新幹線Nゲージ鉄道模型の概要
1.新幹線Nゲージの基礎

●鉄道模型&Nゲージの基礎

「鉄道模型」とは読んで字の如く鉄道の模型で、詳しくはWikipediaでもどうぞ・・・では話が終わってしまうので(Wikipediaの鉄道模型ページはよくまとまっていると思うので、一読はオススメする)、一応簡単に説明すると、鉄道をモチーフにした「玩具」と異なり、「鉄道模型」はレールの幅や縮尺が規格化されていて、玩具とは比べ物にならないリアリティと精細さを持つものと考えればよいだろう。

連結部分研究1

代表的な鉄道玩具「プラレール」と鉄道模型「Nゲージ」を、九州新幹線800系「つばめ」を用いて比較。プラレールは「プラレール博」でもらったもので、シールの貼り方が雑なのはご勘弁を。


写真のとおり大きさも異なるが、玩具とは違うのだよ玩具とはと言わんばかりに、リアリティでは鉄道模型の方が圧倒的に上である。玩具は幼児が多少乱暴に扱っても壊れない耐久性も重視されるため、車体のプラの厚みがハンパでないし、写真では付いていないが、パンタグラフなども車体に固定されている(突起物が危険とみなされている点もある)。一方、鉄道模型は非常に繊細でリアルであるが、その取扱いは慎重さを要し、乱暴に扱ったら一発でパーである。また、動力もプラレールが車体に電池を搭載し、スイッチのON・OFFの切り替えで走るのに対し、鉄道模型のほとんどはレールから集電し、電圧のコントロールで速度の調節ができるようになっている。

そして、鉄道模型にはレールの幅や車両の縮尺により、いくつか「規格」が存在する。その規格は世界的レベルである程度の互換性があるため、同じ規格の模型であればメーカーや国にかかわらずに走らせ、楽しむことができる。規格に沿ってさえいれば、完全自作の車両を走らせることもできるのだ。いくつかある鉄道模型の中で、欧米では「HOゲージ」が普及しているのだが(日本でもある程度は普及している)、日本では住宅事情が理由だと思うが、「HOゲージ」よりもサイズが小さく、かつ繊細なディテールでリアルな車両を楽しめる「Nゲージ」という規格が最も普及していて、製品アイテム数は他のゲージを圧倒している。

Nゲージはドイツが発祥とされ、その名の由来となったレール幅が9(Nine)mmで、車両の縮尺は1/160が世界的な規格とされている。車両のサイズは1両あたり130〜140mmの手のひらに乗る程度で、走らせたりジオラマの制作には有利なことが(少なくとも日本では)普及した理由であると思う。Nゲージよりも小さな規格も存在していて、スペース的にはさらに有利なのだが、車両が小さすぎてディテールの再現が難しいこともあり、あまり普及していない。

●レールの幅のお話

鉄道はご存じの通り、2本のレール上を車両が走行するが(モノレール等は除く)、レールの幅は何種類もあるわけではなく、世界的にある程度規格が存在している。

世界でもっとも普及しているレールの幅は1435mmで、標準軌と呼ばれる。そして、これより狭いものは狭軌広いものは広軌と呼ばれる。欧米では標準軌(1435mm)が普通であり、それを160で割ればほぼ9mm。Nゲージも海外が発祥である以上、車両の縮尺も標準軌を基準に決められているといってよいだろう。

ところが、日本の標準的なレール幅は狭軌の1067mmで、これは日本に鉄道が開通した当時から現在まで、JR(国鉄)在来線から多くの私鉄がこのレール幅を採用している(イギリスから鉄道が伝わった際に、山岳地の多い日本に向いていたとされる)。鉄道大国といわれる日本だが、実は世界的な標準からは外れているのである(島国なのであまり問題にならなかったのも事実だが)。このレール幅を採用している私鉄はJRとレールをつなげることが可能であり、車両乗り入れしたり、車両メーカーからの新車をJRの線路を使って搬入することができる。

とはいえ、日本でも標準軌(1435mm)を採用している鉄道も少なくなく、このサイトで本題となる新幹線をはじめ、一部私鉄(京浜急行や関西の私鉄)や地下鉄等でも標準軌採用の例がある。レールの幅が広いと高速運転には有利であり、新幹線は1067mmでは成り立たなかったであろう。私鉄でも標準軌採用している鉄道は高速運転を売りにしていたりする。反面、その他に普及している路線(1067mm)に乗り入れができないというデメリット(と思うかどうかは運営者次第だが・・・)も抱えている。新幹線はレールの幅の違いから、在来線とは独立したシステムを構築できたといってもよく、それが新幹線の成功(安全性や定時性、車両にサイズアップによる輸送量増加)につながったともいえる。

ちなみに、標準軌(1435mm)は日本で一番広いレール幅となる。前述のとおり日本では狭軌(1067mm)が主流で、762mm、1372mmというレール幅も存在するが、広軌は存在しない(世界的にはスペインやロシア等に存在する)。

●日本のNゲージ事情

再び話を模型に戻す。Nゲージの世界的な規格はレール幅が9mmで1/160。これはレール幅の世界標準である1435mmがベースになっていると書いたが、1067mmが標準である日本の鉄道においては、少々困ったことになってしまう。1067mmを1/160にすると6.6mm程度で、車体とレールの幅が合わないのだ。逆に9mmを1067mmに見立てて縮尺を決めると車体のサイズは1/120程度となり、他国のNゲージに比べて相当大きくなってしまう。 また、日本にも標準軌採用の鉄道が存在するが、それらを1/120で模型化した場合、今度はレール幅がおかしくなってしまう。

そこで、日本のNゲージはレール幅と車体サイズの関係をある程度妥協することとなった。日本のNゲージのパイオニアであり、現在も代表的なNゲージメーカーである「カトー」がレール幅9mm、1/150を日本型Nゲージとして提唱した。これ以降、他社もこのサイズに準拠し、現在まで日本のNゲージの標準規格となっている。9mmに150をかけると1350mmとなり、1067mmにも1435mmにもどっちつかずなレール幅になってしまうが(1372mmの京王電鉄にはジャストサイズ?)、日本の鉄道事情を考えたらやむを得ず、妥当な措置といえるだろう。

●新幹線Nゲージの縮尺

新幹線は開業時より標準軌(1435mm)を採用しているが、車体サイズも在来線に比べると一回り大きく(新幹線の普通車シートが2+3となっているのはこのため)、在来線とは一線を画す存在となっている。それが理由かどうかはわからないが、新幹線についてはレール幅9mm、1/160という、世界標準に合わせてあるのが特徴である。

連結部分研究3

在来線模型(手前・E231系)と新幹線模型(奥・700系)のサイズ比較。わかりやすいように中間車で比較した。実物のE231系の車体長は19500mmで、模型は1/150で130mm。700系は24500mmで、模型は1/160で約153mm(写真のカトー製700系は152mmとやや短い)。縮尺の小さい新幹線の方が車体が大きく、実物の新幹線がいかに大きいかがわかる。

日本には1/150という標準があるにも関わらず、新幹線はなぜ1/160で模型化されているのだろうか?確固たるソースがあるわけではないので想像でしかないが、在来線との車体サイズの差を小さくしたかったのだろう。

鉄道模型には車両とレールだけではなく、駅などの建物や線路わきのアクセサリー(架線柱など)もあるし、ジオラマにすればトンネル等も作ることになる。仮に新幹線を1/150で模型化すると相当大きくなるので、それらに接触したりして使えなくなってしまう。1/160なら在来線より車体が大きいものの差は小さくなるので、駅などを共通して使うことができる(駅が1/150で作られていたとしても、見た目にも変な感じはしない)。

また、新幹線が在来線から独立している鉄道であることもその理由だろう。基本的に新幹線と在来線が同じ線路を混走することはないから、縮尺が異なっていても問題ないという解釈だ。標準軌鉄道にとって、1/160というのは9mmのレール幅に対して矛盾のない、本来の縮尺でもある。日本で最初に新幹線のNゲージを発売したのは学研だが、その当時から1/160で模型化したのは先見の明があったといえよう。

●ミニ新幹線の場合

新幹線は在来線から独立している鉄道と書いたが、山形・秋田新幹線という例外がある(俗に「ミニ新幹線」と呼ばれる。それに対し、一般的な新幹線は「フル規格」と呼ばれる)。

山形・秋田新幹線とも「新在直通」といい、例えば山形新幹線の場合は東京〜福島までは東北新幹線を走り、分岐点の福島からは奥羽本線に乗り入れ山形・新庄まで走る。しかし、奥羽本線の福島〜新庄間はレールの幅を標準軌(1435mm)に変更しているだけで、設備は在来線そのもの。踏切も残ってるし、最高速度も130km/hまで。

要するに、新幹線が在来線を走っていることになる。

在来線を走る以上、車体も在来線サイズである必要があり、結果的にフル規格車両より小さい車両となることが「ミニ新幹線」と呼ばれるゆえんである。新幹線車両なのに在来線を走る。在来線サイズなのに新幹線を走る。在来線内では他の在来線車両と混走することもある・・・と、ややこしいミニ新幹線車両だが、結論としてはこれも1/160で模型化されている。

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前述の写真にミニ新幹線(E3系・カトー製)中間車を手前に置いてみた。実物のE3系中間車は20500mmで、E231系の19500mmよりやや長いはずだが、縮尺により短くなっている。また、同縮尺の700系とはかなり差があるが、これがフル規格とミニ新幹線の差である。

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700系(左)の実車は3380mm、E231系(中)、E3系(右)は共に2950mm。1/160にしても700系は幅が広いが、この程度の差なら駅などを在来線と共用しても問題ない。E231系とE3系は実車は同じ幅だが、模型では縮尺によりE3系の方が狭くなっている。


ミニ新幹線もやはり、新幹線車両に属するということで1/160なのだろう。そしてなにより、現状ではミニ新幹線はフル規格新幹線と分割併合運転を行っていることも見逃せない。模型でも山形・秋田新幹線向けの車両は例外なく連結装置を備えていて、連結して走らせることができるのが売りになっている。特に山形新幹線は(2010年現在)オール2階建てのE4系が連結相手であり、ミニ新幹線である400系やE3系との車体のサイズ差も見ものとなっている。縮尺をそろえなくては、そうした点もスポイルされてしまうだろう。

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左は大宮駅に進入する400系+E4系。手前の400系の車体の小ささと、奥のオール2階建てE4系の差が目立つ。


在来線走行時を考えると、他の在来線車両(1/150)と縮尺が合わないことになるが、並べるだけならそんなに違和感のある縮尺差でもない。それよりは新幹線車両であり、ましてやフル規格車両と併結することを考えれば、1/160で模型化されているのも納得できる話である。

余談だが、現在建設中の北海道新幹線が開通した場合、青函トンネルとその前後は新幹線と在来線の供用区間となるため、新幹線は在来線から独立した存在ではなくなっていく・・・のかもしれない。ただ、これらは東日本や北海道方面の話で、西側の新幹線にはこの手の計画はないようだ。供用区間なんてシチュエーション的にマニアックだし、在来線は1/150、新幹線は1/160という規格は、この先も変わることはないだろう。