概要で述べたとおり、トミックスのN700系には量産先行試作車のZ0編成だけではなく、量産車であるN編成の製品も存在する(後にZ編成量産車も追加。後述のコラムにて)。カトー製品も量産車だがJR東海所有のZ1編成なのに対し、JR西日本所有のN編成(N700系3000番台)をプロトタイプとして差別化している。
ところで、相当過去の話になるがトミックスは100系の模型化の際に量産先行試作車X0編成をまず製品化した。話題の新車をいち早く模型化したのはよかったものの、100系の量産車は変化が大きく、後に量産車をプロトタイプにした製品に切り替えた結果、X0編成がレア模型になってしまったということがあった。これは量産車の変化を想定してなかったのだろう。
N700系も量産先行試作車→量産車の流れで発売されているため「歴史は繰り返す」と思ってしまうが、トミックスがN700系の模型の仕様発表した頃は実車のZ1編成がロールアウトしたのと同時期であり、量産車が大きく変化しないことを確認したうえで、量産車の製品化も視野に入れつつZ0編成を製品化したと考えられる。その点は100系とは事情が異なるといえるだろう。
そのN編成の模型であるが、仕様の大部分はZ0編成と共通。したがって、先頭形状・連結方式・灯火類・塗装など、これまでZ0編成でレビューしてきた内容は「vsカトー」という点も含めて、N編成にもほぼそのまま当てはまると考えていい。
よって、このページではZ0編成から何が変化したのかに主眼を置いてレビューしてみたい。
何度か述べてきたように、Z0編成と量産車には少なからず変化点がある。代表的なのは喫煙ルームの窓の有無、乗務員室・業務用室の移設に伴う窓位置の変更で、このことは全形式比較ページを見てもわかるかと思う。
トミックスは量産車をリリースするにあたり、外見に変化のある車両…具体的には3・7・8・10・15号車の5両のボディを新規制作して対応している。
写真は各形式ごとに上段海側・下段山側で掲載。屋根上写真はZ0編成と変わらないので割愛した。
全形式比較ページのカトーと同じ側面になっているのが確認できるかと思う(写真を比較したい方は、全形式比較ページを「新しいウインドウで開く」で)。
「屋根上はZ0編成と変わらない」と書いたが、3号車屋根東京寄りの高圧線ジョイントがモールドになった点が異なる(Z0編成では別パーツ取り付け)。ただし、ジョイントは実車やカトーのような大型タイプではなく、Z0編成や他の号車と同様の小型タイプである。
3号車屋根東京寄りの図。左からZ0編成、N編成、カトーとなる。パーツ取り付けの手間はなくなったが、サイズは小型タイプである。
上記の新規制作された車両以外は、Z0編成も量産車もほぼ同じなのでZ0編成のボディをそのまま流用している。
Z0編成と量産車のもうひとつの大きな違いとして、号車番号や禁煙マークの表記がある。当然ながら、このN編成では量産車タイプの印刷表記に変更している。また、JR西日本所有の車両なので、JRマークの色にも変化が見られる。
N編成の1号車後端。号車番号が量産車のサイズとなり、禁煙マークは印刷済みとなった。JRマークがJR西日本のコーポレートカラーである青になっているのも確認できる。
印刷状況をZ0編成と比較してみる。
表記箇所 | N編成 | Z0編成 |
形式番号 | 一部印刷済み(インレタ) | 印刷済み |
JRマーク(1、8、16号車) | 印刷済み | 印刷済み |
号車番号 | 印刷済み | 印刷済み |
禁煙マーク | 印刷済み | なし(インレタ) |
グリーン車マーク | 印刷済み | 印刷済み |
車椅子対応マーク(11号車) | 印刷済み | なし(インレタ) |
N700ロゴ | 印刷済み | 印刷済み |
行先表示 | なし | なし |
編成番号(前面窓) | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
編成番号(1・16号車乗務員扉窓、7、11号車業務用扉窓) | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
編成番号(先頭車側面下部) | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
業務用扉表示(7、11号車業務用扉窓) | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
屋根上号車番号 | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
屋根上注意喚起表示 | なし(インレタ) | なし(インレタ) |
インレタによる細かい表記ができるのはZ0編成と変わらないが、形式番号は一部の車両を除き印刷がなくなりインレタになっていること、禁煙マークや車椅子対応マークが印刷済みになっている点が異なる。このため、インレタはN編成専用のものが用意されている(画像クリックで拡大)。
「グレードアップ用」と称される部分(編成番号や屋根上表記など)はZ0編成と同じような内容だが、禁煙マークがなくなった代わりに形式番号が収録されるようになった。
形式番号と編成番号はN2、N4、N5、N7の4種類が用意されている。
試験車両であり禁煙車の配置が変更される可能性があった(実際4号車は変更歴あり)Z0編成に対し、全車禁煙のN編成では禁煙マークを印刷済みにしたのは正解だろう。11号車の車椅子対応マークも今回は印刷済みとなっている。
N編成の8号車。JRマークは印刷されているものの、形式番号はインレタで表現するため省略されている。
インレタから複数の形式番号を選択するというのはトミックスの十八番で、新幹線に限らず在来線製品でも見ることができる。手間はかかるが複数編成を買った場合でも編成・形式番号の重複を避けられるというメリットがある。
しかし、基本セットの3両(1・5・16号車)については初心者向けなのか、N2編成の形式番号が印刷済みとなっている(インレタの拡大画像を見るとわかるが、これらは形式番号が収録されない)。では他の編成を選択したい場合はどうするのか?となるが、車体色と同じマスク付きインレタなので上書きして使えるようになっている。
なお、N2、N4、N5、N7編成は外見上の変化はないので、インレタはどれを選択しても問題はない。
印刷品質はN700系ロゴや形式番号をはじめとして、Z0編成と同様のクオリティを持つ。今回は量産車ということで、Z0編成ではできなかった号車番号やグリーン車マークなどをカトーと比較してみよう。
号車番号とその周辺をいくつかピックアップした。上段がカトー、下段がトミックスN編成、右のデカイのが実車である。
マーキングの大きさそのものは両者ほぼ同じだが、やはり印刷品質には差がある。号車番号は実車のもの(8号車)と比べても、トミックスのほうがフォントは近い。カトーは号車によってはカスレや斜めになっているものがあるが、トミックスは比較的安定している。
グリーン車のマークはどっちもどっちという感じだが、離れてみた場合はトミックスのほうが4分割がくっきりしている。全体を見た場合はカトーのほうが力強い印象だ。「GREEN CAR」の文字はカトーは文字潰れ、トミックスは薄すぎだが離れて見るならカトーのほうが目立つ。
禁煙マークは位置も印刷品質も安定しているトミックスと比べ、タバコの煙の形が違ったり位置がズレたり、おまけにタバコの絵は銀色だったりと結構差が出てしまっている。ただ、赤い線の太さについてはカトーのほうが実車に近い。
写真は異常拡大であり、ルーペででも見ない限りは気になるものではない(くどいようだが、このサイトが細かすぎるだけ)。
印刷済みの形式番号は、Z0編成ではJRマークと形式番号が実車と比べ離れていたが、N編成では改善され実車の位置関係に近くなっている。上が模型で、下が実車(N6編成)のものである。
形式番号もZ0編成譲りのクオリティであり数字もよく見えるが、大部分はインレタで表現するため、貼り付け位置には注意したい。
表記が量産車仕様に変わった以外は、Z0編成のクオリティと同じと考えていいと思う。形式番号もインレタになったことで、その施工がZ0編成以上に面倒に感じるか楽しく感じるかは人それぞれだが…なお、行先表示はZ0編成と同様に印刷もステッカーもないので、必要ならば社外品のステッカーか自作することになる。
地味な部分であるが、台車も新規制作されている。
左がZ0編成、右がN編成。大部分は同じだが、台車中央下部のモールド(何の役割のパーツなのかは不明)がN編成の台車にはない。ちなみに、カトーは右のN編成の形状に近いので、実車の時点でZ0編成と量産車の台車が異なっていると思われる。
Z0編成と共用でも問題ないレベルかと思うが、きちんと台車を作り分けているのは好印象。ただし、台車両端の軸バネが省略されてしまっているのは相変わらずだ。
Z0編成には屋根上のパーツが付属していたが、前述の通り3号車の高圧線ジョイントがモールドになったこと、5・12号車(パンタ車)屋根上の点検用投光器が不要になったため屋根上パーツは付属しない。インレタや動力台車取り付け補助棒はZ0編成に準じたセットに付属している。
本線上ではほとんどお目にかかれないマニアックなZ0編成だけでなく、よく見る量産車もラインナップに加えたいというのは人情だろう。トミックスは多数派のZ編成ではなくN編成をプロトタイプにしたわけだが(これはこれでマニアック?)、それがカトーへの配慮かどうかはともかく、現実にJR西日本所有のN700系が存在する以上は需要もそれなりにあるだろうし、ユーザの選択肢も広がっていると思う。カトーとのバッティングを避けることで、ユーザも混乱しないしメーカー間で市場を食い合うこともなくいいことづくめで、N編成のチョイスは正しい判断だったと思う。
ここまで見ての通り、Z0編成をベースに新規制作されたものは実質5両分のボディとインレタ、台車程度。一方で、パンタ車の5・12号車に点検用投光器をモールドしていないなど、Z0編成の段階で量産車の発売を見越した設計となっており、いかに新規制作するパーツを少なくして量産車に仕立てるかという合理性が伝わってくる。
しかし、Z0編成と量産車ではそれなりに差異はあるから、Z0編成をベースに最低限の手間で量産車を仕立てた場合、喫煙ルームの窓などわかりやすい部分は作り分けられても、細かい部分はいろいろ妥協せざるを得ない現実がある。
もっとも顕著なのが床下部分で、すでに述べたがZ0編成と量産車では台車カバーや機器のカバーに違いがある。しかし、トミックスはN編成(量産車)用を特に制作することなくZ0編成のものを流用している。そのため、新規制作のボディを持つ5両も含めて量産車なのにZ0編成の床下になってしまった。号車間のパターン配置も変わっていないから、残念ながら床下編で書いた「妥協ラインが低い」どころではない結果となっている。
また、客用扉横の点検ハッチの位置もZ0編成と量産車ではけっこう差があるのだが(参考)、ボディが新規制作の5両については量産車と同じ配置になっているものの、その他のボディはZ0編成と同じなので編成全体ではどっちつかずの状態になってしまっている。
床下にしても点検ハッチにしても細かな問題であり、ぱっと見にはN700系量産車としての印象を崩すものではないことも確かだ(特にドア点検ハッチは存在すら気付かない人もいるかもしれない)。もともと鉄道模型において床下の代用・流用は珍しくなく、これは大部分の人は気にしないことの証左。コストを考えると何でも作り分けることは難しいし、多数の人が気にならない個所は妥協してでも、商品ラインナップを増やすという方向性も間違っていない。
しかし、このN編成はZ0編成よりもさらに妥協ラインが下がっていることも確かで、メーカーの「志」という意味では、もう少し頑張ってもよかったのでは?と思った。床下を量産車用に作り分けるのは大変なのは理解する。でも、それをやっていたら素晴らしい製品になっていたと思うと・・・カトーとZ0編成を比較した後だと、N編成だけが安易な製品手法に感じられて、ちょっと不憫に思ったのが正直なところだ。
トミックスのN700系はZ0編成、N編成、S・R編成とラインナップを拡大する中、カトーに遠慮していたのかどうかはわからないが、JR東海所有のZ編成量産車は製品化をスルーしていた。しかし、2011年10月にはついにZ編成量産車を製品化、N700系のフルラインナップ化を実現した。
とはいえ、実質的には同ページで紹介したN編成の印刷表記を一部変更しただけの製品である。実車もZ編成とN編成ではほとんど差がないから、模型も大部分共用することは問題ないのだが、Z0編成の床下を流用しているなどの欠点もそのまま引き継いでしまっている。床下が新規製作されたS・R編成の後に発売された製品だが、あくまでもZ・N編成という枠の中でのバリエーション展開である。
2011年の鉄道模型ショウで展示されていた試作品。N編成の印刷表記が違うだけなので、製品版とほぼ同じである。
プロトタイプがZ編成量産車ということで、カトーとかぶってしまうように思えるが、カトーが(発売時期を考えたら当然だが)登場時のZ1編成なのに対し、トミックスは従来1・8・16号車のみにあったJRマークを、全号車に貼りつけとした「現在の」Z編成をプロトタイプにしている点が異なる。JRマークは当然オレンジ色で、印刷済みとなる。
付属のインレタはN編成とほぼ同じ収録内容ながらZ編成量産車用に一新され、Z53、Z36、Z42、Z60編成が選択できる(カトーに比べ、比較的後期の編成となっている)。基本セットの4両はZ53編成の番号が印刷済みとなっている。
模型の概要ページに書いたとおり、セット構成は変更されたものの16両すべてが2つのブックケースに収納できる点も同じ。しかし、基本セットのウレタンはなぜかS・R編成用のものになっていて、Z0編成やN編成と異なり、16両を順番に収納できなくなってしまったようだ(今後改められるかどうかは不明)。
2014年8月、「N700A」の仕様を一部取り入れた従来型のN700系がトミックスから発売された。製品化されたのはJR東海所有の2000番台(X編成)で、実車では前述の0番台(Z編成)から改造されたものである。もっとも、実車は外観上ではロゴマーク程度しか変化がないため、模型も同ページ内で紹介した0番台、3000番台とほとんど変わらず、床下がZ0編成の流用である点も同じである。なお、特筆・・・するほどじゃないけど、0番台と「N700A」ではブックケースだった基本セットが、同社の16両編成N700系では久々の紙パックの3両セットとなった。増結セット2種のブックケースに16両編成を収納可能で、0番台の項で書いたようなウレタンのポカもなく号車順に並べることができる。
実車ではN700系Z・N編成すべてが「A改造」される予定で今後の主力になると思われるが、2014年9月時点ではトミックス製品のみであり、カトーからの発売予定はない。また、JR西日本の5000番台(K編成)も予定されていない。どうせなら(施工が面倒だとしても)JRマークもインレタにして、JR東海・西日本の両方に対応してもよかった気がする。後でJRマークの色とインレタだけ変えたJR西日本編成を別途ラインナップできなくなるって?それは失礼しました。
ほとんどが従来の0・3000番台製品と変わらない中、今回製品唯一のアイデンティティといえるのが「N700」ロゴの横に追加された小さな「A」。それだけかよ!とツッコミが入りそうだけど事実です。ただし、台車は0・3000番台ものではなく、Z0編成やN700Aで採用されたタイプ(同ページの「台車も新規制作」のところで紹介した左側)となっている。
形式番号は基本セットの1・5・16号車のみX65編成(改造第1号編成である)のものが印刷済みで、他の車両はインレタで表現する。なお、マスク付きインレタでX7・38・71編成に変更することもできる。
上が模型、下が実車。「N700」ロゴマークは従来品の高いクオリティを継承。追加された「A」マークはグラデーションの表現が実車と異なるがここまで拡大しないとわからないレベル。普通に見る分には全く気にならないだろう。
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