マイクロエース 小田急30000形「EXE」・序 |
マイクロエース 小田急30000形「EXE」・各部レビュー |
マイクロエース 小田急30000形「EXE」・総評 |
マイクロエース 小田急30000形「EXE」・遊び編 |
総じて完成度の高い製品といえるが、欠点がないわけではない。「まあ仕方がないか」とあきらめがつくものから納得できないものまで、気になった点、問題点をいくつか挙げてみた。
筆者は鉄道模型の品質には2つあると思っている。
最近のマイクロエースは前者については飛躍的に良くなっており、EXEは輪をかけて良くなったといっても過言ではない。しかし、後者については残念ながら(個体差もあると思うし、筆者の所持品の話であるが)「相変わらずだな〜」という点が何点か見られた。
割と目立つのが客用窓の段差。レッドのポイントがある部分は車体とツライチになっているが、その左右は少し浮いていることが分かる。走行時などはあまり気にならないものの、間近で見ると気になる場面がある。
先頭車のアンテナも、左は曲がって取り付けられている。パーツは接着されているので調整も難しい。細かい部分だが先頭部にあるパーツなので目立つし、先頭形状のモデリングがいいだけに惜しい。
EXEと同様に客用窓が連続窓となっている20000形「RSE」(モデモ)やJR371系(マイクロエース)が取り付け剛性不足により窓を押すとフニャッとなっていたのに比べると、EXEはあれだけの大型連続窓にも関わらずしっかり固定されており、剛性感は格段に向上している。しかし、その分取り付け精度がシビアになったようで、組み立て時に完全に平滑にすること自体が難しいようだ。
一応、ボディを外しティッシュ等で窓の両側から押さえることである程度は調整可能だが、それなりの難易度なので腕に自信のない人はやらないほうが無難かも。
写真はないが他にも、非貫通型先頭車の床板がかなり反っていて車体中央部の床下が垂れ下がっていたり(真横から見たときに車体中央部の座席が妙に下がっていたので)、10号車に限り車体が少し傾いていたというのもあった。いずれも自力で調整したが、本来こういう調整はしたくないものだ。
製造している中国の工場の問題だと思うが、トミックスにも中国製はあるけどこの手の品質の悪さはほとんどない。ベースがいいだけに、この辺が改善されると製品としても完璧に近いのだが・・・
実車の前面窓は上部と下部がガラスの裏からブラックアウト処理されているのだが、模型では表面から黒で塗装して表現している。光沢がある塗料なので、これまで見てきたとおり特に違和感は感じないし問題もない。
前面窓を裏から見ると、ヘッドマーク(愛称表示機)上部の一部に四角く塗装されている個所がある。灯火類のところで述べたとおりヘッドマークは光漏れが激しいので、その対策かと思われるのだが・・・
Nゲージ(右)はガラス表面に施された塗装に加えて、裏からの光漏れ対策の塗装が溶け込んでしまい、ヘッドマークの上部が出っ張った凸型のブラックアウト処理に見えてしまうことがある。左のBトレは筆者が裏からブラックアウト処理したもので、素人の工作なのでマスキングが甘く、塗装がフニャフニャなのはお許し願いたいが、手法に限って言えば拙作の方が実車に近いのではないかと思う。
まあ、ガラスの裏から灯火類とヘッドマークを抜くマスキングが実際にやってみて大変だったから・・・量産品じゃ無理ってことですかね。
上が非動力車で、車体に対して床下機器はバランスの良い位置に配置されているのだが、動力車はモーターがある関係で床下機器の幅が広く、車体ギリギリどころかわずかにはみ出てしまっているメタボっぷりである。編成全体でみると動力車のみ腹ボッテリで、バランスを損ねていることは否めない。
これはEXEに限った話ではなく、マイクロエース製品全般で見られる問題である(新幹線は車幅が広いせいかこの問題はないのだが)。モデモのRSEもそうだったけど、この辺が老舗のカトー・トミックスとの技術的な差なんだろうか。30年前のトミックスの西武レッドアローを今でも持っているが、腹ボッテリとかなかったけどなぁ。
動力ユニットはなかなか改良は難しいと思うが、走行性能は素晴らしいくらい良くなっているので、今後は見た目の改善も望みたい。
6両セット・4両セットともにヘッドマークと側面行先表示のステッカーが付属するのだが・・・
マイクロエース製品は総じて少なめなのだが、幅広い実車の運用を考えると4種類は少ない気がする。現行の姿だから「あしがら」「サポート」がないのは仕方がないとしても、「スーパーはこね」は入っていてもいいと思うし、何しろ分割併合という実車の特徴を体現した「はこね/えのしま(上の実車写真にある)」「さがみ/えのしま」がないのは意外。
ヘッドマークは内容によっては矛盾してしまうことも確かで、例えば「はこね/えのしま」を貼ったら分割した場合におかしくなるし、「スーパーはこね」も6両編成はともかく4両編成の単独運用はないからやはりおかしい。そうした矛盾を避けるために収録内容を減らしたのかどうかは分からないが、中には10両でしか走らせない人もいるかもしれないし、その辺はユーザが判断すればいいんじゃないだろうか。最近のユーザはステッカーも貼らないことが多いらしいので(面倒だったり、ヤフオクで売るためとか)、あまり力を入れないのも理解できなくはないけど。
側面行先は「はこね23号箱根湯本」「同小田原」「さがみ92号新宿」「えのしま75号片瀬江ノ島」「ホームウェイ11小田原」「ホームウェイ61号藤沢」が収録されている。ちなみに、この中で一番矛盾がなく無難なのは「ホームウェイ」。これ以外の表示にするには、PC+プリンタで自作するしかない。
ここまで挙げてきた欠点は妥協できるといえばできるが、一つだけ納得できないことがある。それは・・・
ダミーカプラー・・・だと!?
EXEは「分割併合運転」が特徴の車両だ。模型でも6両・4両を連結させることはできるし、動力車が2両あるおかげでそれぞれ独立して運転もできる。ところが、写真の貫通側先頭車にデフォルトで装備されているのはダミーカプラー。その名の通り、形状だけ模した連結器なので連結できないのだ。
一応、連結できるように連結器パーツは付属するのだが・・・
「ボディマウント伸縮式アーノルドカプラー」ですよね?コレ。なんという本末転倒感・・・
この怪しいカプラーに交換することで連結できるようになるのだが、見た目のリアリティは一気に失せる。連結と見た目、どちらを選ぶかのジレンマがあるわけだが、くどいようだが分割併合が特徴の車両でそんなジレンマを味わったり、パーツの交換を要すること自体どうなのかと。
同社には「マイクロカプラー」というリアルタイプカプラーがあるのだから、それを標準装備しておけばいいだけの話かと思う。カトー、トミックスならば、間違いなく自社のリアルタイプカプラー(KATOカプラー、TNカプラー)を標準装備しているだろうけど、EXEではマイクロカプラーは別売りのオプションパーツ指定されているだけだ(非公式にTNカプラーにも対応している。それについては後ほど)。
「コストを下げるために」マイクロカプラーをオプションにしたという考え方もできるが・・・
左が怪しい付属カプラー、右がマイクロカプラーとなるが、見ての通りベースは一緒でカプラーのみが異なるだけだ。付属カプラーはEXEのために制作したものではないようだが(マニュアルでは違う製品のイラストだったので)、これを見ているとコストダウンになっているかどうか微妙なところで、仮にダミーカプラー+怪しいカプラーのコストがマイクロカプラーより安かったとしても、数百円程度の差ではないだろうか。元の製品が高いので、いまさら数百円程度値上がっても大したことはないと思うが・・・
模型の価格にはダミーカプラー+怪しいカプラーのコストも乗っているわけで、わざわざマイクロカプラーを買わせるための作戦と考えるのは下種の勘繰りですかね?まあ、筆者はTNカプラーに変えちゃったけど。
そろそろ総評としてまとめたい。
筆者は模型がカッコよく見えるには「バランス」が重要だと思っていて、具体的には以下のポイントを満たしているかどうかで決まると思う。
ディテールや考証も重要だけど、それらは基礎があって生きてくるものだ。EXEは連結間隔はいまひとつではあるものの、その他は総じて高いレベルでまとまっていて、基礎が非常にしっかりしていると思った。それが全体的な見た目が良さにつながっているのではないだろうか。
過去のマイクロエースというと、実車に似てなかったり、車高が高くて揃っていないのが相場だったが、EXEは小田急(TRAINS)のしっかりした監修もあると思うが、そうした同社のイメージを完全に払拭していると思う。
いろいろ欠点も書いてきたが致命的なものはないし、総じて満足度が高く、まさに「エクセレント」な製品と言えよう。
筆者は新幹線だけではなく小田急の模型も集めている。これまでも華やかな各種ロマンスカー、アイボリーや銀色(ステンレス)にブルーの帯の一般車。これらを並べたり走らせたりして楽しんでいた。特に2005〜2007年にかけての小田急模型ラッシュにより、コレクションは充実してゆく。しかし、何かが物足りなかったことも確かだった。
そして、今回EXEが発売され、コレクションに並べてみて改めて思った。「ああ、コレだ」と。そりゃそうだよね。ロマンスカーで一番多く見る車両だもん。無いのがおかしかったんだよ。
筆者が小田急で最も好きな9000形と並べてみる。江ノ島線ユーザだった筆者にとって、EXE、9000形、3000形あたりが並んでいるとすごく「それっぽい」雰囲気を感じるのだった。
同車を嫌っていなくて(好きな人はとうに買って存分に楽しんでいることだろう)、小田急の模型をたくさん持っているけど、同車の模型の購入を迷っている人がいるなら。・・・入手して損はないと思う。そして、他の車両と並べてみてほしい。EXEが加わるだけで「現在の小田急」感がグッと出るから。
実車は華がないとか地味とか言われがちだが、模型に関しては華や彩りを与えてくれること請け合いだ。
そして、EXEの模型は走らせることで本領を発揮する。
筆者宅のショボイお座敷レイアウト。ポイントが一つだけ茶色道床なのはミンナニハナイショダヨ。
自動車では「ハーモニック・パールブロンズ」と同系統の色がよくあるが、複雑な形状、プレスライン、そして鉄道より小回りが利き、見る角度もさまざまな自動車だからこそ、色調の変化が出やすいし、立体感を生み出すことができる。しかし、鉄道車両では目の前で刻々と色が変わっていく場面を見ることが少ない。ましてやEXEはシンプルな形状だ。どうしてものっぺりとした地味で暗めの色になってしまうことが多く、そのことが一部から批判される材料になっていることは否めない。
しかし、模型になったものを走らせてみると「刻々と色が変わっていく」のを目の当たりにする。部屋に差し込む日光に反応してギラリと光ったり、フローリングや畳、絨毯の色を映し出したり。見た目にも新鮮で走らせるのが楽しくなってくる。メタリックのボディに黒で引き締めるのは使い古された手ではあるけど、正直見ていてカッコイイ。そう、EXEは非常に模型映えする。
フローリングや畳の上でこれなら、作りこんだレイアウト上ならもっと楽しいのだろうと容易に想像がつく。出不精な筆者ですらレンタルレイアウトに行きたくなったり、自宅にレイアウトを作りたくなるほどだ(スペース的に難しいんですけどね)。
俯瞰した視点でちょこまかと動き回る模型で気づくというのも皮肉な話だが、なぜEXEのデザイナーは「ハーモニック・パールブロンズ」をチョイスしたのか、それで何を表現したかったのかがわかった気がする。筆者は元々この塗装は嫌いではないけど、改めて地味どころか高級感のある「エクセレントな」塗装なんだと再認識した。
飾るだけ・見るだけもいいけれど、この模型はぜひ走らせてみることを勧める。畳一畳分くらいのシンプルなオーバルレイアウトでもかまわない。筆者の拙い言葉よりもずっと雄弁に、その良さを伝えてくれるはずだ。
発売当時の状況からすると、評判・売れ行きともに上々なようだ。ネット上でも評価が高いし、発売日から数日後には都内の割引店では軒並み売り切れか品薄状態に。総本山の「TRAINS」でも、わずか2週間程度で完売したとのこと。EXEは実車に特に話題があったわけではないし、決して安い価格ではないことを考えたら驚異的だと思う。安定供給という点ではこんなに早く品薄になってしまうのはどうかと思うが、相当な人気であることは確かだろう。
Bトレの時も楽天で1位取ってるし、EXEは不人気という意見が「ウソくせー」とか思ってしまう。製品の出来がよいこともあるだろうが、実車に人気や支持がなければ、これだけの売れ行きにはならないはずだ。
東京堂の模型化予告から足掛け10年かかってしまったが、同社から発売されていたらこれだけの出来になっていたかは非常に疑問だ。また、マイクロエースから出るにしても、数年前だったらと思うとやはり不安が残る。小田急(TRAINS)とのコラボが慣れてきた現在に発売されたからこそ、素晴らしい出来になったとも考えられる(さらに精進していただきたいが)。
冒頭で書いたとおり、実車は不名誉な言われ方をすることも多いし、模型化も不遇かつ不運な運命に弄ばれてきた。だが、結果的には素晴らしい出来、高い評価、驚異的な売れ行きとなった。所詮Nゲージと言ってしまえばそれまでだが、一矢報いることができたのではないだろうか。少なくとも筆者はそう思っている。
EXE発売により、マイナーな事業用車等を除けば小田急の過去の車両はほぼすべてNゲージで出揃ったことになる。今では入手困難だったり、製品が古すぎて現在の水準ではイマイチだったりでリメイクしてもらいたい形式も存在しなくはないが、ひと段落したことは確かだろう。
小田急は新型のロマンスカーが出ると、その時点で現存の歴代ロマンスカーを並べて記念撮影を行うことで有名だが、筆者もやってみた。引退車両も並べられるのは模型の特権。これほどの並びは、本家でも簡単にはできないはずだ。
左から
SEの前にもロマンスカーと呼ばれる車両があって、それらも並べられたら最高なのだが残念ながら入手しやすい製品がない。機会があれば、キットでも改造でも用意してみたいものだ。
筆者にとってはSSEが最初のロマンスカーである。小学生前の話になってしまうが、「走る喫茶室」で座席まで運ばれてきた紅茶とサンドウィッチは今でも良い思い出だ。こうした幼い頃に体験したインパクトが、筆者をロマンスカー、ひいては小田急ファンにしたといっても過言ではない。そしてそれは、小田急沿線を離れてしまった現在でも変わらない。
現在は新幹線に傾倒している筆者だが、本当に小田急が好きなんだと改めて思った。もうビョーキレベル。こんな風にロマンスカーの模型をずらり並べるのも、Nゲージを始めた小学生のころからの夢だった。今ではもうオッサンになってしまったけど、実現して感無量だ。
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