●プロダクトを単純に比較した場合

「総評」ということでまとめると、だいたい以下のような感じだったかと思う。

  • 形状や塗装は共にハイレベル
  • 屋根上表現・灯火類・床下・連結方式(見た目)・ギミック・価格はカトー
  • 窓・印刷表記・室内・連結方式(使い勝手)・走行性能(条件による)・収納性はトミックス

ハードウェア的には、どちらも一長一短であり互角ではないかというのが筆者の感想である。その一長一短も両社のコンセプトの違いからのもので、「どっちもどっち」という感じではなく、高レベルの応酬を見たような気がする。いずれも製品化発表が早く、発売も12月と年末商戦を見据えたものであったから、お互い気合が入るのも当然だったのだろう。

●コンセプトの違い

カトーとトミックスの「コンセプトの違い」とはどのようなものだろうか。

カトーは模型としてのカッコよさや見栄え重視しているのに対し、トミックスはスケール感を重視している。もう少し砕くと、模型は離れて見ることが多い(特に上から)から、そうした「模型ならでは」の見栄えを重視しているのがカトー、近くで眺めたり、写真を撮ったりした時の見栄えを重視しているのがトミックスという感じだろうか。もちろん逆転している部分もあるが、他形式の模型でも見られるコンセプトの差であり、N700系もそれに準じているといっていいだろう。

カトーは省くところは省くが、見せたい部分はデフォルメや表現オーバーでも主張する。そこに粗さや拙さを感じる部分もなくはないが、結果的にメリハリのある主張が強いモデルだと感じた。それに対し、トミックスは平均的でそつのない仕上がりで、やや平凡に感じられる部分はあるがバランスを重視したモデルであるといえる。このサイトを公開する頃には死語になっているかもしれないが、さしずめカトーは肉食系、トミックスは草食系といったところか。どちらが優れていると感じるか、好きと感じるかは人それぞれである。

両社のN700系は一見しただけでは同じ模型にしか見えないけど、改めて手持ちの模型を細かく見ていくと、あちこちに両社のコンセプトの違いが表れていて、それを発見するのは個人的には非常に面白かった。

●それでも、あえて伝えたい

ただし、製品の優劣は別にして伝えなければと思ったのが、メーカーというか開発者の「気合い」や「志」を感じたかどうかである。プロダクト(ハードウェア)自体ば一長一短で互角の仕上がりだ。しかし、両者の「一短」にそれぞれ着目すると、その内容には大きな差を感じる。

カトーの短所は、どちらかといえば同社の技術的な限界が原因のものが多いような気がした。印刷表現などは最たる例だろう。しかし、屋根上や灯火類、床下の表現など「気付かない人もいるかもしれない」部分の再現性を見るにつけ、(意気込みが空回ってたり、練り込み不足も否定できないが)開発陣の熱意やこだわりはものすごく伝わってくる。要するに、やるだけのことはやったけどできなかったという性質のものだ。

それに対し、トミックスの短所はできる実力はあるのにやってないという印象が否めなかった。コスト等も含めて「できなかった」のかもしれないが、動力車1両分を差し引いても、より安いカトーがむさ苦しいくらいの気合を発しているのに比べると、どこか淡々としていて冷めているような印象がぬぐえなかった。厳しいかもしれないが、屋根上や床下の再現性を見る限りは本気でやってるように見えないのだ。

総じて、屋根上表現のページでも書いたカトーは気合、トミックスは妥協につながっている。両社の考えはわからないし事実とは違うかもしれないが、いろいろ比較してみた結果、筆者には「そう見えた」ということ。妥協が一概に悪いわけではないのは何度も書いてきているし理解もするが、もしトミックスが「やらなかった」ものを注ぎ込んでいたら…と考えると本当に惜しいと思う。

本項の話はどちらかといえば精神論であり、くどいようだがプロダクト自体は両者とも本当によくできている。実際問題、トミックスのN700系も十分ハイレベルであり、たいていの人は満足するだろう。でも、「たいていの人は満足する」で妥協せず、それ以上のカードを切ってきたカトーのこだわり・志(仕事っぷりというか)には敬意を表するべきと思ったし、伝えるべきだとも思った。所詮は筆者の主観でしかないけど、そのための根拠たるものはこれまでのページで示してきたつもりである。

●購入ガイド

N700系は今後何年も東海道・山陽・九州新幹線の主力となる人気車種である。模型でも人気商品なのは間違いなく、特にカトーは定期的に再生産が行われていて、店頭では基本セット・増結セットともによく見る。トミックスは若干入手が難しくなっているが(特にZ0編成)、売っているところはまだあるという感じで、プレミア品には程遠い状況だ。ヤフオクでもタマ数は比較的多く、入手は楽な方だと思う。

そんな中、どちらを選択すればいいのか…ということになるが、どちらもよくできた製品であり(上の気合がなんだとかは筆者が勝手に感じた精神論である)、自分が気に入ったほうを買えば後悔することはないと思う。あとはJR東海車かJR西日本車か、量産先行試作車か…という選択と、価格の問題だろうか(カトーのほうが安い)。「Ready to Run」で楽チンなカトーと、工作気分が楽しめるトミックスかという選択もある。実車の主力はZ編成だが、トミックスのN編成、Z0編成もマニアックで面白いものがある。

幸い(?)プロトタイプがバッティングしていないので、財布に余裕があるなら両方買ったり、3種類買うのもアリだ。カトーとトミックスZ0編成なら、量産車と先行試作量産車の違いが楽しめる(N編成よりも差が大きいし)。カトーとトミックスN編成なら、実際に営業運転に入っているJR東海・西日本の車両を並べることができる。このサイトで比較したような、模型メーカー間の違いも楽しめるだろう。トミックスのZ0編成とN編成の組み合わせも、同門の量産車と先行試作量産車の違いが楽しめるはずである。3種類買うなら、N700系16両編成版については完全なコレクションが成り立つ。

いずれにしても財布との相談と、16両フル編成は長いので、走らせるスペースとも相談になるが、どれを選んでもすべて選んでも、完成度の高いN700系を楽しむことができるだろう。


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