前述の通り、Nゲージの新幹線を初めて発売したのは学研。現在まで鉄道模型のメーカー数あれど、新幹線のNゲージ製品を発売したことのあるメーカーは以下の5社のみだ。
このうち、学研とエンドウはすでにNゲージからは撤退しているため、現時点で継続的に新製品や再生産品をリリースしているカトー・トミックス・マイクロエースについて、それぞれの特色や大まかな傾向を書いてみようと思う。
正式名称は「関水金属」といい、創始者の名前から「カトー(KATO)」をブランド名とする。日本のNゲージの先駆者的存在であり、日本を代表するNゲージメーカーのひとつでもある。ラインナップは蒸気機関車から新幹線まで幅広く、レールやコントローラーなどのシステムやスターターセット、建物やレイアウト(ジオラマ)用品まで、Nゲージとして必要なものはほぼ網羅している。車両についてはモデリングや品質、走行性能などが高く評価され、熱狂的なファンも多い。
同社の新幹線模型への取り組みについては、前ページでも触れたように1982〜1983年ごろに200系、0系からスタートしているものの、その後はしばらく新幹線模型のリリースはなく、次に発売したのはE1系(1995年ごろ?)だった。JR化で新幹線のラインナップが増えていた時期を考えても、あまり熱心でない時期が続いた。しかし、近年の新幹線人気に触発されたのか、2000年以降は積極的に新幹線をリリース。スターターセットも500系や700系などの新幹線中心のものが増え、相当力を入れるようになったといってよいだろう。結果的に他社に対して後発となる製品が多く、その間の技術的発展を含めると、同じ形式を比較した場合、他社製品より優位に立っていることが多い。
近年はモデル化する際に、特定の編成をプロトタイプにしている(例:N700系ならZ1編成)。模型化時点で比較的新しい編成をプロトタイプにすることが多い。
実車と模型は見え方が違うので、デフォルメというメーカーの「味付け」が重要である。カトーの場合、「味付け」が絶妙な場合もあれば、少々オーバーな場合もあるが、実車に忠実であることよりも、模型としての見栄えを重視する傾向にあると思う。
JR東日本の新幹線の連結機構を再現した「オープンノーズカプラー」、N700系の車体傾斜装置の再現、階下席をシースルーにしたE4系動力車など、見た目に楽しく、技術的にも目新しいギミックを搭載することが多い。
他社が編成両数に応じて動力車を2両入れる場合があるのに対し、カトーは16両フル編成であっても、一貫して動力車は1両のみ。動力車は価格が高いので、結果的に製品全体の価格を抑えることに成功している。反面、走行ステージの条件によっては登坂能力で他社製品に劣る場合がある。
付属品の添付は側面の行先表示ステッカーくらいで、もともと少なめ。最近は「Ready to Run」と称し、買ってきてすぐに走らせられるようにとの配慮から、行先表示などがすべて車体に印刷済みとなっていて、ユーザーが手を入れる余地はほとんどなくなっている。
母体はプラレールなどを発売する玩具メーカーのトミーで、「トミックス(TOMIX)」というブランド名でNゲージに本格参入した。その後は子会社「トミーテック」の1ブランドとなり、タカラと合併し「タカラトミー」となった現在も同様である。トミックスも古くからNゲージに参入しているメーカーで、カトーと同様に車両・レールシステム・建物等をフルラインナップ。製品の品質も高く、こちらも日本を代表するNゲージメーカーのひとつとなっている。
同社は新幹線については最も熱心なメーカーといってよいだろう。カトーと同じく1982〜1983年ごろに発売した200系、0系を皮切りに、100系、300系と、その後も実車の登場に合わせて次々と模型化。その結果、2010年現在ですべての新幹線車両の模型化を実現している(試験車両や試作車は除く)。同一形式のバリエーション展開、旧製品のリニューアルも積極的に行っており、ラインナップは他社の追随を許さない。
その反面、早い時期に製品化したために古い設計の製品が数多く存在し、後発他社の製品と比べると劣勢になってしまうものもある。
一部限定品などを除き、プロトタイプを○○編成と固定化せず、大まかなグループでモデル化。その中からユーザがインレタ等で編成を決定するというスタイルを採っている。
全体的なスケールやシチュエーション(新車出場直後に設定するなど)は実車に忠実な傾向。デフォルメやギミックが少なく地味な印象があるが、基本のモデリング等を重視し、堅実でしっかりとした造りが見られる。
1つの形式を1つの製品だけで終わらせるのではなく、実車にある仕様違いや塗装変更、リニューアル等に合わせて、複数のラインナップを用意することが多い。旧製品のリニューアルも積極的に行っており、限定品の「さよならセット」は同社の名物商品となりつつある。
10両編成以下では動力車は1両だが、12両編成以上では動力車を2両組み込む(1両に選択できるモデルも存在する)。価格が上昇してしまう傾向にあるが、上り坂の多いコースでは頼もしい。通電カプラー(編成全体に給電される)の採用製品は、複数動力車のメリットをより引き出している。
付属の別パーツを取り付ける必要があったり、前述のとおり形式番号などがインレタで表現されているため、ユーザが手を加える必要があり、工作が苦手・嫌いな人には評価が分かれるかもしれない。インレタには「グレードアップ用」と称した、車体各部の細かい表記類も収録されているため、すべて施せばかなり細密なモデルとなる。一方で、側面の行先表示ステッカーなどは伝統的に付属していない。
プラモデルメーカー「有井製作所」がこのブランド名で鉄道模型に参入。現在はNゲージが主流となったためか、社名も「マイクロエース」になっている。実は古参メーカーだったりするが、参入当時は製品もあまりなくマイナーな存在だった。しかし1990年代中頃から復活(?)し、それ以降は怒涛の製品ラッシュで一気に頭角を現した。カトー・トミックスと異なり、製品はほぼ車両のみである。
車両のラインナップは非常に多く、カトー・トミックスも凌駕するほどだが、「他社がやらないもの」を中心としたニッチ路線が特徴。そのため、カトー・トミックスが話題の最新車両を製品化しているのをよそに、少し古めの車両やローカル色の強い私鉄車両を手がけることが多い。当初は供給過多のせいか品質に疑問がある製品が見受けられたが、近年は改善されてきている(ように思う)。
新幹線についても「ニッチ路線」はいかんなく発揮されており、カトー・トミックスが製品化していないものや、製品化していたが長い間生産されていない形式を模型化している。そのため、他社とバッティングの恐れのある最新の形式を模型化することはほとんどなく(というか、新幹線に関してはまったくない)、0系・200系・100系といった国鉄型中心のラインナップとなっている。
余談だが、「プラモデルメーカーとしてのアリイ」は、「シカのフン」や「エリマキトカゲ」、ガンプラのパチもんといった、怪作プラモデルで名を馳せた、ある意味伝説のメーカーでもある(自動車やミリタリーなど、真面目な製品もあったが)。「アリイ」「プラモデル」でググってみるとなかなか面白いネタが出てくるので、興味がある人はどうぞ。
特定編成のモデル化は徹底していて、同社初の新幹線模型は0系の東海道新幹線開業時、東京発1番列車をプロトタイプにするなどこだわりがある。その他のモデルもすべて編成が特定されている。 同社は純粋な再生産がほとんどなく、同じ形式を再度発売する場合は、プロトタイプが変更される場合がある(例:200系リニューアル編成の当初製品はK47編成だったが、後の製品はK41編成に変更)。このため、製品によっては入手困難だったり、プレミアがついたりすることもしばしば。
0系の初期製品は実車に対して似てない部分もあったが、後の200系などでは改善されている。モデリングレベルとしては、最近のモデルはかなり良くなっている気はする。
形式番号など、車体各部の印刷表記類が細かく数多いことが特徴。トミックスの「グレードアップ用インレタ」レベルの印刷が最初からなされているといえる。
動力車の両数の基準はトミックスに準じている。動力車2両の製品はやはり割高になってしまうが、そこは走行性能(登坂能力)とバーターになる。同社の模型はすべてセット売りとなるため、動力車両数に選択の余地はない。
もともと車体の表記類が印刷済みなので、ユーザが手を入れる余地はあまりない。側面行先表示のステッカーは付属している。
在来線模型の場合、メーカー完成品やキット製品のほかに、中小メーカーやガレージメーカーによる細密化パーツや、ステッカーなどが多数発売されているが、新幹線模型はその手の「サードパーティ製パーツ」がほとんどないのが特徴といえば特徴だ。実車が高速走行を行うため外部に露出するパーツが少なく(在来線と異なり手すりなどが極端に少ない)、細密化のネタが少ないこと、サイズが1/160と小さいこと、前ページで書いたようにライトユーザが多く、工作という土壌がほとんどないことがその理由だろう(サードパーティ製品は、基本的には工作を要する)。
唯一、新幹線模型のサードパーティというと、「ペンギンモデル」が挙げられる。行先表示などのステッカーをメインに扱っているメーカーだが、新幹線用のステッカー(側面に貼る行先表示)を積極的に発売している。
メーカー別の特徴の中で「最小通過曲線」について触れているが、トミックス・マイクロエースがR=280mmを通過可能としているのに対し、カトーはR=315mmと条件が厳しくなっている。カトーの模型は連結装置が複雑(ダイアフラムカプラーやN700系のカプラー)なので、曲線条件が厳しいのかな・・・と思ってしまうが実はそんなことはなく、しっかりR=280mmをクリアできるのだ。
一応、カトーのN700系、700系、500系、E3系、0系を連結状態で試したところ、車体断面が丸い500系は少し苦しかったが、どのモデルもR=280mmのS字をクリアできた。ただし、S字カーブは過酷な条件なので、脱線などのリスクを考えると、実際のレイアウトでは避けるべきである。逆にいえば、通常のエンドレスを走らせる程度なら、車両自体がR=280mmを曲がれる以上、まったく問題ないと考えてよいだろう。※2010年12月時点発売済みモデルの話であり、今後発売されるモデルにも適用できるとは限らないので注意。
トミックス・マイクロエースが限界としているR=280mmというカーブは、トミックスのカーブレール「C280-45」に相当する。実車のカーブと比べればケタ違いの急カーブなのだが、直径で560mmなので一畳分くらいのスペースで収まり、家で楽しむにはちょうどよいサイズなので、スターターセットも基本的にこのカーブで構成されている。同社の標準的なカーブレールといってよいだろう。一方、カトーには同等のR=282mmというカーブがあるにもかかわらず、それより一回り大きいR=315mmを限界値としている。なぜなんだろうか。
以下の写真はカーブでのすれ違い中、もっとも車体が接近する場面を撮影したものだ。
カトーのR=282mm+R315mmの複線(カント付)でカトーN700系すれ違い。接触はしていないが、ほとんどマージンがない。
今度はトミックスのN700系すれ違い。やはりスレスレ。
同じカーブでも在来線車両のすれ違いではそれなりのマージンがあるのだが・・・
トミックスのR=280mm+R317mmの複線でカトーN700系すれ違い。カトーのレールと比べるとかなりマージンがある。
Nゲージは実物とはケタ違いの急カーブを曲がるため、車体のはみ出し部分が多い。大型の新幹線車両はなおさらで、そのために実物よりも広い複線間隔が必要となる。具体的にはカトーは33mm、トミックスは37mmとなるが、両社の複線間隔は異なっている。実物の複線間隔を再現すると27mm程度なので、特にトミックスは広すぎてリアリティに欠けるのだが、その分カーブ区間はカトーよりも余裕がある。
結果的にはカトーの複線でも接触はなかったがスレスレであり、なにかの拍子に接触してしまう可能性があるため、安全のためにひとつ外側のR=315mmを最小通過曲線としているのだろう。一方、トミックスの複線はそれなりのマージンは確保しているため、R=280mmでも問題なしとしているのだろう。
なお、写真は載せなかったが、R=315mmとひとつ外側のR=348mmとの複線であれば、上記写真のトミックスには及ばないものの、「まあこれなら・・・」くらいの余裕ができたことを付け加えておく。
実際のシェアはわからないがトミックスのレールも普及しているし、他社の新幹線模型がR=280mmを曲がれる以上、カトーもそれらに合わせて曲がれるようにしていても不思議ではない。それならカトーも最小通過曲線をR=280mmと表記してもいいような気がするが、自社のレールシステムがある手前、「トミックスのC280なら曲がれます」と書けるはずもなく、複線間隔も考慮すると最小通過曲線はR=315mmとするしかなかったのだろう。
結論を言うと、カトーの最小通過曲線は車両ではなくレールシステム側に起因している(+大人の事情?)といえる。逆に言えば、トミックスやマイクロエースの車両をカトーのレールで走らせるときは要注意だ。
カトー・トミックスともに、新幹線向けとおぼしきR=400mm以上の大円のレールを発売しているので、なるべくなら新幹線模型はそれらで走らせるべきかな。大円といっても実物に比べればまだまだ急なカーブなのだが、R=280mm、R=315mmレベルのカーブは新幹線には似合わないと思うし、安全性もかなりマシだと思う。
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