●新幹線ならではの事情

新幹線といっても、基本は電車である。実車の連結間隔が500mmなのも、たいていの在来線車両と変わらない。だが、Nゲージでは歴史的に連結部(カプラー)に工夫が凝らされ、在来線用のカプラーとは異なる独自の進化を遂げているのだ。

前ページに鉄道模型では連結部の幌は省略される運命にあると書いた。鉄道模型の連結部は実車以上に激しく動くため、追従できるものがないというのが理由である。しかし、新幹線の連結部には外幌という、在来線にはない外観上欠かせないポイントある。

新幹線も在来線も、連結部は「幌」が通路となり、隣の車両に移ることができるのは同じ。しかし、新幹線には通路用の幌とは別に、外側にも幌が付いているのである。

連結部分研究01

新幹線の外幌。左から0系、300系、500系、N700系、E3系、E4系。N700系のような全周タイプや、E3系のような複雑な車体形状に合わせたものもある。材質はいずれもソフトな素材が使われる。

外幌は新幹線開業当時の0系から装備していたアイテムで、高速走行中の空気抵抗減少や、騒音対策として連結面に空気が入ることを防ぐためのものである。これは現在まで、すべての新幹線車両に形を変えて装備されていて、N700系やE5系では屋根部分も幌で覆った「全周幌」が外見上のアクセントにもなっている。性能的にも相当効果があるとされており、今後もなくなることはないだろう。

ちなみに、在来線にも外幌を装備した車両は存在するが、在来線程度の速度では効果が低いせいか普及せず、例は少ない。小田急の特急「ロマンスカー」には装備している形式が一部あるが、性能上の装備というよりは、デザイン的な装備と考えた方がよさそうである。

最近の在来線は、外幌のような「転落防止幌」を装備している例が多いが、あくまでもホーム上の乗客が連結部に転落しないようにするもので、新幹線のそれとは目的が異なる。転落防止幌は90年代中頃から現れ始め、初期車両にも追加装備されたりして、現在ではほとんどの車両で見られる装備となったが、新幹線の外幌と比べて後天的な装備であるためか、やはり模型では省略されている(走らせないディスプレイ用なら、後付けパーツは存在する)。

連結部分研究02

連結部にあるのが「転落防止幌」。あくまでもホーム上での安全装備であり、新幹線のように空力を考慮していないので小ぶりである。

在来線はカーブが急なこともあって、特に駅構内のポイントを渡る際、車両同士の転落防止幌が往復ビンタのようにバチンバチン接触しているのを目にすることがある。


●新幹線カプラーの種類

新幹線の外幌は、見た目にも「新幹線」を主張するアイデンティティであることは間違いない。模型では外幌もろともバッサリ省略したモデルは存在するが、やはりメーカーとしても外幌の再現は腕の見せ所なのだろう。だからこそ、外幌を表現するために在来線とは異なった、豊富な種類のカプラーが存在しているといえる。

というわけで、カトー、トミックス、マイクロエースの3社の新幹線用カプラーを紹介する。名称等は筆者が勝手に付けたものもあるし、分類方法も独断と偏見である。

カトー アーノルドカプラー
ダイアフラムカプラー
KATOダイアフラムカプラー
全周幌カプラー
トミックス フックリングカプラー(初期型)
フックリングカプラー(改良型)
フック・リング式通電カプラー
フック・U字型通電カプラー
TSカプラー
マイクロエース マイクロエース新幹線カプラー
伸縮式アーノルドカプラー

連結部分研究03
アーノルドカプラー
メーカー:カトー
伸縮式:×
サンプル:0系

●カトー初の新幹線模型のカプラー

カトー初の新幹線模型は200系。ほぼ同時期に、同じく200系をリリースしたトミックスが従来にない連結方式(後述)を採用したのに対し、カトーは手堅く、Nゲージでは標準的なカプラーであるアーノルドカプラーを採用した。次にリリースした0系も、やはりこのカプラーが採用された。

概要や特徴は在来線模型に採用されているものと全く同じなので、前ページを参照していただきたいが、外幌は完全に省略されており、連結面に新幹線独特の雰囲気はない。ちなみに、カトーよりも古い学研やエンドウの0系もアーノルドカプラーで、新幹線+アーノルドカプラー=外幌の省略というのは、カトーが初めてというわけではない。

車両妻面のディーテールを作りこめるというメリット(新幹線の妻面はほとんどお目にかかれないのでメリットといえるかは微妙だが・・・)がある。他社製も含めてその他のカプラーは、構造上妻面は作り込んでいないのがほとんどだ。

なお、前ページに書いた「KATOカプラー」に交換することが可能である。

連結部分研究04

在来線模型とまったく同じアーノルドカプラー。


連結部分研究05

妻面のディテール表現はなかなかのもの。


連結部分研究06

在来線のアーノルドカプラーと同じく台車マウント。伸縮機能はない。


連結部分研究07

連結状態。外幌がないのはやはり新幹線としては寂しいかも。


各種アクション

連結部分研究08
※カーブレールはトミックスのR=317mmを使用

このカプラーの採用製品(※都合上、学研とエンドウも含んでいます)(リンククリックでアーカイブオープン)


連結部分研究09
ダイアフラムカプラー
メーカー:カトー
伸縮式:○
サンプル:700系

●カトーの新幹線用標準カプラー

E1系で初めて採用され、その後のカトーの新幹線模型で数多く採用されている。一般的に「ダイアフラム」とは「弁」とかそういうものを示すらしく、なぜこの名称なのかはよくわからないのだが・・・

伸縮式カプラーに分類され狭い連結間隔に定評があるが、注目すべきはその構造にある。独自のカプラーに内幌を一体化した構造となっていて、連結すると幌ごとつながるというもの。伸縮カプラーなので外幌も表現でき、ぶっちゃけていえば内幌と外幌という実物の新幹線と同じ構造を実現しているカプラーである。

連結はカプラー部にあるカギ状のフックで行うが(幌の部分はお互いのピンで止まっている)、連結は両車を軽く当てるだけ、切り離しは片側の車両を持ち上げるだけであり、簡単で扱いやすい。連結時に軽いクリック感もあるため、操作性もよい。ただし、直線部分で幌の位置を中央にしないと連結できない(カプラーは自然に中央には戻らない)。

強いて欠点をあげるなら、構造上どんな車種でも使えるわけではない(後述のE3系では車体幅が狭いので使えなかったり)くらいで、カプラー自体の欠点はほとんどないと思う(少なくとも筆者は)。

実物の新幹線車両は全周幌が主流となりそうで、最新車両にはこのカプラーは採用しにくいばかりか、後述の「KATOダイアフラムカプラー」の採用がフル規格車両・ミニ車両問わず進んでおり、完全に取って代わられてしまった感がある。

連結部分研究10

妻面をフルに使うカプラーなのでディテールはない。下部のフックで連結する。


連結部分研究11

伸縮カプラーだが、幌ごと伸びるのがユニーク。


連結部分研究12

カプラーはボディマウントタイプ。車体のカバーに覆われているが車輪のあたりにカプラーのパーツが少しだけ見える。


連結部分研究13

連結状態。実物と同じ構成だが外幌は小さい。また、内側に向けて少し後退角がある。


連結部分研究14

真横から見てもリアルなのだが、連結位置が高いため本来の連結器のある位置は空間になっている。


連結部分研究15

カーブではさすがに不自然。これは模型の宿命であり、どのカプラーでも同じだが。


各種アクション

連結部分研究16
※カーブレールはトミックスのR=317mmを使用

このカプラーの採用製品(リンククリックでアーカイブオープン)


連結部分研究17
KATOダイアフラムカプラー
メーカー:カトー
伸縮式:○
サンプル:E3系(つばさ仕様)

●ミニ新幹線向けのダイアフラムカプラーから、カトーの新標準カプラーへ

前述のダイアフラムカプラーは妻面いっぱいに首振りを行うためそれなりの車体幅が必要であり、車体幅が狭いE3系には採用できなかったようだ。そのため、ミニ新幹線向けに開発されたのが当カプラーである。

構造的には名前のとおり、KATOカプラー+ダイアフラムカプラーで、KATOカプラーに幌パーツをつけた感じのカプラーである。連結器部分の仕組みは完全にKATOカプラーそのものであり、元祖ダイアフラムカプラーとは操作性が異なる。

連結した時の間隔の狭さや、外幌+内幌という構成はダイアフラムカプラー譲りのリアルさがあるが、操作性や使い勝手は一歩劣る印象がある。特に切り離しの時は(これは在来線のKATOカプラーも同じだが)連結している両車を持って「折る」ようにするため、レールの上で編成を組んでいる場合はやりづらい。

ミニ新幹線用と思われた同カプラーだが、E5系はフル規格車両で全周幌にも関わらずこのカプラーが採用された。通常のダイアフラムカプラーよりもねじれ方向への柔軟性が高いため、車体傾斜システムを持つE5系に採用されたのだと思われる。E5系用はカプラーにスプリングが組み込まれたため中央に復元する機能を持つ。また、E3系のようにプラプラしてしまうこともなくなった。

さらに、923形ドクターイエローのほか、N700Aに至っては全周幌の見た目を犠牲にしてでも当カプラーを採用。フル規格車両・ミニ車両問わず、同社新幹線模型の標準的なカプラーとなっている。

連結部分研究18

連結器本体はKATOカプラー(前ページ参照)そのもので、突起が丸い新幹線用連結器になっている。


連結部分研究19

ダイヤフラムカプラーのように車体に食い込んでいないため一応妻面はある。カプラーの裏には客用扉も再現されている。左側のカプラーが斜めってるが、取り付けがぷらぷらしていて安定感がないのだ(実用には問題ない)。

E5系以降の製品ではスプリングを仕込んでの中央復元機能が実装され、ぷらぷら感はなくなった。


連結部分研究20

やはりボディマウントタイプになっている。こうして見ると「幌」というより1枚の「板」。


連結部分研究21

連結状態。ダイヤフラムカプラーと同様リアルだが、曲線では幌というより板が動いているようでちょっと不自然(下写真参照)。


各種アクション

連結部分研究22
※カーブレールはトミックスのR=317mmを使用

このカプラーの採用製品(リンククリックでアーカイブオープン)


連結部分研究23
全周幌カプラー
メーカー:カトー
伸縮式:○
サンプル:N700系

●全周幌を再現した複雑メカニズムのカプラー

カトー標準のダイアフラムカプラーは、全周幌を持つN700系には採用できなかった。そこで、カトーの海外向けモデル「ゴッタルド(スイスの特急らしい)」で実現していた全周幌カプラーを、N700系向けにアレンジしたカプラーが用意された。

構造は従来のカプラーとは一線を画すユニークなもので、(少なくとも直線では)N700系の全周幌をよく再現できている。連結間隔も十分に狭くリアルである。N700系は模型も車体傾斜を実現しているので、車体間の若干のねじれも吸収できるようになっている。

しかし、複雑高度なメカニズムを採用した結果、操作性や使い勝手が犠牲になってしまった感がある。まず、下の写真にもあるが幌パーツがダラーンと出てくることがある(細いカプラー1つで支えているため)、これで正常とはいえ、ちょっといただけない。パーツも全体的に華奢で繊細なので、扱いには神経を使う。

また、連結方法は当てるだけ・引っ張るだけの簡単操作のはずなのだが、当てるだけでは一部のピンが引っ掛からないことが多く、しかし一見連結できているように見えるので、そのまま走らせて脱線・・・ということも起こる。その他のピンも細かく操作性が良いとは言えない。一時期公式サイトに連結方法を掲載していたこともあり(それなりの苦情があったのだと思う)、全体的に扱いが難しいカプラーであることは間違いない。慣れれば問題なく扱えるようになるが、最初の1周目はゆっくり走行し、カプラーの連結を確認してから本走行を行うようにしたい。

実車では今後は全周幌が普及してくる可能性が高く、模型でもカトーはこの全周幌カプラーを多く採用していくと思われたが、E5系・E6系は全周幌を装備した形式にも関わらず、このカプラーではなく前述のKATOダイアフラムカプラーを採用した。これらはN700系とは異なるタイプの幌なので見た目の問題は小さかったが、その後発売されたN700AもKATOダイアフラムカプラーが採用され、N700系の全周幌の表現は捨てる結果になってしまった。

前述のとおり、苦情がそれなりにあったと思われるが、かといってリアリティと使い勝手を両立できる代替手段もそうはない。カトーに限らないがここ数年のNゲージ、特に新幹線は初心者向けの傾向がみられる中、確実に使いやすさ重視にシフトしたと考えられる。E5系・E6系の先頭部カプラーにもいえることだが、リアリティの追及が使い勝手を犠牲にすることが改めて露呈した以上、このカプラーはN700系だけで終わってしまいそうだ。

連結部分研究24

見るからに複雑そうな構造。連結方向が単方向というのはカトーでは珍しい。なお、動力車(10号車)は両端が右のタイプなので、動力車を中心に単方向になっている。


連結部分研究30

連結には3つの接点があり複雑。特に一番上(緑の矢印)のフックはかけ忘れが多く、そのまま走ると確実に脱線。


連結部分研究25

ケースから出したとたんに幌がダラーンと出てくることがある。壊したのかと勘違いしてしまう。


連結部分研究26

連結状態。直線では非常にリアルだが、窓から見える白い物体は・・・


連結部分研究27

カーブ用の幌だった。アウト側はこのくらい伸びてユーモラスでもある。


連結部分研究28

S字を曲がるとグネグネ・・・これだけ多彩な表情を見せるカプラーは珍しい。


連結部分研究549

実車ではN700系と同じ全周幌を採用するN700Aだが、模型では前述のKATOダイアフラムカプラーとなり連続感およびリアリティが大幅に損なわれてしまった。


各種アクション

連結部分研究29
※カーブレールはトミックスのR=317mmを使用

このカプラーの採用製品(リンククリックでアーカイブオープン)

N700系 新幹線「のぞみ」 2007年12月6日 発売