1.Nゲージの連結方式 |
2.新幹線Nゲージ連結器の種類(1) |
3.新幹線Nゲージ連結器の種類(2) |
4.新幹線Nゲージ連結方式・データ編 |
5.分割併合用カプラーについて |
いわゆる「玩具」と比べれば圧倒的にリアルな鉄道模型だが、その走行条件・・・つまり線路の状況は実物とは比較にならないくらい過酷である。特にNゲージは家で走らせられるように、レールレイアウトもそれなりの省スペース化が求められるため、実物とは比べ物にならない急カーブを採用せざるを得ない。勾配も急な場合が多く、実物ではカーブも勾配も入る前に緩和部分(カーブであれば少しづつきつくなっていく)があるのだが、模型にはそんな上等なものは存在しない。
それなのに、コントローラの最大電圧(12V)をかけた場合、列車の速度は実物換算で400〜500km/h程度の速度が出るとされており(なので電圧控え目のスケールスピードを激しく勧めておく)、そんな状況でも脱線したり、連結が外れたりしない要件が求められるのだ。
Nゲージは車輪等も脱線しにくいようになっているが、連結についてもそれなりの対策は取られている。連結器自体の構造もそうだし、連結間隔(車両同士の間隔)も実物より広めにとってある。
実物の連結間隔は在来線も新幹線も500mmというのが多い(写真は小田急2000形)。
小田急9000形の模型の連結間隔は約5mm。実物換算750mmと結構広いが、Nゲージとしては標準的な間隔である。
鉄道車両が曲がるときは丸印のように隣の車両と近づく箇所があるが、カーブが急な模型では近づき方もハンパではない。ゆえに連結間隔を広く取らざるを得ないのだ。
模型が走行する場合、広い間隔で車両同士も激しく動くわけだから、動きに追従できない「幌(車両間の通路)」は省略される運命にある。その結果、連結部分はリアリティに欠くことは否めないが、それでも各メーカーはリアリティだけでなく、扱いやすさや耐久性も考慮して、さまざまな工夫を凝らした連結器(カプラー)を用意してきた。
新幹線の連結方式について解説する前に、Nゲージ全般の連結方式について、簡単に触れておきたい。
Nゲージの連結器としては、アーノルドカプラーが最も標準的で普及している。
サンプルはマイクロエースの215系(JR東日本)。「コ」の字型をしたのがアーノルドカプラー。
連結したところを横から。この製品は連結間隔が少し広めだが、狭いものもある。
車体に連結器が実装される実車と異なり、模型では台車についている(「台車マウント」という)。
トミーテック「鉄道コレクション」の台車を撮影。構造がお分かりいただけるだろうか?
ドイツの模型メーカー「アーノルト(Arnold)社」が開発したカプラーで、日本のNゲージの先駆者でもあるメーカー「カトー」が、「世界中のNゲージ車両を連結できるように、アーノルドカプラーに統一しましょう」と提唱して以来、Nゲージでは世界的に普及しているカプラーである。そのカトーは現在、オリジナルの「KATOカプラー(後述)」で独自路線を歩んでいるのは皮肉な話であるが・・・
アーノルドカプラーは構造が簡単で扱いやすく、走行安定性が高いという特徴がある。取り付け部にバネが仕込んであるため柔軟性も高く、Nゲージの急カーブ・急勾配も難なく走破してしまう。現在では外見がリアルなカプラーがいくつも登場し、アーノルドカプラーはもはや玩具と評する声もあるが、扱いやすさ・走行安定性でこれを超えるものはなく、しかもコストが安いときているので、現在でも一線級で採用されているのも頷ける。
欠点としては、前述のとおりNゲージでは連結間隔を広めにとらなければならないこと、見た目がゴツくて大きいため、リアリティを損ねていること。中間部ならまだしも、このカプラーが前面に露出してしまう場合は結構深刻である。
鉄道車両の先頭部分に連結器が露出している場合、「ダミーカプラー」で表現することが多い。その名の通り形状だけ実物を模していて、連結はできないカプラーである。
しかし、車両や路線によっては分割併合や増結・解放といった、先頭の連結器を常用する場合もある。これを模型で楽しみたい場合はダミーカプラーでは不可能なため、外見がリアルなダミーカプラーで連結を我慢するか、アーノルドカプラーで外見を妥協するかの2択しかなかった。
連結機能を持たないダミーカプラー。写真の251系(スーパービュー踊り子)・215系は実車では先頭車の連結器は常用しないので、ダミーでも問題はないのだが・・・
鉄道コレクションの小田急2200形。左がダミーカプラーで右がアーノルドカプラー。先頭車を連結させる場合、このように見た目か連結機能かの2択しかなかった。
前段で書いたような先頭部の連結器に関するジレンマも、メーカーの努力により解決する。歴史的な経緯は省略するが、カトーの「KATOカプラー」、トミックスの「TNカプラー」がそれである。簡単にいえば、両者とも実物の連結器を模しつつも、連結機能を持っているカプラーである。
カトーのE231系に装備されているKATOカプラー(左)と、グリーンマックスの小田急3000形に装備したTNカプラー(右)。
どちらもNゲージサイズでとても小さいのだが、形状はリアルな上にちゃんと連結できるのが驚く。KATOカプラーとTNカプラーは連結構造が異なるため互換性はなく、連結はできない。
KATOカプラーは連結器本体はダミーであり、連結器下部にある「電気連結器」という部分がフック状になっていて、そこで連結する。連結する場合は車両同士を軽く当てるだけだが、切り離すときは車両同士持ち上げて折るようにするなど、ややクセがある。
一方のTNカプラーは実物同様、連結器本体の突起と穴で連結する方式で、電気連結器はダミーとなっている。電気連結器を装備していない車両もあるから、その場合は切断することができる。連結はやはり車両同士を軽く当てるだけ、切り離しはそのまま引っ張るだけだ。
どちらもアーノルドカプラーに比べ、使い勝手や走行安定性は一歩劣る部分もあるが、アーノルドカプラーが過剰に優れているという感じなので、これらリアルなカプラーも実用上は問題ない。
KATOカプラー・TNカプラーともに、既装備のアーノルドカプラーを交換するタイプが発売されている。交換により見た目の改善のほか、連結間隔を若干短縮するといわれているが、基本的には台車マウントとなるため、連結間隔の短縮効果は微妙なところ。しかし、連結間隔の短縮をも可能にした、「ボディマウント」という伸縮機能を備えているタイプも存在する。
伸縮機能とは、直線部分では縮んで短い連結間隔を実現し、カーブでは伸びて連結間隔を広げ、急カーブも曲がることができるという代物である。構造そのものは案外単純で、取り付け支点を工夫することでカプラーを伸ばしている。
伸縮式KATOカプラー(左)と伸縮式TNカプラー(右)の直進状態。写真のKATOカプラーは引き出してから使うので若干長い。
取り付け支点が工夫されたカプラーは曲線部分ではこのように「伸びる」。
TNカプラーを連結したところ(小田急3000形の実車は同形式連結することはないが)。間隔が狭くてリアルだが、このままではNゲージのカーブは絶対曲がれない・・・
しかし、カーブではご覧のとおり、カプラーが伸びて接触することなく曲がることができる。
KATOカプラー・TNカプラー共に車体側に実装され、台車とはつながってない(ボディマウント)。
KATOカプラーには台車マウントタイプもある。左は標準装備品、右はアーノルドカプラー交換タイプ。こちらは車体間のケーブル「ジャンパ線」も再現している。
伸縮機能はTNカプラーが先行していたが、現在はKATOカプラーも伸縮機能を有する。しかし、市場もユーザも、両カプラーに対するスタンスは異なるようだ。
TNカプラーはコストが高いためか、トミックスでは「HG製品」には装備するも、通常製品はアーノルドカプラーである。ただし、TNカプラーをオプションとして装着できる製品が大半であり、簡単に取り付けできるようになっているし、カプラーも別売りパーツとして簡単に入手できる。ユーザがコストに応じて自分で装備を選択するわけだ。また、入手しやすいためトミックス製品だけでなく、マイクロエースなど他社完成品、グリーンマックスのキット製品にも流用するユーザも多く(他社製品でもTNカプラー取り付け口を備えているものも多い)、改造・工作派ユーザにも支持されている。
一方のKATOカプラーは、アーノルドカプラー交換(台車マウント)タイプはコストが安く、こちらも入手が容易で改造・工作派にも支持されているが、伸縮タイプは一般には販売されず、あまり工作等には用いられない。最近のカトーの製品に標準装備品として使われているが(写真のE231系は全車両に標準装備されている)、他社製品で伸縮式KATOカプラーを無改造で取り付けできるものは皆無で、ほぼカトーの独自規格となっている。
なお、掲載しなかったがマイクロエースからも「マイクロカプラー」という、伸縮・ボディマウントタイプのカプラーが別売りパーツとして用意されている。元々同社製品がTNカプラーに対応していたため、車体の取り付け部には互換性がある。ただし、連結器そのものはTNカプラー、KATOカプラーとも互換性がない独自のものなので注意。連結間隔も、カトー、トミックスと比べると若干広いようである。
これら伸縮カプラーは、新幹線模型のカプラーにも絶大な影響を与えている。詳しくは次のページで解説したい。
Nゲージのカーブは実物よりはるかに急カーブと書いたが、どのくらい実物と差があるのだろうか?
カーブの大きさは、半径(ここではR=で表記)で表す。半径の値が大きいほど、緩いカーブとなる。左図の例では半径100m(R=100m)のカーブを示している。
一般的な在来線の場合、R=400mくらいのカーブでも「急カーブ」と称されるが、その程度のカーブはJR・私鉄問わず随所に見られる。
JR総武線飯田橋駅のR=300m程度のカーブ。カーブ途中に駅があるため、車両とホームの間隔が広い部分がある。通過列車(中央快速線)もそれなりの減速を強いられている場所でもある。
車両基地内等ではさらに急なカーブもあると思うが、営業線で有名なのは東武浅草駅直後のR=100mというカーブだろうか。Wikipediaにも画像があるし、Youtube等に動画も上がっているので興味があれば見ていただきたい。江ノ電や箱根登山鉄道といった、小型の車両が走る路線ではR=100m以下の曲線はザラで、箱根登山鉄道のR=30mは有名だし、江ノ電の江ノ島駅付近龍口寺交差点(併用軌道になっていて道路上を走る)ではR=27mというカーブも存在する。ちなみに日本で最急のカーブは豊橋鉄道井原駅付近のR=11m。こちらも動画サイト等で見ることができる。ただ、併用軌道を路面電車が1両で走っている状況なので、筆者にはバスが交差点を曲がっている程度の絵にしか感じなかった。通常のJR車両と変わらないサイズの車両が走り抜ける、東武浅草駅のほうがインパクトがあるかな。
一方、新幹線はというと、都心部などに例外もあるがさすが高速鉄道。最急曲線は原則、東海道新幹線はR=2500m、それ以外はR=4000mとなっている。
東海道新幹線小田原駅のカーブでR=2500m。
山陽新幹線新倉敷駅のカーブでR=4000m。現地に立つとわかるが、ほとんど直線にしか見えないくらい緩いカーブである。
日本初の新幹線である東海道新幹線はR=2500mが標準だが、速度が250km/hを超える現在では古い規格となってしまった。このカーブを270km/hで通過できる車両は車体傾斜装置を装備するN700系のみで、その他の車両は250km/hの速度制限がかかる。一方、それ以降の新幹線はR=4000mが標準となり300km/hでの通過が可能になっている。それ以上の速度域ではさすがに車体傾斜装置が必要で、320km/hで走行するE5/H5系・E6系にも装備されている。
では、Nゲージの世界ではどうなのだろうか。
トミックスの場合、スターターセットなどに含まれる標準的なカーブレールはR=280mm(メートルじゃなくてミリね)となっている。これを実物換算(150倍)するとR=42m。実に江ノ電や箱根登山レベルのカーブである。このカーブをJRの一般的な車両はもとより、新幹線も走ってしまうのだ。市販品で一番緩いカーブはカトーのR=718mmとなるが(ポイントと組み合わせて使う調整用レールで、通常エンドレスの曲線には用いない)、実物換算でR=107m。やっとこさ東武浅草駅のレベルである。フレキシブルレール(自由に曲線を作れるレール)でR=1000mmの曲線を作っても、実物換算R=150mの急カーブである。
逆に、実物では急カーブと称されるR=400mをNゲージサイズにした場合は約R=2.7mとなり、一般的な家屋では実現困難。新幹線のR=2500mならR=15m(160倍で計算)、R=4000mならR=25m。幕張メッセか東京ビッグサイトでも使わないと実現できないサイズとなる。いかに実物と模型(Nゲージ)のカーブに差があって過酷であるか、お分かりいただけたであろうか?
Speed Sphereトップ | 次ページ> | ||||||
新幹線Nゲージ連結部分研究
|
Speed Sphereトップ | 次ページ> | ||||||
新幹線Nゲージ連結部分研究
|