(?)が再現されているが、カトーは省略。
なお、カトーのほうが鼻筋が通っているような感じがするが、おそらく塗装の光沢の違いが原因。現物を目視する限りは形状に差は見られない。
ヘッドライトの比較。上の真正面からの写真でもわかるが、トミックスの方は外側(写真では下側)のラインに乱れがあり、形状もやや角ばっている感じだ。
左の実車と比べてみても、カトーの方が実車に近いようだ。トミックスのライン乱れは生産技術的な問題と考えられる。
前面窓は形状は同じ感じだが、前面窓の前後寸法はカトーのほうが短いようだ(上の真正面写真を見ても少しおでこが広め)。どっちが実物に近いか…を判断するのはちょっと難しい。窓枠とワイパーがモールド(彫刻)ではなく印刷で表現されている点は共通である。
カトーはサイドの窓が実車同様にスモーク処理されているのがリアル。また、カトーはプロトタイプである「Z1」の表記も印刷済みだが、トミックスは付属インレタで「Z0」表記を行うので省略されている。どうせZ0編成以外にしようがない(形式番号は印刷済み)のだから印刷済みでもよかったような気もするが…
カトーのZ1表記はやや左下に傾き過ぎな気もする。もっともトミックスはインレタ表現なので、施工者の腕前によって貼り付け位置が左右されてしまうが…
トミックスとカトーが左右逆になってしまって申し訳ないが(右がカトー)、運転台のコンソール位置がカトーは前方寄り、トミックスは後方寄りと結構異なる。先端部の何かのモールド(詳細不明)も位置関係に差があるが、トミックスのほうがシャープな仕上がりである。
実車のコンソール位置を見てみる。オレンジのラインが前面窓の上端になるので、位置的にはトミックスのほうが近いと思う。
かなり露出を上げて撮った写真なので周りが真っ白になってしまったが、サイドの窓がスモーク処理されていることもわかると思う。
全体的なシルエットは両者ほとんど同じだが、生産技術的な欠点がそれぞれ若干あるという感じだろうか。ただし、写真で拡大したり直近で見ない限り目立つものでもないので、通常の模型を見る目線では欠点とは言えない程度のものである。致命的なミスというのもまずないし、両者ともハイレベルな造形なのは間違いない。
カトーのノーズ先端はスジ彫りが深くて「顔が濃い」が、これも同社特有のデフォルメというか、模型は離れて見ることが多いから目立つようにと配慮した結果だろう。一方でトミックスは実車に近いバランスといえるが、どちらが優れているかという問題ではなく、両社の模型に対する解釈や表現的なポリシー、つまり個性が出ていると考えるべきだろう。
乗務員扉・客用扉ともに、カトーは1本の深いスジ彫りで表現しているのに対し、トミックスは浅めのスジ彫り2本で枠を表現しているという違いがある。トミックスのほうが細かいといえるが、左の実車を見てのとおり客用扉は黒いパッキンが目立っているため、離れて見る模型視点ではカトーの方がハッキリしていてそれっぽい(先頭形状比較の写真でもよくわかる)。
全体的にカトーはモールドが少なめ。乗務員扉横の手すりもあっさりしていて、ドアノブ表現は省略に近い(モールドがあることはあるが、パッと見では視認不可)。トミックスは青帯塗装にカスレがあるが、モールドの細かいことが原因でもある。なお、実車の乗務員扉横の手すりは走行中は車体とツライチになる。
乗務員扉は全体形状はトミックス、窓は大きさ形状ともにカトーのほうが実車に近いか。ちなみに、トミックスのほうはインレタでここの窓にも「Z0」表記を再現できる(その上の「乗務員室」は不可)。客用扉はどっちもどっちという感じだが、2つの手かけはトミックスの方が細かいながらも、下部の手かけは位置が低すぎるようだ。
最後に、2つの扉の上にわたる雨どいは前端はカトー、後端はトミックスのほうがそれぞれ似ている。
中間部の客用扉は大きさ・形状ともに両者申し分ないが、カトーは縁の部分が太く(斜めのモールドというか)、手かけがその分離れてしまっている。縁ギリギリに手かけがあり、大きさも実感的なトミックスのほうが実車に近いといえる。
開閉可能な車掌室窓は窓枠にサッシがあった従来とは異なり、ハッチに窓が付いたような形状に変更された。Z0編成は従来車と同じように10号車に車掌室があるが、量産車では10号車に喫煙ルームを設置したので、車掌室は8号車に設置されている。
両者ともモールドによるシンプルな表現だが、カトーは塗装が厚いのか、トミックスの方が若干シャープな感じ。ただ、両者ともそれほど深いモールドではないので、ほとんど差は感じないだろう。
ドア横にある点検ハッチはトミックスが実車同様に4隅のボルト(?)を表現しているのに対し、カトーはあっさり枠線のみで表現している。
ところで、このハッチは700系以前…というか、すべての新幹線車両のドア横には必ずあるものだったのだが、実車編で少し触れたとおり、N700系では省略されている個所がある。
つまりハッチがある場所とない場所があるわけだが、海側と山側でも配置が異なるし、Z0編成と量産車でもさらに配置が異なっているので、そのへんの再現度も見ておきたい。
下記表はハッチ位置をまとめたもので「博」は博多寄り、「東」は東京寄りのドアにハッチがあることを示す。また、「2ドア間に〜」は7・11号車の業務用扉と客用扉の間を示す。
号車 | 実車量産 | 実車Z0 | カトー(量産) | トミックス(Z0) | ||||
海側 | 山側 | 海側 | 山側 | 海側 | 山側 | 海側 | 山側 | |
1 | 東 | なし | 東 | 東 | 東 | なし | 東 | 東 |
2 | 博 | なし | 博 | 博 | 博 | なし | 博 | 博 |
3 | 博・東 | 博 | なし | 東 | 博・東 | 博 | なし | 東 |
4 | 博 | なし | 博 | なし | 博 | なし | 博 | 博 |
5 | 東 | なし | なし | 東 | 東 | なし | なし | 東 |
6 | 博 | なし | なし | 博 | 博 | なし | 博 | 博 |
7 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に2 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に2 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に1(東) |
8 | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし |
9 | 東 | なし | なし | 東 | 東 | なし | なし | 東 |
10 | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし |
11 | 2ドア間に2 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に2+身障者ドア脇に2 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に2 | 2ドア間に1(東) | 2ドア間に2+身障者ドア脇に2 | 2ドア間に1(東) |
12 | 博 | なし | なし | 博 | 博 | なし | なし | 博 |
13 | 東 | なし | なし | 東 | 東 | なし | なし | 東 |
14 | 博 | なし | 博 | 博 | 博 | なし | 博 | 博 |
15 | 博 | 博・東 | なし | なし | 博 | 博・東 | なし | なし |
16 | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし | なし |
実車の量産車は実際に東京駅で調査したもので、模型も手元で見ることができるから正確だと思う。実車のZ0編成についても、たまたま東京駅で見ることができた際に調査したり、雑誌や他サイト様の形式写真や動画なども併せてチェックしているので、それなりの精度ではないかと思う。
模型については、もともと16両分のボディをすべて作り分けているカトーはパーフェクトな再現度である。トミックスは4・6号車が共通ボディであるためか両車を折衷したような状態で、4・6号車それぞれ無いはずのハッチが存在してしまってる。その他の車両は実車通りになっているようだ。
いずれにせよ、こんな細かいことまで再現しているのはお見事といってよいだろう。
航空機のように小さくなってしまったN700系の側面窓だが(車体の剛性増しが理由なんだとか)、模型でもその小さくなった側面窓を申し分のないレベルで再現している。
ただし、写真を見ての通り表現方法には両者差があり、カトーは窓ガラス・ボディ側窓枠共にエッジが丸い傾向で、トミックスはエッジが鋭くビシッとはめ込まれている。窓のはめ込み位置も、若干カトーのほうが奥まり気味だ(カトー製品の傾向ではあるが、これでもN700系は相当改善されている方である)。ただし、光の入り具合もあるだろうが、トミックスはガラスの厚みが少し感じられるか。
トミックスの窓ガラスがここまではめ込まれたのは、実車は車体と窓ガラスが完全に平滑なので、及ばないまでも近づけたかったからだ思う。左の写真でわかるとおり、N700系はとにかく車体と窓ガラスの段差がない。下の700系の窓ガラスと比べても、その感じが伝わるんじゃないだろうか。
筆者は東京駅で両者の窓ガラスと車体の段差を触って確かめたが(もちろん停車中の車両)、明らかに段差がわかる700系に対し、N700系は本当に段差がなく平滑(500系ですら段差があるのに)。当然、空気抵抗や騒音の減少効果を見越してのもの…かな?ドアは通常の引き戸なので違う理由かも。
なお、徹底的に平滑化された窓ガラスに対し、行先表示や座席表示(「指定席」などを表示)については若干の段差がある。トミックスの場合ここは窓ガラスと同じパーツで表現しているのでちょうど良い具合だが、カトーの場合は行先表示を車体に直接印刷しているので完全にツライチである。E4系のときは若干段差を付けた上での印刷だったので、少しさびしい気もする。
ボディを外して裏側を見ると、カトー(上)はかなりスモークがかかってることがわかる。トミックスは完全に透明。トミックスはガラスの厚みが感じられると書いたが、おそらくスモークの有無もその原因だろう。
ちなみに、トミックスのガラスは「パチン!」とはまる。車体とガラスの合いのよさがわかる瞬間だ。
窓ガラスの表現については普通に見ただけでは両者大きな差はないが、トミックスの方にこだわりを感じた。模型を手に持って近くで見た場合、それがわかると思う。
カトーもトミックスも外幌パーツが車体に入るので車端部にある客用扉の窓はクリアランスが苦しいが、両者とも工夫してきちんと窓を入れている。昔のトミックス可動幌製品のように窓が省略されているようなことはない。
余談だが、実車の窓はポリカーボネートという透明樹脂製なので、厳密には窓「ガラス」ではない。ガラスは重いので、樹脂化により軽量化には相当貢献しているはずである。
行先表示機・座席表示機ともに表現は異なる。トミックスはオーソドックスなガラス表現だが、カトーは車体に直接印刷して表現しており、特にモールドなども施されていない。
大きさや位置関係はどちらも実車に忠実といえる。しいて言えばカトーは行先表示機の四隅が少し丸い気もするが、違和感を感じるほどではない。
近年のカトーは「Ready to Run」と称し、ユーザになるべく手間(ステッカー貼りなど)をとらせない方針をとっていて、新幹線だとE4系からになるが、行先表示を車体に直接印刷するようになっている。N700系もそれに準拠したわけだが、E4系のようにくぼみのモールドはなく、単に印刷されているだけである。前述したが、実車の行先表示機は完全にツライチではないので、少しさびしい表現な気もする。仮にステッカーを上から貼っても厚みで出っ張ってしまうので(ステッカーの厚みは結構目立つ)、表示内容の変更は極めて困難である。
一方、トミックスは伝統的にステッカー類の付属がないので、サードパーティのステッカーを使うか自作するしかない。実車の行先表示は走行中は消灯するので、裏から黒で塗りつぶすのもアリかもしれない(Z0編成の場合は「試運転」の表示が一番似合っていると思うけど)。
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