鉄道模型で複数のメーカーが競作している車種は、新幹線に限らず「どこのメーカーがよいのか」という話題が必ずといっていいほど付きまとう。それは購入にあたってのガイドが欲しかったり、自分が持っている製品の評価を知りたいという心理からだと思うが、それだけに当サイトよりはるか前からそうした話題を取り上げるレビューサイトはたくさんあるし、掲示板でもFAQサイトでもよく扱われるネタでもある。
500系も例外ではなく、むしろ人気車種だけにその手の話題に上がる模型の筆頭といっていいだろう。とはいえ、客観的な評価や詳細な比較があまりなかったことも事実で、実はそうした現状がこのサイトを作ろうと思ったきっかけだったりするのである。そんな状況でここまで記事を書いてきたのだが、そろそろ「総評」として評価をまとめてみたい。
記事中たびたび書いたフレーズだが模型視点重視のカトー、スケール重視のトミックスの差が非常によく出ているといえる。模型は実車と違い上から見ることや、走行させる場合は特に車両から離れて見ることが多い。Nゲージは小さいのでなおさらだが、そうした模型ならではの「見せ方」にこだわったのがカトー、あくまでも実車を忠実に再現することを重視し、間近で見ることも考慮したトミックスという違いである。
もう少し具合的にいうと、カトーは先頭部の分割線や側面窓ガラスの引っ込み具合など少々リアリティを損ねている個所があるものの、デフォルメや演出を多用してとにかく「模型として見栄えを良くする」ことを重視。トミックスは逆にデフォルメよりも「出場直後の500系」というシチュエーションをもとに、特徴である先頭部の一体感や窓ガラスのツライチ感に力を入れ、全体的なスケール感や手に持って見たときのリアリティを重視しているという感じだ。それらがどのように表現・実現されているかは、これまでの記事で紹介してきた通りだ。
両社の方向性はもともと異なる場合が多いのだけど、500系という一つのテーマに両社が持てるコンセプトと技術力をつぎ込んだ結果、まさに一長一短、両者互角の仕上がりになったと思う。「実車に忠実なのがトミックス、実車よりカッコイイのがカトー」とは以前某巨大掲示板で見た書き込みである。だれが書いたのかは知らないし、所詮掲示板の一書き込みにすぎないかもしれないけど、筆者は言い得て妙な格言だと思って気に入っている。500系の模型はまさに、それを体現している最たるものといっていいだろう。
ところが、これまでネット上の評価を見ていると「カトーの方がリアル」「カトーの圧勝」という意見が多い気がする。逆にトミックスは「玩具っぽい」という評価を見ることがあっても、こちらが優れているという評価は(少なくとも筆者は)ほとんど見たことがない。
まあ、「カトーの圧勝」的な評価だって、理由も根拠なく出てきたわけではなかろう。
たとえば、鉄道模型ショーで大規模レイアウトを見るようなシチュエーション。走行している車両は結構離れて見るわけだが、こういう状況だとカトーの屋根上の黒いラインはリアルかどうかは別にして模型に引き締まった印象を与える。カトーは塗装もコントラストが強いしヘッドライトもキラキラしてるので、メリハリが強くてぱっと見の印象が良い。逆にカトーの欠点である先頭部の分割線、側面窓の奥まり、印刷の粗さといった部分はほとんど目立たなくなる。
一方、トミックスは同じようなシチュエーションだと屋根上があっさりしていて、どこか淡白な印象を受ける。屋根上の滑り止めのモールド、ビシッとはめ込まれた窓ガラスなどトミックスならではの利点はあるのだが、ほとんど気づいてもらえないだろう。大レイアウトだけでなく模型店でも似たような感じだろうが、とにかくトミックスは手に取ってみないとその良さを理解しにくいモデルだと言えよう。
要するに、ぱっと見の印象が「圧勝」という評価に表れているのだろう(トミックスのフックリング連結構造も敬遠される要因なのかもしれない。筆者は決して悪いものではないと思っているが・・・)。人は大部分を見た目で判断することに対し、うまく見せることに成功したか否か。要するに器用なカトー、不器用なトミックスということではないだろうか。
このサイトの評価も筆者の主観にすぎないが、それでも客観的な根拠に足りうるもの・・・「見た目で判断する」以上のことは示してきたつもりだ。その結果、前述の通り両者一長一短、互角の仕上がりという評価を出したわけだが、少なくとも圧勝というほどの差は絶対にないという点はお伝えしたい。そもそもコンセプトが違いすぎて優劣をつけること自体がナンセンスなのかもしれない。
500系は人気車種なので模型でも人気商品であり、Nゲージ全体でも入手しやすい模型といえるだろう。2010年現在の話だが、ここ数年は1年ペースくらいで再生産が行われているので、再生産直前だと増結セットや単品の入手が難しくなることはあるが、いずれにしても待っていればいずれ買えるというくらい安定している。ヤフオクでもタマ数は多く、特にプレミアがつくようなこともないので入手はしやすいはず。
そして、カトーとトミックスどちらを買えばよいのか・・・500系は両方ともプロトタイプが同じだから(700系などのようにJR東海・JR西日本といった分担になってない)、モロに競作である。
結論からいえば自分好みの方を買えばよいということになるが・・・芸がない?・・・というのは、前述の通り両者のコンセプトが違いすぎるので好みの差が出やすい。しかも互角で一長一短である。片方にあるものは片方にはない。カタログや店頭のぱっと見でも、このサイトを見ていただいての判断でも、あれこれ悩むよりは欲しいと思った方をぱっと買うのが一番だと思う。
もちろん両方買うというのもアリなのだが、プロトタイプは同じなのに並べると雰囲気が異なるので、統一された雰囲気を好む人には抵抗あるかもしれない(複数編成買うなら、同メーカーで揃えた方がいいかも)。だが、両方買って両メーカーの違いを研究するというのも楽しみの一つとして否定はしないし、あえて雰囲気の違う両者を並べる(走りこなれた編成と出場したての編成の並び?)のも楽しいだろう。
最後に、簡単な工作例を紹介。ちなみに、下記すべての所要時間は試行錯誤を含めて2時間程度というお手軽工作だ。さんざん「分解するな」と言っておいてなんだけど、自己責任でできる方で興味がある方はぜひ。
トミックスのヘッドライトは消灯時に真っ黒で少し物足りないのと、車体からやや引っ込んだ位置にあるので、その辺を中心に改善してみたい。
実車のライト内部にはリフレクター(反射板)があるので、それの再現を狙ってライトのプリズム裏からアルミテープを貼ってみた。表面のライト位置より奥まった位置までカバーするのがポイント。
アルミテープ自体は、そのへんのホームセンターで売ってる一般的なものである。ライトの縁まで貼ってしまうとボディにはまらなくなってしまうので、底面だけに貼りつけるのがコツ。テープを切り出す時にプリズムを傷つけないように注意。
さらに、プリズムの根元部分をミラーテープで覆う。こうすることでプリズム内の集光がよくなり光量も若干アップする。灯火類編で書いた光漏れの問題も解決できて一石二鳥。
このミラーテープもホームセンターで購入したもので、本来はキッチンの補修などで使うのでかなり大きい。Nゲージ用途としてなら一生かかっても使いきれないかもしれない(w。
上が改造前、下が改造後。ライトを車体に固定する際に両面テープでプリズムを上方に固定すれば「落ちる」こともなくなり、ライトがツライチに近くなる。ライトの中もリフレクターが光って「何かあるぞ」感が出ているかと思う。
ところで、上でアルミテープとミラーテープを使い分けたのは、リフレクター用途にはミラーテープは反射(写り込み)が強すぎてかえって存在感がなくなるから。反射をある程度抑えたアルミテープの方がこの場合は向いている。逆に集光用途なら反射が強い方がいいのでミラーテープいうわけだ。
点灯させるとご覧の通り(左が改造後)。改造前はいかにも透明なプリズムが光ってますという感じだったが、アルミテープのリフレクターを入れたことで全体的に落ち着いた感じの光り方になった。光量も若干ながら増えていることがわかるかと思う。電球色LEDに交換すればさらにリアリティが増すと思うが、「かんたん工作」の範囲を超えてしまうので今回はやめておいた。
トミックスの前面窓ガラスは一体感は悪くないのだが、どうしてもガラス(実際はプラ)の厚みが目立ってしまう。そこをある程度改善したのが以下。
やることは非常に簡単で、ガラスの断面部分を黒く塗ってやるだけである。リフレクターを貼ったことでヘッドライトも厚みが出立つようになってしまったので、こちらも塗ってみた。
塗料は今回はコピックのスミ入れペンを使った。通勤電車のドアの戸当たりゴムの再現などで重宝するペンだが、今回のような工作では普通の塗料の方がよく、正直なところあまりキレイに塗れてない。
なぜスミ入れペンなんかで?恥ずかしい話だが、この工作をやるときにツヤ消し黒のふたが開かなかったから(長い間放置していたので・・・)。ただ、後日普通の塗料(クレオス水性ツヤ消し黒)で改めて塗ってみたのだが、マスキングが必要なうえに形状的にも結構面倒だった。大ざっぱに塗って、サンドペーパーやコンパウンドで窓表面を磨き落とす手もあるとは思うがそれも大変だ。スミ入れペンならそのまま塗れるので「かんたん工作」という趣旨からは悪くないかも・・・と言い訳してみる。
この改造をした方には「W8」の編成番号インレタも施してみた(左が改造後)。
結果はご覧のとおりで、窓ガラスの厚み感がかなり改善されている。編成番号のインレタもあって、全体的に引き締まったように思う。
今度が施工後が右と入れ替わってしまったが、ヘッドライトにも同様の施工をしたので、前段のツライチ化により一体感がさらに増したと思うが・・・どう?
今回はスミ入れペンで大ざっぱに仕上げてしまったものを紹介したが、後日塗料で施工したらさらに引き締まった感じになった。
ちなみにこの手法は側面窓でも使えるし、在来線車両でも有効なテクニックだったりする。ただ、側面の窓は数が多いし、それをきれいに塗り分けるとなるとかなり大変ではある。そのうち本格的な工作として、側面の段差消しにもチャレンジしてみたいと思う。
トミックスのテールライトはプリズムが奥まった位置にあるので、上方から見ると点灯してても見えないという欠点があると書いたが、単に部品の精度が悪いだけで実は調整することができたりする。
コックピットのパーツの裏側はこんな感じになっていて、ヘッドライト用のプリズムを外すと、ふたを1枚はさんでテールライト用のプリズムが現れる。
四角い枠がテールライトプリズムの先端、○が二股に分かれる部分。上段と中段で比べるとわかるが、このプリズムはこれだけ前後に動いてしまう。上段の写真がまさに「プリズムが奥まっている」状態であり、中段は逆に飛び出している状態である。
要するに、プリズムの先端をちょうどよい位置(ツライチ)にして固定してやればいいわけだ。下段の写真がその「ちょうどよい位置」に合わせたところで、さらに両面テープ(黄色枠)で固定してやれば今後ずれることもなくなる。
テールライトの位置を調整すればこの通り、上方から見てもしっかり点灯が確認できるようになる。プリズムの位置をずらして両面テープで固定するだけと考えると、その効果は高いのではないかな。
扱いが少なくて申し訳ないが、カトーはヘッドライトの光量が少ないという欠点があるので、簡単に光量増しできる方法を紹介する。注意点として、カトーはトミックスと比べてボディ・床下が分解にしにくいので注意してほしい(筆者の所有品もツメがいくつか折れてしまっている)。
分解した状態でヘッドライトを点灯。カトーのヘッドライトは高輝度白色LEDなのだが、正面は強く照らすものの(目がやられそうなくらいホントに眩しい)、横方向からは全然眩しくない。これがカトーのヘッドライトの暗さの原因であることは灯火類編で触れたとおりだ。
そこで「LED光拡散キャップ」というアイテムを使う。名前の通り指向性の高いLEDの光を拡散するゴム製のキャップで、秋葉原の「秋月電子通商」で購入したものだ(ググればすぐ出てくる。通販可能)。20個100円という安さで、ここでは3mmタイプを使用する。
ちなみに、筆者が車のエアコンパネルをLED化した時の余りだったりする・・・
このようにLEDにかぶせて使う。キャップのせいで正面の強烈な眩しさはなくなってしまうが、今回は側面方向に光を増やすことが重要なのでこれでOK。
結果はこの通りで、目に見えて効果が表れている。灯火類編では見る角度でライトのまぶしさが異なると書いたが、この改造により平均的に明るくなった。一番下の写真のように、やや横方向から見た場合でも左右の光量も安定しているように思える。
実際には、これでもまだトミックスの方が明るかったりする。根本的に明るくするにはたとえばLEDを上に向けるとか、チップLEDに換装するなどしないと無理だろう。しかし、LEDの配置スペースはシビアだし真下から照らすという構造上、かえって不自然になる可能性もある。その点、この改造はキャップをかぶせるだけという超お手軽さがポイント。コストに対する効果を考えたら十分といえるのではないだろうか。
今回はキャップをそのままかぶせただけだが、たとえばキャップをクリアオレンジで塗ったり、プリンタで透明ラベルに薄い黄色やオレンジを印刷して、フィルタのように使えば実車のような電球色(シールドビーム)っぽい表現も可能だろう。キャップの価格も安いからいろいろトライしやすいし、失敗してもキャップを外すだけで済むので、お手軽で効果は高い工作だと思う。
正直なところ、この改造よりもボディと床下を分解する方が圧倒的に難しかった・・・
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