●実車の概要

JR東日本が所有している、東北新幹線の東京〜盛岡間と、田沢湖線・奥羽本線の盛岡〜秋田間のいわゆる「秋田新幹線」で運用されている車両。400系、E3系といったミニ新幹線シリーズの最新型となる。

量産先行試作車が2010年7月に登場し、S12編成を名乗り各種試験を開始。2012年12月に量産車が登場し、2013年3月から東京〜秋田間の「スーパーこまち」で営業運転を開始した。

360km/hでの営業運転を検証するために製作された、E954形高速試験車「Fastech360S」をベースにE5系が開発されたのと同様に、そのミニ新幹線版といえるE955形高速試験車「Fastech360Z」の技術が数多く反映されている。この試験車は「アローライン」と呼ばれる先頭形状で、ノーズ長さ16mと13mをそれぞれ用意していたが、E6系では13mの長さとなった。また、E5系と同様、空気抵抗増加装置(エアブレーキ、通称「ネコミミ」)の搭載は見送られている。

「Fastech360」シリーズをベースにしていることもあり、内容的には「E5系のミニ新幹線版」と呼べるものだが、「フェラーリ・エンツォ」などのデザインを手がけた奥山清行氏の監修により、ヘッドライトの位置や塗装などが独特なものになった結果、E5系とはかなり雰囲気の異なる外観となった。

塗装は車体上部が「茜色」、下部が「飛雲ホワイト」、中央帯と肩部は「アローシルバー」。 従来の「こまち」は女性的な優しい雰囲気の塗装だったが、一転してスポーツカーのような鮮烈で鋭い塗装となった。側面は大部分がホワイトとシルバーで占められるものの、鮮烈な赤をイメージカラーとした新幹線車両は珍しいといえる。

車内設備はミニ新幹線ということもありE5系の「グランクラス」などは導入されず、E3系と同様にグリーン車と普通車(どちらも2+2列の座席配置)という一般的な構成である。普通車の可動式枕、電源コンセント、フルカラーの車内表示機、防犯カメラの装備はE5系と同様だが、秋田を意識した「稲穂」のデザインが随所に採用されている。なお、ロングノーズ化により先頭車の客室スペースが狭くなったことから、E3系(「こまち」仕様)の6両編成から7両編成に増車されている。

基本的にE5系「はやぶさ」と併結され、当初は従来のE3系「こまち」よりも速度アップしたことによる別体系の料金が採用されたため、「スーパーこまち」という列車名となった。非公式には「スーパー」を付けて呼ばれた愛称もあるにはあったが、正式名称としては初である。2014年3月のダイヤ改正でE3系「こまち」はE6系に全て置き換わったため、愛称も「こまち」に統合され「スーパーこまち」は1年ほどで消滅した。また、その際に300km/hだった最高速度が320kmに引き上げられた。2016年春の北海道新幹線開業後はJR北海道のH5系との併結も行われている。

量産先行試作車S12編成と量産車5〜6本でスタートしたが、2013年末にS12編成を量産化改造したZ1編成を含めて24編成が出そろった。今後増備があるかどうかは不明だが、2代目「こまち」車両として長らく活躍することになるだろう。

E6系実車02

小山駅を通過中のZ3編成。実は営業運転前の試運転列車を撮影したもので、営業運転開始後は原則E5系が東京寄りに併結されるため、上り列車(順光になりやすい)でE6系の顔を見ることができたのは珍しい。

E6系実車01

広角で撮ると、ロングノーズでスピード感あふれる鋭い表情となる。営業運転開始翌日の東京駅にて、人だかりの多さが「これから人気者」になることを予感させる。

E6系実車03

E5系には及ばないが先頭部のノーズは13mと長く、実に車体の約半分を占める(写真では入りきってない)。先頭車の定員が減ってしまうので、E3系の6両編成から7両編成に変更された。


E6系実車04

E5系のようでもあり、500系のようでもあり。鋭さの中に抑揚があるラインは力強く、ミニ新幹線の車体の小ささを考えると、さしずめ「細マッチョ」といったところか。


E6系実車05

デザイナーの出自もあると思うが、ヘッドライトは内部まで凝ったデザインがされていて自動車のそれを思わせる。鉄道車両でここまでやったのは初めてかもしれない。

テールライトは前面窓の内側に配置。500系と似た感じだがこちらは周囲がブラックアウトされている。


E6系実車18

パンタグラフはE5系のものと似た(形式は異なっているが)、片持ち式のシングルアームパンタを備える。在来線を走行することもあり、パンタカバー(防音壁)は控え目なものが装備されている。左右で非対称なのがユニーク。

E5系と同様、進行方向前位のパンタを折りたたんで走行する。


E6系実車12

連結部の全周幌はE5系と同タイプのものを採用。ミニ新幹線では初の車体間ヨーダンパも装備する。


E6系実車15

台車カバーはE5系と異なり台車が少し露出するタイプ。おかげで中央締結式のディスクブレーキも見える。

新幹線での300km/h超の高速走行と、在来線の急曲線通過を両立するため、台車ヨーダンパ2本を2段にして装備。写真で見えているのは下段のもの。


E6系実車14

今のところ新幹線に「600系」は存在しないが、 頭に「E」が付くとはいえ、初の600番台の形式番号が与えられた。

写真は秋田寄り先頭車(17号車)で慣例通りだとE622形になるはずだが、E6系ではE621形となっており、東京寄り先頭車(11号車)のE611形と共に奇数の形式番号が与えられ、新幹線では初の事例となった。


E6系実車19

E6系の相方はE5系で、320km/h&ロングノーズ同士の併結はインパクト絶大で、そりゃギャラリーも集まるよねと。


E6系実車09

ホーム上に書かれた「つばさ」に用いられることはないが、「こまち」を受け継ぐためにミニ新幹線伝統の、客用扉(+乗務員扉)の可動式ステップを装備。


E6系実車16

「小野小町」をモチーフにしたとされるロゴマークは12・16号車に掲げられる。スポーツカーみたいな雰囲気の中で、ここだけは「こまち」らしく(?)女性的で優しい印象。


E6系実車17

行先表示機は最近の車両では常識のフルカラーLED。「スーパーこまち」は地色がピンクとなる。


E6系実車10

行先表示機は車体に合わせて上部に少しRが付けられているのが特徴。


●編成バリーション

全車JR東日本の所有で、Z編成のみが存在する。

編成 所有者 編成番号 両数 MT比 番台 特徴その他
Z JR東日本 1 7 5M2T 0 量産先行試作車(元S12編成)。運用は量産車と同じ。
2〜24 量産車。東北・秋田新幹線・東京〜秋田で運用

●Z編成

E6系は全編成が7両編成であり、Z編成を名乗る。東北新幹線の東京〜盛岡間と、田沢湖線・奥羽本線の盛岡〜秋田間のいわゆる「秋田新幹線」での「こまち」がメイン運用となる。「スーパーこまち」で運用している間にも「こまち」に充当されたことがあったが、当時活躍していたE3系に合わせて最高速度275km/hに抑えられていた。また、レアだが「やまびこ」等にも充当されている。東北新幹線内はE5/H5系との併結運転が基本で、最高速度は2014年3月まで300km/h、それ以降は320km/hに引き上げられた。

E5系と同様、E6系には量産先行試作車が存在し、S12編成を名乗り各種試験を行っていたが、2013年度末に量産化改造されZ1編成となった(Z1・S12編成の詳細は「製造年次や改造などによるバリエーション」で後述)。

山形新幹線もミニ新幹線が走る路線だが、性能的にE6系はオーバースペックであるため、同形式が投入されることはないと思われる(入線試験したという話すら聞かない)。

●製造年次や改造などによるバリエーション

2013年4月現在、まだ登場したばかりなので大きな改造によるバリエーションはない。全部で24編成が出揃う予定だが1年ほどで増備完了となるため、仕様差が出る可能性はほとんどないと思われる。

・・・と思っていたら、意外にも量産6編成目にして変化が現れた。急ピッチで増備されたのでそれ以降は目立った変更点はないが、ここ最近の車両でこれだけ早く仕様差が出るケースは珍しいといえる。

Z1編成は前述の通り量産先行試作車S12編成を量産化改造のうえ営業運転に投入したもので、それほど大きな差異があるわけではないが量産車との違いが見られる。

●量産先行試作車Z1編成

E6系実車25

S12編成から量産化改造され、営業運転に導入されたZ1編成。E5系もそうだったが量産車との差異は非常に少なく、ぱっと見で区別するのは難しい。側面のロゴマークは量産車改造時に貼られたもので、S12編成時代にはなかった。

E6系実車24

数少ない差異として、乗務員扉の窓枠形状が挙げられる。Z1編成(左)は窓枠が均等の太さなのに対し、量産車(Z8編成・右)は窓が若干小さく前方にオフセットされている。E5系の試作車と量産車でも見られる差異だが、E6系でもそのまま量産化改造された。

細かいところだと、床下カバーにある編成記号の位置が量産車ではダクトの上部に「Z8」とあるが、Z1編成は前方寄りにある。ちなみにこの差異は秋田寄り先頭車で見られるもので、東京寄り先頭車では量産車との差異はない。

E6系実車23

先頭車と次位の車両間の屋根上(無線アンテナ?ハッチ?)にも差がある。Z1編成(左)は突起があるが量産車(右)はフラット。上段が11・12号車間、下段が16・17号車間となる。


E6系実車11

大宮駅に進入するS12編成時代の姿。量産化改造前でも量産車との区別は困難だった。

E6系実車13

前述の窓枠の違いのほか、床下にも差異(カバーパネルが入れ替わっている)がある時期があった。写真のE621形(秋田寄り先頭車)のみに見られる差異で、反対側のE611形は同じだった。

後に量産車と揃えられており、量産化改造後もこの差異は見られない。


E6系実車20

前述の屋根上の突起を横から見るとこんな感じ。上からS12編成11号車、量産車11号車、S12編成17号車、量産車17号車。(逆光で分かりづらいので)黄色い枠で囲んだ個所が突起。量産車はフラットであることがわかる。


E6系実車06

横にフィンが付いたパンタカバーをテストしたこともある。初期の量産車(Z2〜6編成)には採用されなかったが、Z7編成以降で再び日の目を見ることに(後述)。

なお、後にフィンがないZ2〜6編成のタイプに交換されており、そのまま量産化改造されたためテストしていた本人(?)にはこのタイプのカバーは採用されなかった。


●パンタカバーと外幌の変化

E6系実車21

Z7編成以降はパンタカバーの横にフィンがあるタイプに変更された。フィンが付いているのは12号車海側、16号車山側となり、それ以外は従来と同じフィンがないタイプとなる。

また、外幌もゴム製(?)で大きな段差がある黒いものに変更されている。


E6系実車22

Z7編成以降の黒い外幌は上部まで回っておらず、厳密には全周幌ではなくなった。下段のZ2〜6編成には上部にもカバーがあることがわかる。


●筆者の所見など

筆者は2011年11月の試乗&展示会(自動車ディーラーみたい)の時に、大宮で初めて実車を見ることができた。その後も大宮では試運転中の同車をちょくちょく見ることはあったのだけど、いずれも試作車のS12編成。

E5系の時は震災の影響もありレビュー時に実車の写真を用意できなかったから、E6系は量産車の写真が早めにほしかったのだけど、なにせ模型の発売予定が実車の営業運転日と近かったので(結局同日発売に)、試運転列車を狙うしかない。しかし、量産車にはなかなか会うことができず、結局実車の営業運転日の翌日、混雑が予想されて気が進まなかった(実際混んでた)東京駅で急遽撮影、なんとかレビューに間に合ったというタイトさだった。

そんなE6系だが、久々に「素直に」カッコイイといえる車両だと思う。

新幹線の路線(インフラ)の大部分は0系や200系が走っていた頃から大きく変わっていないのに、 最高速度はどんどん上がり今や300km/hは当たり前。その上、世界一厳しいといっていい環境性能(特にトンネル微気圧波対策)、さらには定員の確保といった課題が重なって、最近の新幹線車両はいわゆる「見てくれのデザイン」を放棄してしまった(せざるを得ない)感がある。500系のような例外もあることはあるが、実用上は歓迎されない向きがあったことも事実だ。

その結果、どうしても効率重視の先頭形状にならざるを得ず、褒めても「機能的には優れている」とか、どうしても擁護っぽい言い回しになってしまう。個人的にはそうした機能から生まれたデザイン(機能美)はまったく嫌いではないし、批判するつもりも毛頭ないが、残念ながら「素直に」カッコイイとは言いにくい。

E6系は「E5系の兄弟車」と呼べるくらい似ているところも多いし、「Fastech360」のアローライン形状がベースなので、やはり先頭形状に効率重視は感じられるものの、ヘッドライトの位置や鮮烈な赤い塗装、その塗り分けはスポーツカーを思わせる斬新かつインパクトのあるもので、最近では珍しく「見てくれのデザイン」がきちんとなされた車両だと思う。これはミニ新幹線ゆえに車体断面が小さく、E5系ほど空力要件がシビアではないと考えられ、その分デザインする余裕があったともいえるが、結果的には「E5系とはまったくの別物」に見えるものとなった。

E5系の実車編では「ロングノーズゆえにE5系は古臭さを感じる」と書いたが、同じロングノーズにもかかわらずE6系に古臭さを感じないのは、デザイナーがまさに「イタリアン・スーパーカー」を手掛けていたことも無関係ではないかもしれない。

E6系実車07

ヘッドライト周りの鋭いライン、鮮烈なレッドにブラックアウトされたコクピット。いったい、どこのスーパースポーツカーかと。

E6系実車08

先輩であるE3系「こまち」と並ぶが、別物感がハンパではない。これが在来線(田沢湖線・奥羽本線)を走るというのだから、いまだに信じられないほど。400系やE3系では在来線区間は踏切や信号機があるから、見通しが良いように運転台を高く設定したと聞いたことがあるが、E6系は「そんなのシラネーヨ」といわんばかりの低さである。


24編成が出揃い日中でもよく見かけるようになったが、登場時から一般の関心は高く、今後も「カッコイイ新幹線」としての地位を長く保つかもしれない。同じく「カッコイイ新幹線」でありながら、東海道新幹線に乗り入れたことでマイナス面も出てしまった500系と異なり、E6系は最初から秋田新幹線用に設計された専用車。今後を心配する必要はまったくないだろう。

もう少し落ち着いてからにしたいが、秋田はともかく仙台までなら筆者も乗る機会もありそうだ。320km/h運転も含めて、是非乗ってみたい車両である。


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