1300形
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鉄道コレクション デニ1300形 レビュー
鉄道コレクション デニ1300形 レビュー

2012年8月3日、「鉄道コレクション・小田急デニ1300形」が発売された。前作のキハ5000形と同様、トミーテック製だが小田急電鉄(TRAINS)名義で発売されている。

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小田急荷電の車体色(赤13号)をモチーフにしたパッケージに、キハ5000形同様に郷愁を誘うモノクロ写真のパッケージ。今回は専用の動力ユニットも同時発売されており、車両が2,500円、動力ユニットが3,350円。合計5,850円となる。

パッケージ写真部分の裏側は実車の解説となっており、車両はブリスターパックに収納されている。

●実車について

デニ1300形は荷物(特に新聞)輸送で活躍していた車両である。実車について解説しているサイトや書籍はいくつかあるので、ここでは簡単に説明するにとどめる。

この車両のルーツは小田急開業時(1927年)に存在したモハ151形にある。戦後、東急から独立分離した際に1300形となり、一部が他形式に編入されたり、逆に他形式からの編入があったりとややこしい経緯をたどるのだが、1959〜1960年(昭和34〜35年)に車体更新を受け、その際に1301〜1304の4両にフィックスした。

このときの車体更新で、アルミサッシ化された客用窓がズラリと並ぶ近代的な外観となったほか、1.5m幅の両開き客用扉が装備された。試験的な要素もあったそうだが、片開きの客用扉が主流の当時では異彩を放った存在だったに違いない。小田急では後年、1000形などのステンレス車にワイドドアを導入したりしているが、その元祖といえるかもしれない。余談だが、1.5m幅といえば1000形ワイドドア車(1700形)の先頭部の扉もその幅だったなと。

昭和40年代に入ると小田急では沿線人口が急増。輸送力の強化が求められることになり、小型の車体である開業時からの車両(1300形も含め「HB車」と呼ばれる)は、大型車の4000形にモーター等を提供するドナーとなり軒並み廃車となっていくが、1300形は廃車を免れた

1300形は両運転台なので旅客輸送でも弾力的な運用が可能だったが、1.5mの幅広扉は使い勝手がよかったのか、荷物輸送、とりわけ新聞輸送に駆り出されることが多かったため、幸いにもそっちの用途で生きながらえることができたのである。そして1969年(昭和44年)、「デニ1300形」に形式変更され、正式に荷物輸送専用車となった。

当初は旅客時代と同じ茶色1色だったが、1971年(昭和46年)にローズピンク(赤13号)に塗装変更。その2年後に白帯が追加され、当ページで紹介する姿に近づいていく。その後も1974年(昭和49年)に列車無線アンテナの装備、1976年(昭和51年)に廃車となった2100形から台車や制御装置を譲り受け、ヘッドライトが2灯化されるなど少しづつ外観が変化。その塗装から小田急の車両の中でも異彩を放っていた存在であり、沿線でもなかなかお目にかかれないレア車でもあった。

筆者が小学生の頃(歳バレます)、同形式を何度か見る機会があった。実車の写真なんかないだろうなと探していたら、どうも偶然撮影していたようだ(自分でもビックリ)。画質も構図もよくないけどちょっとだけ紹介。

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左は小田原駅の東海道線ホームから撮影。当時の小田原駅は国鉄と線路がつながっており、デニは国鉄ホームまで荷物の受け取りに入線することもあった。小学校高学年くらいの時にインスタントカメラ(「写る○です」じゃないよ)で撮影した写真だろうか。

右は江ノ島線長後駅にて。当駅には(確か)荷電用ホームがあり、江ノ島線ユーザだった筆者はそこでデニを見かけることが多かった。黒地の駅名板、ベンチ形状、そして左上の沿線案内には今は亡き「横浜ドリームランド」の文字・・・懐かし杉。

長らく活躍していた同形式だが、小田急では1984年(昭和59年)に新聞輸送が廃止となり、活躍の場を失って廃車となった。1両のみしばらく保存されていたが、最終的には全車解体され現存車両はない。車体更新や機器の換装はあったものの、開業時からの車両が50年以上走り続けたことになる。小田急の中でも屈指の長寿命車でもあった。

●製品概要・各部レビュー

「鉄道コレクション」シリーズの例にもれず、車輪がプラスチック製でそのままでは走行はできなかったり、パンタグラフも簡易なプラ製の固定式だったりするが、別売りの動力や走行用パーツを使用することで(後述するが、今回は専用品が用意されている)「Nゲージ化」することができる。

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ヘッドライトが2灯化され、台車が2100形譲りのFS14に交換された、最終形態をプロトタイプにしている。一応、パッケージの説明文には1304を参考にしたとのこと。この写真は後述の走行用パーツを組み込んでいる。

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セット内容は車両2両とステッカーのみ。キハ5000形では台車レリーフやディスプレイ用レールも付属していたが、今回はえらいシンプルな構成となった。

台車レリーフは動力ユニットに付属しているし、レールも個人的には使わないので無くても困らないのだが、内容物は減っているのにキハ5000形より若干値上げ(200円)されているのが気になる。鉄道コレクションは中国製だが、やはり人件費高騰の影響を受けてしまっているということだろうか(マイクロエースに比べたらカワイイものだが)。鉄コレは安さも魅力なわけで、今後も現在レベルの価格を維持してもらいたいものだが・・・


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実車は色あせてくたびれた感じのローズピンクだったが、この製品では鮮やかな色を見せてくれる。これに白帯が加わるだけで「小田急の荷電」という雰囲気は十分。

連結器(カプラー)はアーノルドカプラーとダミーカプラーがそれぞれ装備されている。また、車番は印刷されておらず付属のステッカーで表現する。ステッカーでは不満がある場合、グリーンマックスのインレタから拾って再現しよう。

ステッカーには1301〜1304の4両分含まれているが、1301はいろいろな写真を見ても(前掲の小田原の写真は1301)、正面貫通扉の窓が少し小さいという特徴があるため、こだわるなら1302〜1304にするのが妥当かもしれない。


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左の車両は車体傾斜装置を搭載しているわけではなく(w、床下機器のパーツにあったバリによって傾いてしまっているだけである。バリを取り除いたら傾きは直った。

すでに絶滅してしまった「小田急顔」を持つが、1300形は全体的に顔のパーツが寄り気味でバランスがあまりよくなく、ブサカワな雰囲気を漂わせていたのだが、模型では若干整った印象。

キハ5000形同様に両運転台で、それぞれの正面でステップやパンタからの配管の有無を作り分けている。ただし、パンタ側の正面にあったジャンパ線は省略されている。また、これもやむを得ないが貫通扉横の手すりも簡単なモールドで済まされている。


個人的に違和感を感じるのが行先表示機の位置。実車はもうちょい高い位置にあるが(表示機の中心は白帯の中心よりも上にある。前掲の実車写真参照)、模型では低い位置にあることでバランスがよくなってしまい、「ブサカワ感」がいまひとつ。貫通扉のドアノブのモールドが原因かなと思って気付いたのだが、ドアノブの位置も左右逆じゃない?当形式を含め、小田急の貫通扉のドアノブは正面から見て右側にあるのに。

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特徴的な1.5mのワイドドア。実車ではドアの中心やや上あたりに荷電用途ゆえの銀色の手かけがあったが当製品では省略。ディテールアップするなら、そこをやると効果的か。

台車は実車のFS14ではなく、同じく鉄道コレクション製品が存在する名鉄5200系用のFS315で代用されているが(クレーム対策か、パッケージにも記載されている)、外観は非常に似ており十分許容範囲。クロスポイント(グリーンマックス)からもFS315台車が出ているが、それよりもFS14に近い気がする。

余談だが、筆者は鉄コレの2220形から2100形を作るつもりでクロスポイントのFS315を確保していたのだけど・・・正直、こっちの台車の方がいいですね。


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屋根上のランボードやベンチレータなどは全て屋根板と一体モールドという鉄コレ仕様。パンタも軟質プラ製の固定式という簡易なもので、Nゲージ化するならやはり交換したい。TRAINS公式ブログではトミックスのPT42(LSE用)が推奨とのこと。

ヘッドライトもやはり鉄コレ仕様で点灯しないが、別パーツなので簡単に外せるようになっている。他のモデルから流用すれば、1灯ライト時代の再現も楽にできそう(台車も交換するように)。


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パンタなし側の先頭部を見る。こちら側の屋根には列車無線アンテナがあるはずだが省略。再現するなら他製品のパーツを流用するしかないだろう。

行先表示機の位置が低いと書いたけど、出っ張り具合も足りない気がする。以前鉄コレで発売されたFM系や1800形はもう少しボリュームがあったような。顔の違和感はそれも原因かもしれない。


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パンタがある方が新宿寄りで、上が山側、下が海側。サイドビューを見て思ったのは、車高が低くてプロポーションが非常に良いこと。個体差はあるかもしれないが、ボディ下端とレール面との間隔を計測したところ6.3〜6.8mmくらいで、6.3mmといったら車高の低さが光るマイクロエースの「EXE」と同等の数値。そりゃ良く見えるわけだ。

側面のサボ受け(広告枠ともいわれている)の表現がないが、実車はある車両とない(撤去された)車両があったようだ。いろいろ写真を見た結果、末期の1984年時点では1303・1304にはなく、1301・1302にはあった模様。当製品は1304がプロトタイプらしいので、表現しなかったのだろう。側面には「OER」の文字だけが印刷されていて、車番は自分で貼る必要があるが、1303+1304にするのが一番妥当かもしれない。

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各パーツの構成も、基本的には鉄コレでおなじみの構成となっている。ただし、今回は屋根板がビス止めになっている。


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動力ユニットは16m級を使うことになるが、当製品は台車軸距が1.6mmと長いため、現状では対応できる動力ユニットがない(16m級は軸距1.4mmしかラインナップがない)。20m級動力ユニットには軸距1.6mmのものがあるので、台車を流用すれば使えるようになるが、交換作業が必要な上に不経済だ。

そこで、今回はデニ1300形用に16m級+軸距1.6mmを組み合わせた専用動力ユニットが用意された。FS315の台車レリーフのほか、1両分の走行用パーツ(金属車輪やウエイト)、その他ショートパーツが同梱されており、2両分まとめて走行化できる合理的な内容となっている。


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動力ユニットをインストールしてみたが、プロポーションの良さがそのまま維持されていてすばらしい。床下機器裏のグレーや車内のウエイトは黒く塗ってやった方がよさそうだ。定評のある鉄コレ動力だけに、走りも静かでスムーズ。

作業は非常に簡単で、床下を外しアーノルドカプラーを台車に取り付ける程度。床下スペーサーはダミーカプラーならば「S」を使う。トレーラー車は金属製車輪に交換し、カプラーも交換。床下と座席パーツの間に金属ウエイトを挟み、組み立てるだけでよい。カプラー用のスペーサーは超ミニレイアウトを走らせるのでなければ、使わなくても問題ない。

台車レリーフはFS315のほか、DT10、KS33が付属しているが、どちらもデニ1300形が装備したことはないので、なぜ付属しているのかは不明。なんらかの改造用のオマケと考えた方がよさそうだ。

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Nゲージ化してみたが、やはりパンタも交換したほうがよさそうだ。連結間隔は標準のアーノルドカプラーだと広いが、走行パーツに付属のものに交換すると常識的な間隔になる。TNカプラーにも対応しているので、さらに連結間隔を縮めることができる。

開業当時からの車両がベースなので車体が短く、連結させて2両編成にしてもこじんまりとしている。トミックスのミニカーブレールを使った小型レイアウトでも、問題なく走ることができるだろうし、サマになると思う。

●総評

鉄道コレクションは商品特性上古い車両との相性が良く、前作のキハ5000形と同様、今回もその特性を活かしたといえよう。一方で簡易な製品であるため細かい部分での不満はあるし、特に顔は実車に対して若干違和感を感じなくもないが、改造・グレードアップが前提と割り切れば、プロポーションなどの基本はしっかりしているので妥協できるかと思う(鉄コレは改造するためにある!という筆者の考えは極端すぎるか・・・時間なくて全然できてないけど)。

同形式のNゲージはこれまで金属製のキットは存在していたが、入手性や工作の難易度から万人向けとは言い難かった。今回、鉄道コレクションで発売されたことで、ちょっとマニアックな車両ではあるけど、ようやく誰もが手軽に入手でき、楽しめるようになったといえるだろう(誤解のないようにいっておくと、金属製キットは組む人間の腕にもよるが、鉄コレよりもシャープで精密に仕上げることが可能であり、今回の鉄コレによりその価値が下がったとは微塵も思っていない)。

小田急の古い車両にはまだまだ魅力ある車両が沢山ある中、個人的には「えっ、デニ1300形?」という意外性もあることはあったが、滅多に見かけないレア度、独特な塗装で異彩を放っていた存在感を考えたら、やはりスルーできない重要車両であることには違いない。製品化されたことを大いに歓迎したい。


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